読書通信 2018年2月号

■ 安倍首相が憲法改正でクセ球を投げたことに護憲派はどう対応すべきだろうか。戦力不保持や交戦権の否認を規定した9条2項を削除するという従来の主張は取り下げ、単に自衛隊を付記することで自衛隊を日陰の身から救い出そうというだけのことだと安倍首相に言われれば、反対はしにくい。であれば、改憲論議はすっかり自民党ペースになる可能性がある。
 松竹伸幸『改憲的護憲論』(集英社新書、799円)は、改憲を認める形で自民党案に対峙しようとするユニークな憲法擁護論である。災害救援と専守防衛の自衛隊という現実に立ち、護憲派は守勢一方から抜け出すべきだ、として、平和憲法の精神を尊重しながら現実に即していこうとする著者の問題意識は斬新である。「共産党は憲法・防衛論の矛盾を克服できるか」と題する一章は流し読みしてしまったが、全体を通じて著者の危機感がひしひしと感じられた。
■ 代わって少し柔らかい本を。といってもテーマは重い。老老介護の実録本、阿井渉介『愛と憎しみ 奇跡の老老介護』(講談社、1620円)は、71歳の息子と100歳の母親の物語だ。痴呆が進む寝たきり母親の下の世話までする息子は、最初こそ腹立たしい壮絶な毎日に明け暮れるが、ある日、心を入れ替え発想を変えての親孝行に転じてみると、風景が一変。親子のとんちんかんな会話がむしろ楽しくなってくる。
シナリオライターである著者の筆は冴えわたり、深刻な話がすっかりユーモア小説の趣に一変。自分にはこんな介護ができるだろうかと思ってしまった。書名と異なり、憎しみどころか愛情あふれる介護日記として多くを学ぶことができる。親子に限らない。夫婦の老老介護にも大いに参考になるはずである。 続きを読む »

編集後記2018年2月号

【編集後記】 冬季五輪平昌大会では、開催間近になって突然参加を表明した北朝鮮の動向が注目を集めました。参加選手が20人程度なのに派遣人数は応援団230人を含めて500人規模になり、その派遣費用を韓国が負担することになりました。開会式には韓国と北朝鮮の選手が統一旗を掲げてともに行進するとということは、もともと一つの国なのだから、費用負担も当然なのかもしれません。しかし、北朝鮮と韓国の蜜月が北朝鮮の非核化につながるという幻想は全く論外でしょう。
次号は、藤原帰一氏「ポピュリズムをどう考えるか」、吉川洋氏「2018年日本経済の課題」、田中秀征氏「保守本流と自民党本流」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2018年2月号    No.828

2018年2月号目次

2018年への視座
(一財)日本総合研究所会長     寺 島 実 郎

トランプ以後の世界はどこへ行くのか
―連欧連亜のすすめ
筑波大学名誉教授     進 藤 榮 一

2018年日本経済の展望
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長
嶋 中 雄 二

〔談話室〕3%賃上げ要請の危うさ            柴生田 晴四
〔会員の広場〕 世界遺産と昆虫と山野草       外 山 興 三

経済倶楽部便り
読書通信(No.156)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信 2018年1月号

■ 恒例により昨年1~12月号で紹介した47冊の中からベストテンを。ジャンルが偏らぬよう心掛けた点と面白さを優先した点をお断りしたい(順不同、数字は月号)。永野健二『バブル』①、瀬木比呂志『黒い巨塔 最高裁判所』①、吉田敏浩『日米合同委員会の研究』②、水島治郎『ポピュリズムとは何か』③、竹内早希子『奇跡の醤』③、植松三十里『雪積もりし朝』④、前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』⑧、孫崎亨『日米開戦へのスパイ』⑨、坂野潤治『帝国と立憲』⑩、奥野修司・徳山大樹『怖い中国食品・不気味なアメリカ食品』⑪。ほかに文学では門井慶喜『銀河鉄道の父』⑫、話題性では青木理『安倍三代』③も捨てがたい。
■ 加計事件は役人の忖度の問題にすぎずそろそろ幕引きか、という見方が増えているように感じる。しかし森功『悪だくみ』(文藝春秋、1728円)を読むと、これは根の深いスキャンダルだと思わざるをえない。掘り起こされていく事実に押され一気に読み終えた。安倍首相と加計理事長が「腹心の友」以上の友であるという圧倒的な証明に加え、下村博文・萩生田光一両氏と加計とのずぶずぶ感はすさまじい。さらに下村・加計・安倍各夫人たちの異常な親密さが事件と深くかかわっていることが明らかにされる点も重要だ。問題をうやむやにさせないためにも広く読まれるべき本と思う。 続きを読む »

編集後記 2018年1月号

【編集後記】 大相撲はもうすぐ初場所が始まります。暴行事件を相撲協会がどのように総括するのかが気になりますが、恐らく通り一遍の結論でしょう。とても白鵬の言うような「膿を出し切る」ことにはならないでしょう。それよりも気になるのは横綱の権威の低下です。現役力士のトップに君臨する白鵬は土俵上の取り組みにおいて度々「厳重注意」を受けています。横綱としてふさわしくないという以前に危険な行為やしてはいけない審判へのクレームなど明らかなルール違反が近年目立っているのです。サッカーであれば警告が重なれば退場になるという明確なルールが確立しています。そうでなければ、違反行為はやり得と言うことになるでしょう。
次号は、寺島実郎氏「2018年への視座」、進藤榮一氏「トランプ以後の世界はどこへ行くのか」、嶋中雄二氏「2018年日本経済の展望」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2018年1月号    No.827

2018年1月号目次

ポピュリズムの時代なのか
―岐路に立つ現代デモクラシー
千葉大学法政経学部教授 水 島 治 郎

第19回党大会後の中国
東京大学大学院法学政治学研究科教授 高 原 明 生

文系軽視・理系偏重は日本を滅ぼす
京都大学名誉教授 佐 和 隆 光

〔談話室〕        映画雑感8                柴生田 晴四
〔会員の広場〕    「ハム」の話                  丸 本 正 人

経済倶楽部便り
読書通信(No.155)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年12月号

■ トップに小説を取り上げるのはいかがかと思うが、門井慶喜『銀河鉄道の父』講談社、1728円)は今年屈指の秀作と思うのでまず紹介したい。宮沢賢治についてはあまたの著作、研究がなされているが、質屋業で成功した父親から見た賢治への微妙な思いと、それに対する賢治の複雑な心境と揺れる言動というまことに新鮮な切り口を準備した時点で、本書の成功はほぼ決定的となったと言ってよかろう。
賢治は高等農林でも卒業後も勝者ではなかった。それを見守り誘導しようとする父の存在は、賢治にとってありがたくもありわずらわしくもあったらしい。父の愛情が大きければ大きいほど賢治の苦悩と葛藤もまた大きくなる。そして、突如として奔流のように生まれ出始めた数々の名作。とはいえ売れない作家のまま賢治は病に倒れる。経済書もいいが、時には優れた文学書で頭と心をリフレッシュさせてはどうだろう。
■ これはビジネス書なのだが、唐池恒二『本気になって何が悪い』PHP研究所、1836円)は微苦笑小説の片鱗も垣間見られ、前著『鉄客商売』で見せた筆力はますます快(怪)調だ。「ななつ星」などJR九州の話題度を劇的に高めた(だけでなく経営も成功させた)著者は今、JR九州会長。三島(三等)鉄道としてスタートしたJR九州は本気度がすごかった。
海に目を向けた韓国航路開設、外食事業進出と東京出店(赤坂の「うまや」)、鉄客商売のさらなる推進など、九州の魅力を高めながらしつこく事業を多角化、高度化していく様が描かれる。文章はユーモア(というか駄じゃれ)満杯で、笑ったり感心したりしながら経営の奥義を学ぶに格好の書である。 続きを読む »

編集後記2017年12月号

【編集後記】 総選挙の結果について、メディアには、「自民党圧勝」とか「自民党大勝」という言葉が溢れましたが、果たしてそうでしょうか。議席数では前回並みでしたが、比例区の得票率をみる限り、とても圧勝とか大勝と呼べる水準ではありません。これで改憲を始めとした俄か仕立ての公約のすべてがお墨付きを貰えたと考えるのはお門違いというものでしょう。とりあえず国民は政権運営を安倍政権にゆだねましたが、それは現状ではそれ以外の選択肢がなかったからです。しかもこの結果は違憲状態の一票の格差に助けられたものであることを見逃してはなりません。次号は、水島治郎氏「ポピュリズムの時代なのか:岐路に立つ現代デモクラシー」、高原明生氏「第19回党大会後の中国」、佐和隆光氏「文系軽視・理系偏重は日本を滅ぼす」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年12月号    No.826

2017年12月号目次
政治の面白さ、怖さ
朝日新聞政治部編集委員                        曽 我 豪

北朝鮮核危機と日本
東京大学政策ビジョン研究センター講師
三 浦 瑠 麗

柳田・石橋の農政論と農業改革
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
山 下 一 仁

完全雇用なにのなぜ追加財政、金融緩和を続けるのか
BNPパリバ証券チーフエコノミスト  河野 龍太郎

〔談話室〕              「法の下の平等」の危機
柴生田 晴四
〔会員の広場〕蝶を呼ぶ庭                      高田 英生

経済倶楽部楽部便り
読書通信(No.154)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年11月号

■ 環境史観をご存じだろうか。私見によれば地球環境を歴史的に探ることによって文明の特質を解明し、歴史的視点に立った生き方を提示する学問である。その基本には環境考古学があるが、その第一人者による大著、安田喜憲『人類一万年の文明論』東洋経済新報社、2592円)は業界紙に長期掲載された時評から成る。
『一神教の闇』『稲作漁撈文明』『山は市場原理主義と闘っている』など著者の名著のエッセンスに再三、言及しつつ、グローバリズムと市場原理主義を厳しく論難している。一方で、自然と共存するアニミズム文明、資源循環利用、森を守る島国根性、地震予知のための年縞研究、防潮堤より防潮林など話題は多様に広がる。物質文明偏重やマネー至上主義から離れて自然との共生を考えたい人には格好の書である。
■ 個人的には中国・アメリカ産の食品は全面的に遠慮してきたが、奥野修司・徳山大樹『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』講談社文庫、799円)は徹底的に中国の現場を踏んでレポートしていて、どれも驚くべき劣悪さだ。不衛生極まりないだけではない。有害物質に対する観念がまるでない。それを「自分たちが食べるのではないから」と言って製造出荷する。
一方、アメリカ産で怖いのは牛、豚、鶏肉に含まれる化学物質で、特に成長促進のためのホルモン(エストロゲン)が大量に含まれていて、日本では乳がんの激増、成長や生殖への重大な影響が報告されている。もう一つ怖いのはGM作物で、特にGMとうもろこしが加工品に多用されて日本人の体内に入り込んでいるという。
一次産品は気をつけられても、加工品は内実を知りようがない点で、中国、アメリカどちらも怖いと言うしかない。数年前、「週刊文春」に連載され大きな反響を呼んだ記事を加筆して文庫化した本書は、特に若い世代には必読と思う。 続きを読む »