読書通信2012年7月号

 ①小泉・竹中郵政改革に熱狂した日本人も今や郵政問題は過去の話と言わんばかりである。しかし宴の後に残ったのはまさに気息奄々の世界だ。郵便システムはがたがたで巨額赤字に身動きがとれず、郵貯も簡保も右肩下がりに苦吟している。東谷曉『郵政崩壊とTPP』(文春新書、819円)は「郵政改革」の虚実を検証し、「官から民へ」のキャッチフレーズが巨大なまやかしだったことを明らかにする。

そしてとりわけ西川義文・前日本郵政社長の不可思議な言動が国民的資産を財務的にもユニバーサルサービスの面でも危殆に導いたことを多くの事実と証言から論証していて、ぜひ竹中、西川両氏の反論を聞きたいと思うが、著者によると面会を断られたという。
 一時、マスコミを賑わせた「かんぽの宿」売却も詳しく俎上に乗るが、やはり理解に苦しむ話だと感じざるをえない。書名にあるTPPは基本的に郵政問題とのからみで論じられているのだが、「米韓FTAで日本は決定的に韓国に置いてきぼりを食った」と騒いだ評論家やマスコミは、韓国の現状をどう釈明するのだろうか。郵政問題は決して過去の話ではなく、国民の金融資産と物流サービスがどう守られるか、重要な地点にあることを認識させられる。

 ②ネットの「功」はほっておいても大丈夫だろうが、「罪」は統御しきれぬほどの怪物に育ってしまってからでは遅いかもしれない。ネットが世論を形成する傾向はますます強まっていて、誹謗中傷に戦々恐々の学者、風評被害に苦しむ生産者、情報操作でほくそ笑むその筋の人々、ネットがなければこんな嫌な時代にはならなかったのではないか。
 ネット右翼は草の根世論をときに組織化する運動体である。安田浩一『ネットと愛国』(講談社、1785円)は在特会(在日特権を許さない市民の会)という過激な街宣活動で知られるグループを追ったドキュメント。なぜ普通の男女が在日や特権的日本人を聞くに堪えない罵詈讒謗によって糾弾しようとするのか。その深層心理に迫る取材の一部始終は極めて興味深く、ネット社会における草の根的糾合の鍵がどの辺に存在するのかを知るうえでも、これは知らぬ顔をして過ごすわけにはいかない重要テーマの異色の書である。
 ③大学教授というのは因果な職業のようだ。流動性が低いだけに嫌悪やねたみ、恨み、利害等々、始末に負えぬ人間関係に巻き込まれる宿命にある(らしい)。今野浩『工学部ヒラノ教授の事件ファイル』(新潮社、1575円)はこの手の内幕本を書きまくってきた著者だけに手馴れた筆致である。筑波大、東工大、中央大と職場を変えてきたこと、文系とも理系ともつかぬ金融工学が専門なことから、多様な事件、話題が次々に登場する。カネにまつわる各種犯罪(あるいは非常識)、単位の略取、論文盗作とデータの捏造、セクハラやアカハラ、果ては学内殺人事件など、世間とはひと味違った世界が面白くて一気に読んでしまった。最高学府の(ひどすぎる)内幕を知るに絶好の書。
 ④食の崩壊は幼稚園児や学童から始まっている。そこをしっかりすれば大人になっても案外、まともな食生活を守れるものである。西福江『子どもが育つ玄米和食』(光文社新書、840円)は福岡市にある高取保育園でのまことにユニークな給食の実態を園長が紹介した本で、成人なら文句を言いそうな食育に子どもたちは素直に従い、喜んで食べる。そして食への感謝の気持ちを表出する。そして何よりアトピーその他の病気から縁遠く育つ。私事ながら評者とほとんど同じ考え方の食育紹介本なので、強く推薦したい。(玄)