読書通信2012年11月号

①日本にとっていちばん大事な二国間関係は何かと言われれば、多くの日本人は日米関係だと答えるだろう。そしてそれに疑問をはさむ余地はほとんどない。だが問題はその関係がこれまでどのようなものであったか、今後どのようなものであるべきか、である。友好的な日中関係を維持しようとしてきた流れの中に中国には遠慮して言うべきことも言わなかった傾向があったのと同じように、アメリカの嫌がることを言い、アメリカの利益に反する行動に出ることは日米関係を損なう、という考えが日本を支配してきたことも否めない事実だろう。

孫崎享『戦後史の正体』(創元社、1575円)は歴代宰相や外相がアメリカとどのように向き合い、アメリカからどのように遇されたかを直裁に語っている。吉田茂がマッカーサーとも堂々と渡り合ったという伝説が流布しているが、著者によるとそんなことはまったくなく、占領が終わった後もアメリカの意を汲んだ政治姿勢をとり続けた。対立があったのは再軍備と軽武装をめぐってのことくらいだった。岸信介は、意外にもアメリカに対して自主性を保とうとしてさまざまな手を打ったとして元外務官僚である著者の評価は高い。だが対米自主外交を貫こうとした重光葵、芦田均、鳩山一郎、石橋湛山、田中角栄はアメリカから忌避、排斥された。官僚も同様だった。病気はともかく戦後追放や失脚の裏には必ずアメリカがいたという。そうしたいきさつがさまざまな文書や書物によって論証されてまことに興味深い。戦後政治や日米関係の常識を改めて組み直すことを迫られること必定である。保守論壇からは目の敵の気配だが、今年話題の書として一読の価値がある。
②北海道の山林が、対馬が、中国、韓国その他の外国資本によって買い占められているなどと、日本の国土が外国人の投資対象として狙われている話がしばしば聞かれる。ただし実態はなかなかわからない。買った先の多くが移転登記をしないからだ。タックスヘイブンを経由するので固定資産税さえ取れない土地が増えている。尖閣や竹島以上の危機が日本の国土に訪れているのに、行政は手をこまぬいているばかり…。
こうした恐るべき実情を報告しているのが平野秀樹『日本、買います』(新潮社、1470円)である。とにかく地籍がない土地がやたらに多い。ということは土地の所有関係も曖昧なうえに、争いになっても外国人に対抗することも難しい。山林のみならず農地も観光地も防衛上の重要地点も買い占められていく。その実態を座視するしかないという法制度の不備を鋭く突いている。提言も貴重である。
③韓国人はハングルが世界一すばらしい言語だと誇っているが、韓国語には膨大な日本語が単語として入り込んでいる。豊田有恒『韓国が漢字を復活できない理由』(祥伝社新書、798円)は韓国の日本に対する屈折した感情を赤裸々に説明しつつ言語としてのハングルを詳細に解明している。日韓比較文化論としての色彩のもとで、漢字を使えない韓国の限界も明快に見えてくる。要するに漢字を使うと「日本」の影が濃く出すぎるところが問題なのだそうだ。なるほど。

④行数がなくなってしまったので簡単に済ますのは気がひけるが、福岡伸一『生命と記憶のパラドクス』(文藝春秋、1260円)は気軽に読める66の科学エッセー集。生命、生き物、進化、記憶など、ときにどうでもいいテーマでありながら結構、重要なことを言っている。考えさせられるというのは読書の大事な楽しみの一つであることに気づかされた。