編集後記 2018年11月号

【編集後記】 米中貿易戦争について、専門家の間では、現状の実力の差から、現時点では遠からず中国が屈服するだろうという見方が圧倒的でした。しかし、こうした見方は政治体制の違いを軽視しているように思われます。民主国家である米国においては、中間選挙に向けて派手なパフォーマンスを繰り広げるトランプ氏が喝采を浴びていますが、やがて必要な中国製品を高く買わされる米国の市民や企業、そして中国向けの輸出が減少する穀物や畜産業者からの批判が高まるでしょう。一方、中国は習近平氏の独裁国家です。政府批判など起こりようもありません。米国からの輸入は他の国に代替され、米国向け輸出はそれほど減らず、そしてIT産業は膨大な国内市場を独占して一層成長するでしょう。
次号は、飯尾潤氏「ポピュリズム時代の日本政治」、野口悠紀雄氏「AIの可能性と限界」、唐鎌大輔氏「欧州の経済・金融・政治の現状と展望」、湯浅卓氏「米国の中間選挙・トランプ弾劾・日米貿易摩擦を読む」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2018年11月号 No.837

2018年11月号目次
日銀からトルコまで、市場が発する異音
国際金融マーケット研究家 豊島 逸夫

新しい「南海トラフ地震」の評価と地震への備え
東京大学地震予知研究センター長 平田 直

日本経済の現状と課題
法政大学大学院客員教授           翁 邦雄

平成政治史を総括する
朝日新聞政治部編集委員         曽我 豪

〔談話室〕  データ改ざんの深層    柴生田 晴四
〔会員の広場〕   「ルーツ」探求で思う事      千賀 哲郎

経済倶楽部便り
読書通信(No.165)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2018年10月号

フランスワインの思想    柴生田 晴四

読書通信 2018年10月号

■ 天皇は皇居の奥深くでただ祈っていればいいと言う評論家がいる。なんと失礼な話だろう。天皇皇后は全道府県をすでに2巡し、36の諸国を訪問、沖縄11回、被災地は数え切れぬほど慰問している。離島も多い。その姿に国民はどれほど励まされ安らいだことか。だが旅の裏には多くの秘話があった。特に高齢の昨今では。
井上亮『象徴天皇の旅』平凡新書、972円)は天皇の旅に同行したベテラン記者による稀有の書。お二人の思いと祈り、迎えた人々の受け止め方、旅程や警備の問題点、形式主義批判などが明確に伝わってくる。人々に語りかける一言一句には心を打たれるし、厳しい日程をこなし続ける執念には驚かされる。被災地も沖縄もペリリュー島も、訪問の事実自体が天皇皇后によって日本人全体に突きつけられた問題なのだ。そう本書は問うているように思える。質量ともに読み応え十分の力作である。
■ 医者と向き合ったとき、その断定やら助言やらに対し納得か反発か、どちらが多いだろう。もっと強い薬にするか、手術にするか、もうそっとしておくか。迷うのは患者だけでなく家族も同様であるはずだ。大竹文雄・平井啓編著『医療現場の行動経済学』東洋経済新報社、2592円)は医師と看護師、患者とその家族にとってとても参考になる実践的な本である。
心理学をうまく使うことで医療関係者は効率よく患者と家族に合理的な意思決定を促すことができる、ということがよくわかる。こうした心理学を活かす過程が行動経済学そのものであり、本書は医療関係者と患者および家族の関係を考えながら、併せて行動経済学の基本と応用も学べるという、一石二鳥の優れた内容をもつ。がん治療、終末医療などが心配になり始めた人々にぴったりの書としてお勧めしたい。 続きを読む »

編集後記 2018年10月号

【編集後記】 ここへ来て、水泳、陸上、バドミントン、テニスと、若い日本選手の活躍が目立っています。まさに2020年の東京に向けてスポーツ界は盛り上がりを見せています、と言いたいところですが、こうした選手たちの活躍を支えなければならない競技団体の不祥事が次々に明るみに出てきました。ボクシング、レスリング、体操など、パワハラ、セクハラ、公金の流用など、長年の不透明な組織運営とボス支配による組織の私物化の実態は、まさに目に余るものがあります。主役である選手が自らの環境を選択する自由が認められ、候補選手の公平な選出が担保されなければ、五輪を主宰する資格が果たしてあるのでしょうか。
次号は、豊島逸夫氏「日銀からトルコまで、市場が発する異音」、平田直氏「新しい『南海トラフ巨大地震』の評価と地震への備え」、翁邦雄氏「日本経済の現状と課題」、曽我豪氏「平成政治史を総括する」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2018年10月号 No.836

2018年10月号目次

波乱含みの世界経済をどう読むか
みずほ証券チーフマーケットエコノミスト
上 野 泰 也

激変する中国と東アジア
拓殖大学海外事情研究所教授 富 坂  聰

日本の政治の「今」と「これから」を考える
立憲民主党代表 枝 野 幸 男

〔談話室〕フランスワインの思想           柴生田 晴四
〔会員の広場〕 ふーちゃんとしょうちゃん        深瀬 拡
経済倶楽部便り

読書通信(No.164)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信 2018年9月号

■ 自民党総裁選で旧宏池会系議員が音なしなのはいかにも残念なことだ。保守本流が消えかかっていると言ってもよい。持論だが中選挙区制であればこんなことはありえなかった。田中秀征『自民党本流と保守本流』講談社、1728円)は、岸信介を始祖とする潮流を自民党本流と規定する。リベラルな保守本流に対して、真逆の歴史観、経済観、憲法観を持ち続け、今、安倍首相へと行き着いている。
ただし本書では、岸にはかなり紙数が割かれはするものの、保守本流の源流である石橋湛山から田中角栄、宮沢喜一、橋本龍太郎、小渕恵三、細川護煕、加藤紘一まで保守本流の人たちの描写と本質論が中心で多くは絶品である。どのエピソードも面白く、歴史のイフが多々盛り込まれているのも興味深い。あるべき保守の姿が示され、日本の国のかたちにも言及していて、政治分野では昨今、屈指の良書と言える。
■ 経済倶楽部で講演をお願いしてほんとに良かったという経済学者は率直にいってそう多くはない。良質の講演を拝聴するのは司会者冥利に尽きる。神野直彦『経済学は悲しみを分かち合うために』(岩波書店、1944円)は講演のエッセンスをまた伺っている味わいである。半分は母から教えられた「おカネで買えないものを大切にする」「偉くならない」を守り続ける中での家族、同僚、師との温かい絆の自分史、半分は財政社会学を自ら確立する中で「人間のための経済学」を目指した学問的挑戦の論考だ。
2003年に著者が石橋湛山賞を受賞したときの故宇沢弘文氏のお祝いの辞が序章にまず出てくるが、こんな温かい、本質を突いた言葉を頂戴できる人は幸せである。そういえば宇沢先生も経済倶楽部で奔放な講演をされた。新自由主義批判が話の中核だった。とまれ経済学の現状を憂うる人には格好の書物であるだろう。 続きを読む »

編集後記 2018年9月号

【編集後記】 2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、有力種目の選手たちの活躍が連日メディアを賑わしています。その一方でスポーツ団体を巡る疑惑や不祥事も次々に浮上しています。特にレスリング協会とボクシング協会を巡る騒動は、一応公的な役割を担っているはずの組織において、いかに前近代的な運営がなされているかを白日の下にさらしました。指導者によるえこひいきや公金の流用、はては協会認定用具の私的独占販売など、一般社会であれば、関係者の即時退任が当然のやりたい放題であきれてしまいます。日大アメフト部の改革も、選手たちの集会に乗り込んで恫喝を行ったコーチたちが一掃されたという報道はありません。主役であるべき現役の選手たちの意向が無視されたまま、ボス支配が続くような組織を放置する社会は、土台から腐っています。
次号は、上野泰也氏「波乱含みの世界経済をどう読むか」、富坂聰氏「激変する中国と東アジア」、枝野幸男氏「日本の政治の「今」と「これから」を考える」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2018年9月号 No.835

2018年9月号目次

一寸先は闇の安倍政権-総裁選、改憲、野党再編などの行方
ノンフィクション作家、評論家 塩 田  潮

日銀超緩和策の副作用と財政危機
東短リサーチ社長 加 藤  出

脳を知り脳を活かす
東京大学大学院薬学系研究科教授 池 谷 裕 二

〔談話室〕人権の尊重こそが基本          柴生田 晴四
〔会員の広場〕リバースメンタリング  川  渡 秀 一

経済倶楽部便り
読書通信(No.163)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信 2018年8月号

■ 先の大戦で日本の経済学者たちは日米独の戦力をどのように分析し、それは開戦にどう影響したのだろうか。牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦―秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』(新潮選書、1404円)は、石橋湛山賞を受賞した『戦時下の経済学者』のいわば続編であるが、前作に劣らぬ力作であり、奥が深い。
人民戦線事件で検挙され保釈中の有沢広巳をはじめ、中山伊知郎、森田優三、宮川実、武村忠雄などそうそうたる経済学者たちが参加して研究したのが秋丸次朗主計中佐の主宰する秋丸機関だった。陸軍が日米の力の差をわきまえず無謀な戦争に突っ込んでいった、という俗説ほど実際は単純ではなかったらしい。学者たちは日米独の経済力をほぼ正確に分析して報告書にまとめているし、軍部の認識もそれと大差はなかった。ではなぜ開戦に至ったのか。有沢の戦後の証言がなぜ事実に反したのか。学者と軍人たちの動静は推理小説の趣さえあって、引き込まれる。戦後につながる部分も面白い。
■ 文科省の役人たちが官邸の意向を忖度しすぎたことが加計学園問題の本質であるのだろうが、それは一朝一夕に生まれた体質ではなかった。前川喜平『面従腹背』(毎日新聞出版、1404円)は時節柄のキワモノではまったくない。教育の本質をしっかりと見詰め、個人の尊厳と国の未来を確かなものとするために何が求められているかを、明確無比に語っている。
教員免許更新制、国歌・国旗の指導、教科書採択問題、教育基本法改正、道徳の教科化など、著者のかかわった文部行政への思いや面従腹背の真意が語られる。個の確立へ向けて真摯に対応する著者の苦渋の選択にはほとんど納得がいく。加計学園をめぐる鼎談が説得力をもつのも著者の半生史を読んでの上だからだろう。 続きを読む »