読書通信2012年10月号

① 橋下旋風という風に乗ろうとして次の選挙が心配な議員や、議員になりたい(と言ってはなんだが)が維新の会に馳せ参じ、少なくとも関西は盛り上がっているようだ。当の橋下徹氏がいつ大阪市長のイスを放り出して自ら国政にかかわろうとするのか、獲得議席数にもよるのだろうが、世間の最大の関心事は案外その辺にあるのかもしれない。
 森田実『「橋下徹」ニヒリズムの研究』(東洋経済新報社、1575円)は橋下語録を分析して「橋下政治」の実態を明らかにしようとする。新自由主義、弱肉強食、独裁、そしてスローガンとしての改革、などがその内実だとし、虚像はもっぱらマスコミによってつくられたという。

橋下氏が「メディアが相手にしなくなったら自分は終了」と語録で述べている点が橋下政治の本質を最もよく表しているとし、メディア批判も繰り広げられる。大衆社会状況とメディアの煽り現象はニワトリと卵の関係だが、「政治とメディア」は常に監視されるべきテーマである。橋下政治を厳しく糾弾した書であるが、さらっと読めて参考になる。
② 河上民雄氏が先月、亡くなった。河上丈太郎・元社会党委員長の長男で、学者から転じて衆議院議員として23年間、国際局長など社会党屈指の国際通として活躍した。最後の冊子となった『河上民雄・20世紀の回想』(新時代社、1050円)を亡くなる直前、恵贈いただいたので紹介したい。
 構成は11回にわたり河上氏がメールマガジン上で語ったもので、55年体制以降の政治状況と、勝海舟論、河上丈太郎論、賀川豊彦論、石橋湛山論、そして60年安保から東欧の激動までの体験談から成っている。いずれも豊富なエピソードを交えてオーラルヒストリーともいうべき貴重な記録であり、著者が人物をよく見る目を持っていたことに改めて感心する。勝と福沢諭吉のアジア観や明治という時代のとらえ方を比較、勝を高く評価している点、河上丈太郎が政治献金の残金を支援者に返した話、賀川豊彦の功罪…。石橋湛山のよき理解者だった著者の思いも伝わってくる。
③ AIJの浅川和彦元社長は容易には理解しがたい人だ。2000億円近い年金資産を消滅させながら国会の証人喚問で「損は取り返せると思っていた」と悪びれずに語っていた。九条清隆『巨額年金消失。AIJ事件の深き闇』(角川書店、1470円)を読んでもやはり「よくわからない人」のままだった。とはいえAIJの幹部だった著者の本だけに、社長を含め3人しか大損の事実を知らない中、社長が社員たちと無邪気に飲み食いし、社員たちを晴天のが襲うなど、事実は小説より奇なりというほかない。年金をめぐる空前絶後の事件を知るうえでも価値のある記述である。なおうかつにも犯罪行為に気づかなかった著者はデリバティブ運用の専門家なのに、なぜか運用に全くかかわらせてもらえなかった。かかわっていたら事態はどうなっていたのだろうか。
④ 出光佐三という石油業界の巨人を主人公にした尚樹『海賊と呼ばれた男』(上下、講談社、各1680円)は日本にもこんな快男子がいたこと、出光興産というユニークな会社がこのようにして生まれ育ったのだということ、戦前・戦中・戦後からイラン革命まで日本の石油産業がカルテル体制下に波乱の歴史をたどってきたこと、を知る上で格好のテキストである。ドキュメンタリー小説としても劇的で感動的でともかく面白い。こんな志をもった経営者が続出していたら日本経済、もうちょっとましな状態にいるだろう。秋の読書に格好の大作としてお薦めしたい。