読書通信2016年12月号

■ イトマン事件が経済界を揺るがしてからもう26年になる。事件の陰の中心人物だった著者が克明なメモによって執筆した国重惇史『住友銀行秘史』講談社、1944円)はここまで書いていいのかと思われるほど関係者の言動を赤裸々に再現している。イトマンの河村良彦社長を住友銀行が全くコントロールできなかったのはなぜか。住銀の磯田一郎会長はどのように考え動いたか。著者は張り巡らした人脈により主要人物の電話・面談の時間や内容までつかんでいる。面白さでは今年随一かもしれない。
著者がいちばん追及したかったのは、老いとスキャンダルに身動きの取れない磯田会長に対してなお、顔色をうかがうばかりで主体性を発揮できなかった経営陣の無責任さである。サラリーマン経営者の保身はいつの時代にも経営を誤らせかねないことを痛感させられる。だがかつて、これほど執拗に追求した著者の真の動機はなんだったのか。文中、「住銀を愛したから」とあるが、本当か。本書に登場する新聞記者に「むしろ義憤だった?」と尋ねたら「そうだったかもしれない」という返事だった。
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編集後記2017年1月号

【編集後記】 昨年末にトルコとドイツで相次いでテロ事件が発生しました。これによって一段と新年の世界が保護的かつ排外的にならないことを願うばかりです。
テロの背景についての報道機関の解説は、どれもこれまでの繰り返しで、あまり参考になる情報はありませんでした。これについては、11月の講演会で池内氏がお話になった「ジハード」が世界に拡散するテロを理解するキーワードとして重要ですし、インターネットの普及も世界を変えてしまいました。
次号は、榊原英資氏「2017年の世界と日本」、田中明彦氏「戦後日本の国際協力と今後の展開」、嶋中雄二氏「2017年日本経済の展望」を掲載予定です。

編集後記2016年12月号

【編集後記】 国会における憲法改正論議が始まりました。思考停止ではなく、とにかく正面から論議がなされることはいいことです。論戦の入り口で扉を閉めるのではなく議論を行うことを決めた野党も正解であったと思います。改憲の是非はともかく日本国憲法をまずしっかり読み込み、本当の意味での理解を深める必要があります。その意味では70年近くも日本国の規範であり続けた憲法の具体的な問題点を指摘するのではなく、成立の経緯が押しつけであったから書き直すべきだという議論を繰り返す自民党の議論はまったく論戦の糸口にはふさわしくありません。
次号は、翁邦雄氏「日本経済に必要な経済政策を考える」、浜矩子氏「グローバル経済の近々未来――あの角の向こう側にあるもの」、池内恵氏「混迷する中東情勢を展望する」、山田孝男氏「皇位継承と政権、報道について」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年1月号 No.815

2017年1月号目次

日本経済に必要な経済政策を考える
京都大学公共政策大学院教授               翁 邦雄

グローバル経済の近々未来-あの角の向こう側にあるもの
同志社大学大学院教授                            浜 矩子

混迷する中東情勢を展望する
東京大学先端科学技術研究センター准教授
池   内  恵

皇位継承と政権、報道について
毎日新聞政治部特別編集委員                山  田 孝男

〔談話室〕  映画雑感6                         柴  生 田    晴 四

〔会員の広場〕  こども食堂                  安 間 孝 信

経済倶楽部便り

読  書  通  信(No.143)

バックナンバーのご案内/編集後記

経済倶楽部講演録2016年12月号 No.814

2016年12月号目次

僕はミドリムシで世界を救うことを決めました
株式会社ユーグレナ代表取締役社長
出 雲 充

内外の経済・金融政策はこれからどうなるのか?
みずほ証券チーフマーケットエコノミスト
上 野 泰 也

『本当の冷戦後』が始まった日米関係を展望する
東京大学政策ビジョン研究センター講師
三 浦 瑠 麗

ウォール街が観る米国大統領選挙と日本経済への影響
米国弁護士                                                     湯 浅  卓

〔談話室〕報道の歪み                                       柴生田晴四

〔会員の広場〕はじめての入院                      荒 川  太

経済倶楽部便り

読  書  通  信(No.142)

バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2016年11月号

■ 憲法は「国民の権利」ばかりで「国民の義務」についての規定が少ない、という論者が(特に日本会議周辺に)多い。だが、そんなことはないだろう。なぜなら憲法とは、国家権力が勝手気ままに振舞うのを阻止するための「国民による、国民のための、国民の法律」だと思うから。だがその割に、われわれは憲法を十分に使いこなしていないような気がする。
そんな思いにぴったりの木村草太『憲法という希望』講談社現代新書、820円)は平易で読みやすい憲法入門書である。立憲主義という言葉を上滑りさせぬよう、本書で法の精神とか法と行政の関係について知ることが大切だと思う。具体論としても、夫婦別姓の考え方や辺野古移設と地方自治など、新鮮な視点を得ることができた。後半の対談ではNHK「クローズアップ現代」でおなじみの国谷裕子氏がうまく論点を整理して興味深い答えを引き出している。権力の暴走を防ぐために、国民各自が憲法を理解し、声を上げ、憲法学者をもっと活用すべきだ、というのが著者の言いたいことである。

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編集後記2016年11月号

【編集後記】 沖縄県警の警備を支援するために派遣された機動隊員の暴言が問題になっています。「土人」「支那人」といった時代がかった差別用語が今の時代に吐き出されることも驚きですが、それを口にする機動隊員のまるで暴力団かと見まがう悪相には開いた口がふさがりませんでした。米軍専用施設の74%が沖縄県に集中している現実と太平洋戦争末期に20万人の県民が犠牲となった歴史を日本人は共有しなければなりません。基地警備の第一線に立つ公務員にその事実を教育することは政府の責務です。また、沖縄県民の感情を逆なでするような行為は在日米軍の存立を危うくし、日米同盟そのものを損なうことになることにも思いを致すべきでしょう。次号は、出雲充氏「僕はミドリムシで世界を救うことに決めました」、上野泰也氏「内外の経済・金融政策はこれからどうなるか」、三浦瑠璃氏「『本当の冷戦後』が始まった日米関係を展望する」、湯浅卓氏「ウォール街が観る米国大統領選挙と日本経済への影響」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2016年11月号 No.813

2016年11月号目次
認知症を知る
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター神経内科診療部長
鈴木 正彦
日本経済の見通し-アベノミクスの帰結は?
BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野 龍太郎

政治の季節の到来-中国の政治動向
東京大学大学院教授 高原 明生
熊本地震の意味するもの-南海トラフ巨大地震との関係は?
東海大学教授、海洋研究所長 地震予知・火山津波研究部門長
長尾 年恭
〔談話室〕「復興五輪」はどこに行ったのか      柴生田晴四

〔会員の広場〕  ゼノフォビアから”合衆”の仲間入り  岸田 勇二
経済倶楽部便り
読書通信(No.141)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2016年10月号

■ スタンフォード(MBA)、国連、外資系証券、OECD(東京センター長)という華々しいキャリアの割に表紙には若々しい女性の写真…に引きずられたわけではなく、書名につられて買い求めた。村上由美子『武器としての人口減社会』光文社新書、799円)は外国暮らしの長かった著者が、外から見た日本の強みと問題点の両面に光を当てた本である。
強みというのは国民の学力、良質の働く力で、中高年社員の質は極めて高く、年齢を問わず女性パワーも世界がうらやむほどという。だが問題は、その潜在力が十分に生かされていないことで、彼らの就業率を高め、活躍してもらうためのさまざまな提言をしている。起業化率、女性活躍率、労働生産性など国際的に日本が低レベルなことはよく知られているが、少子高齢化の日本だからこそ打開するチャンスがあるというのが著者の言いたいことだ。「現在の職業に就くのに必要な学歴より、本人の最終学歴が高い就業者の割合」がOECD中、最高であるとか、国際比較の図表が多くて参考になる。
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編集後記2016年10月号

【編集後記】 リオ・オリンピックの余韻もそろそろ薄れてきましたが、一時はテレビも新聞もオリンピックが幅をきかせて一般のニュースは肩身が狭いようでした。今回の大会では日本選手の予想を上回る活躍が盛り上がりを大きくしたと言えるでしょう。その中で片仮名名を持つ日本選手の活躍も目立ちました。日本社会の多様性を示すものとして歓迎すべき現象でしょう。しかし、開催直前情報をレポートした某局の番組でキャスターが「純粋な日本人名の選手がほしい」と口走ったのには驚きました。さすがに周囲の人たちは完全無視でしたが、これは差別丸出しの発言です。民進党の蓮舫氏の「二重国籍」問題についても同様の臭いが濃厚です。偏狭な国粋主義は日本人を貶めることにしかなりません。
次号は、鈴木正彦氏「認知症を考える」、河野龍太郎氏「日本経済の見通し――アベノミクスの帰結は?」、高原明生氏「政治の季節の到来――中国の政治動向」、長尾年恭氏「熊本地震の意味するもの――南海トラフ地震との関係は?」を掲載予定です。