読書通信2012年4月号

① アメリカという国の実像はなかなかわかりにくい。日本の最も頼りにすべき同盟国だと思うと良い面が得てして見えがちで、その底力は端倪すべからざるものがあると思えるし、油断も隙もない国で日本は手玉にとられるばかりではないかと思うと、やたらにアラが見えてくる。そしてその両面が事実なのだろう。

 「アメリカはなりふり構わず、日本マネー略奪計画の最終段階に入った」と帯に書かれた原田武夫『最もリアルなアメリカ入門』(かんき出版、1575円)は後者に近い内容だが、歴史、政治、経済、メディア、軍事といった広範な視点からの分析・解説を踏まえて、戦争国家であり、ファンド国家であり、かつメディア戦略国家でもあるアメリカが、金融資本主義で日本を「略奪」しようとする戦略の内実に鋭く切り込んでいる。情報支配にせよ、円ドル関係やTPPにせよ、アメリカから見たら日本という国は国家の態をなしていないくらい扱いやすいのではないかと思ってしまうが、日本としてどうすべきか強い危機感をもって貴重な対応策を述べている。著者は元外交官であるが、ここまで言って大丈夫かと思えるくらい率直に日米関係を論じていて、大いに啓発される。
② 由緒ある地名が消えて西神田、東神田、内神田、外神田などと愚にもつかない地名が日本全国に生まれた。事務合理化にプラスだと信じて地名変更を推進したお役人にとっては歴史も文化も情緒も一文の価値もなかったのだろう。だが地名が天災に関連して重要な意味を持っている場合にそれを抹消するのは、人の命にかかわる犯罪だとさえ思わざるをえない。
 楠原佑介『この地名が危ない』(幻冬舎新書、882円)を読み進むと、何気なく見聞きしている地名にはさまざまな歴史情報が込められていることに驚かされる。宮城県の名取はナ(土地)トリ(取)で「津波などで土地が削り取られた地」であり、石巻は「石を巻いて押し寄せる津波」であり、女川や小名浜は「津波の呼び名でもあった男波のミを略したもの」だとか。日本全国に津波、地震、崖崩れ、洪水などの災害にからんだ古地名がいくらでもある。まさに我らが終の住処は天災の国にあり、地名に学んで謙虚でなければいけないのだろう。「津波常襲地帯・相模湾岸」を「湘南」と称して高級住宅地のイメージを盛り上げ天災の危険に甘くなっていることに対する厳しい指摘もある。
③ 『蒼穹の昴』から始まる浅田次郎の連作は最高傑作と思っているが、中国近代化の前夜、清朝末期はまったく物語の材料に事欠かない。譚美『革命いまだ成らず』(新潮社、上下各1680円)は辛亥革命の立役者、孫文を中心人物に据えて紡いだ壮大な叙事詩であり、大部ながら興味を最後までつなぐことに成功している。列強による利権確保の策課に翻弄されながら、革命家たちがどのように悩み、生き抜き、倒れたのか。伊藤博文、宮崎滔天、梅屋庄吉、頭山満などの日本人もたびたび登場して彼らと交錯する。高い資料的価値と文学性を両立させた傑作である。
④ 旧刊の売れ行きが止まりかけた頃に文庫化するというのが出版界の常識だが、最近は最初から文庫化するいわゆる書下ろしが増えている。安くてサイズ的にアピールしやすいことから、版を重ねて成功しているケースが多いようだ。東野圭吾『歪笑小説』(集英社文庫、650円)も「〇笑小説」シリーズの一冊で版を重ねている。出版業界の内幕ものだが、読み切り短編それぞれに落ちがひねってあり、とにかく面白い。登場人物の真面目さ加減がまんざらでなく、人情小説の趣も楽しめる。さすが人気作家だけのことはある。