読書通信 2011年11月号

①戦時下だから輝いた面もあるだろうが、日本にもこんなすごいジャーナリストたちがいた。石橋湛山は雑誌(東洋経済新報)だが、桐生悠々(信濃毎日、のちフリー)、清沢洌、菊竹六鼓(福岡日日)の三人は新聞に拠って、ともに政治家や軍部に迎合せずリベラルな立場を貫き通した。今、政府権力を批判するのは誰でもできるが、当時、よくぞこれだけのことを言ったものだ。各様に、甲乙つけがたい迫力でわれわれに迫ってくる。

 井上亮『非常時とジャーナリズム』(日経プレミアシリーズ、915円)はこれらジャーナリストの戦前戦中における言論活動と人物像を追いながら、ジャーナリズムそのもののあり方を現代の事象、課題に照射しつつメディアの社会的役割を問うている。単にすごい人たちがいたという昔話に終わらせずに、常に戦時下と現代という非常時とを行き来しながら論じている点でも現代的意味の極めて高い著作となった。
 そして戦争翼賛の旗を振り続けた徳富蘇峰という対極にある巨人を五人目に取り上げることで、議論の厚みをいちだんと増すことに成功している。ポピュリズムという言葉が示唆するように、われわれは常にプチ蘇峰であり続ける宿命を負っている。非常時が次々に到来する今、蘇峰に学ぶことの重要性に着目した着想は鋭い。著者は日本経済新聞社会部編集委員だが、まさに社会部的で読みやすい。広く読まれてほしい。

②日本の外交は世界最下位グループに位置するのではないか。田中・大平の日中国交回復以後は、失敗の連続といって過言でない。外務省もだらしないが、政治家の外交音痴もひどい。外国語のうまいへた以前に、外交の本質についての無知(ということは地政学、歴史観、心理学、リベラルアーツの欠如)がもたらすところなのだろう。
 和田秀樹『精神科医が診た「外交敗戦」』(光文社、1260円)は興味をそそるタイトルである。外交とは心理分析に始まる、戦争できなくなった世界では心理戦が主役となる、経済リアリズムと「マッチョ化」で相手国を見極めよ、などの切り口が示されたうえで、北方領土、尖閣諸島、普天間など米・中・露・韓・北朝鮮と日本の外交を具体的に分析している。独断的偏見とも思える個所とともに斬新な視点も多々あって面白い。日本外交をけなしたいときのために便利な本だ。

③放射能の除染で関東各地まで大変なことになっているが、私見では食物を正しく摂ることで今程度の外部+内部被曝を乗り切ることは十分可能と思う。汚染された場所や食物を怖がることよりもデトックス(解毒)したり、免疫力を強めるほうが効果的だ。良質の蛋白質、ビタミンやミネラル、酵素、抗酸化食物を摂ることを心掛けよう。ということで土井里沙『放射能に負けない体のつくり方』(光文社新書、798円)が目にとまった。塩の効用について指摘がない点を除けば評者の考え方と基本的に同じなので、もろ手を挙げて推薦する。新書だが内容は濃い。

④去年の11月に出た本だがその後、直木賞を受賞したこともあり、池井戸潤『下町ロケット』 (小学館、1785円)が引き続き売れているらしい。挫折した宇宙ロケット技術者が中小企業の社長になり、経営危機や大企業の横暴に負けず社内を結束させてロケットの基幹部品を売り込む成功物語。類型的な人物像もあるが、直木賞らしいエンタテイメント性をもった企業小説として興味を最後までつなぐ。他社の人たちに対する主人公の言葉遣いがいつも乱暴で現実的でない気がしたが、気にせず読み進むことにしよう。(玄)