読書通信2012年2月号

①なぜこれほど日本は宰相に人を得ないのだろうか(もちろんかつてはそうではなかった)。宰相は当然、優れたリーダーでなければならず、大局を見る目、豪胆さ、決断力などを兼ね備えていなければならない。それどころか、昨今のわが宰相たちは一般常識、歴史観、人間性、文化的教養さえも欠如しているとしか思えないのは世界に対しても恥ずかしい限りである。

 山内昌之『リーダーシップ』(新潮新書、714円)は、歴史上の理想的なリーダーたちを題材にリーダーシップとは何か、日本の政治家たちに何が欠けているかが明快に論じられる。単に歴史上の人物の分析やエピソードで終わらずに、多面的に現在に照射していて強い説得力を生んでいる。ミッドウェー海戦に臨んでの山口多聞の胆力と判断力だとか、ペリー艦隊を迎えての吉田松陰の現場主義や観察力など具体的な話は訴求力が強いし、鳩山、菅、小沢といった人物への鋭い批判は的確で容赦がない。菅が自ら「奇兵隊内閣」と呼んだことの愚昧さが冒頭、説明される。

②国政は駄目でも地方はどうか。公選制の首長と議会の関係が適度の緊張関係を保てれば地方自治はうまく機能するのだが、大半の自治体はオール与党の無風首長か、議会と対立して容易に腕を振るえない改革派首長か、になりがちだ。後者の場合はお定まりの罵倒、誹謗中傷が渦巻くことになりかねない。かつての横浜市もそうだった。
 中田宏『政治家の殺し方』(幻冬舎新書、1000円)は行政改革を強力に推進した市長が、身に覚えのない数々のスキャンダル報道、暴力団の街宣、市職員からの脅迫メール、利権集団や利権議員からの圧力に襲われながら2期務めた一部始終を語っている。『経済倶楽部講演録』(2009年12月号)で読んだ話も多々出てくるが、自分の既得権益を侵されるのが許せない業者、議員、職員、市民は無数にいるわけで、それが流すいんちき情報をもっともらしく報じるメディアの責任は極めて重い。何かを改善した情報は流さず(というより取材が面倒で流せない)、誰かが不満を持つ情報は針小棒大に流すメディアへの批判が鋭いのは一読、至極当然だと感じる。

③軍医による戦記ものは案外少ない。しかし実際に戦うこともない軍医の視点は冷静なうえに、軍隊生活とは一歩離れているが故の常識が支配していて、独特の戦記文学が成立する。帚木蓬生『蛍の航跡』(新潮社、2100円)は15人の軍医の手記の形をとった短編集の趣で構成されている。ろくに薬も資材もない中、ジャングルの中を逃げ回って傷病兵を手当てする話もいくつかあるけれども、抗命した参謀の精神鑑定の話とか、シベリア拘留の話、オーストラリア軍捕虜として死線をさまよう話、南方現地人の出産を手伝う話、中国人との心温まる交流の話、などそれぞれにユニークで多彩な内容がモノトーンの戦争描写を回避させている。戦記文学の傑作としてお勧めしたい。

④個人的好みでいうと、芥川賞作品はつまらないが直木賞受賞作は近年、豊作である。今年も葉室麟『蜩ノ記』(祥伝社、1680円)は秀作で、武士の生き方、家族愛、友情、貧窮する農民、お家騒動などいくつものテーマが織り成されて話は主人公の生死へと突き進む。主人公の武士はお家騒動の濡れ衣を着せられて10年後の切腹を命じられ、その間、家譜編纂に従事させられる。その監視役を仰せつかった若い武士と、二人の心の通い合いが主題で、この二人の人物造形が小説としての成功の原因である。静謐な自然描写も巧みで、謎解きの面白さも加わり一気に読ませる。