読書通信 2011年12月号

①ウィキリークス本はたくさん出たが、帯に短しタスキに長しの感が否めなかった。そもそも誰が被害者で誰が得をするのかがはっきりせず、本来なら真っ青になるはずのアメリカ国務省など、どうも裏があるのではないかと勘ぐりたくなるほどだ。マスコミも日本では朝日だけが騒いだけれど竜頭蛇尾というか、本質がつかめずにいるのではないかと勘繰ってしまう。

 そうした中で原田武夫『アメリカ秘密公電漏洩事件』(講談社、1680円)は「ウィキリークスという対日最終戦争」という副題が示すとおり、日米間を中心としたウィキリークス文書を丹念に分析し「これはアメリカの戦略の一環である」と結論づけて、類書に見られぬ歯切れの良さが際立っている。「アメリカ人相手となると日本の官僚や議員たちはがぜん口が軽くなる」「東京発公電が群を抜いて多い」「リークされた公電は恣意的に取捨選択されていて、小泉民営化路線にかかわる公電は除外されている」など興味津々の事実が指摘される。ともかくアメリカにとって日本ほど御しやすい先進国はないということだろう。もし日本の近未来(怖い話だ)が元外務官僚である著者の言うとおりなら、これはただごとではない。

②「これは日本文化だ、というとそれが侵さざる錦の御旗になって改革が進まないことが多いから、文化を振り回す人には警戒せよ」とある産業人が主張していた。日本的雇用関係やコメは典型だという。その是非はここでは議論しないが、さはさりながら政治家、官僚、産業人が文化(リベラルアーツと言うべきだろう)にあまりに疎いためにこの国はリーダー不在となって久しいのではないか。
 そんな人たちに、浜本隆志『「窓」の思想史』(筑摩書房、1680円)でも読んで、文化の窓を広げてみてはいかがかと申し上げたい。もちろん普通の日本人が読んでも面白いことこの上ない。蓄財にはまったく役には立たないけれど…。長い板窓の歴史からガラスの発明によって窓の世界は変貌した。日本では長く障子と雨戸であり、ここに日本と欧米の文化的差違が生まれた。しかも引き戸の日本は開放的で水平的で明から暗へのグラデーションの世界、開き戸の欧米は防御的で垂直的で明暗択一の傾向がある。こうした歴史的、気候的、宗教的、構造的なうんちくはとどまるところを知らず、絵画や習俗、建築などへ話は自在に飛ぶ。そのようにして日本の生活文化が、欧米が発信的で能動的なのに対し、受信的であることが素直に納得される。古今東西の文化をこうして楽しみながら考えられるのは読書でしかできないと痛感した。

③最近、マンガで異文化を論じる書籍が人気だが、ヒラマツオ・小平達也『新入社員は外国人』(PHP研究所、1155円)もその流れに乗って、外国人社員たちが日本的慣習、用語、日本人の行動と思考法が理解できずに奇問難問を主人公(派遣女性社員)にぶつけて話は進む。ホウレンソウ、メールのcc、曖昧さや謙遜など外国人の国籍によっても生じる誤解やトラブルを紹介、解説する仕組み。マンガならではの面白い箇所が多々ある。

④シリーズ150万部突破というコピーが大げさでないくらい病みつきになる高田郁の「みをつくし料理帖」は絶対のお勧めである。7冊目の『心星ひとつ』がやっと出た。登場人物も江戸時代の描写も料理への思い入れもみな絶品で、ゆったりとした心温まる展開はこんな時代に貴重の一語だ。著者自ら料理をつくり上げながら執筆するので(レシピ付きだ)半年に一冊がやっとだという。次作がほんとに待ち遠しい。(玄)