読書通信2013年2月号

①財政破綻を例えて、年収400万円の家庭が毎年400万円の借金を重ねて800万円の暮らしを続けているために、借金残高は8000万円にも膨れ上がって返す当てもない、というような説明をするエコノミストがいる。もはや日本国はこの家庭同様に破産目前だと誰でも思うだろう。しかし例え話は往々にして危険だし、ことはそれほど単純ではない。神野直彦『税金常識のウソ』(文春新書、840円)は今年最良の一冊となるだろう(まだ先は長いが)。著者は経済倶楽部の常連講師だが、たびたびの講演の集大成のごとき内容で、目からウロコの税と財政の啓蒙書であるとともに本質を突いた奥深い本でもある。

日本はギリシャと同様に財政破綻が必至である、赤字公債は将来世代へのツケである、低い税率こそ高成長を担保する、家庭同様に国の借金は良くない…というのが大方の日本人の常識だろうが、本書では見事に論理とデータで常識が否定される。租税とは何か、租税の歴史、租税の仕組み、あるべき租税体系など、税全般が詳説される中で、公と税、税と再配分、経済・社会危機と財政危機、「三つの政府体系」における地方と社会保障の位置づけ、ヴィジョン型税制改革の提案など哲学的なアプローチが次々に登場する。所得税、法人税、消費税等々をどういじるかという微視的な税制論議が横行する中で、本書による問題提起は極めて重大である。一人でも多くの人に読んでほしい。
②内政の災害対策や経済文化にとっても地政学を無視してろくな結果は生まれない。もちろん安全保障や国際通商戦略でも地政学は極めて重要だ。最も有名なのはマハンの地政学的戦略論で、これをしっかり学んでおけば旧日本軍が太平洋や東南アジアであれほど無残に完敗しないでもすんだかもしれない。ということでクラウス・ドッズ『地政学とは何か』(NTT出版、1995円)を期待して読んだ。
といっても、地形図から言ってどこをどう攻撃するのか、どこと結びどこと対峙するのか、どういう経路が地理的に正しいか、といった戦時の作戦のような話は出てこない。地政学の思想史、モノや人の流れ、他国ないし敵国という視点、地図とかメディアと国家といった概念によって地政学の全貌が明らかにされる。世界各地での流血や領土争いも題材として取り上げられ、竹島や尖閣を考える上でも参考になる。
③ 心を操るのはカルト集団だけではない。捕虜を洗脳し、若者をテロリストに育て上げ、怪しげな商品を売りつけ、対象者をその気にさせていく手法は古今東西、いくらでもある。岡田尊司『マインド・コントロール』(文藝春秋、1260円)はどうして心は操られるのか、どういうタイプがだまされやすいのか、操作する技術にはどのようなものがあるか、それを解くにはどうしたらいいか、など興味津々の具体例が述べられる。マインド・コントロールなど無関係だという人にも読んでもらいたい。なぜならそんな人であっても無意識のうちに膨大な情報や社会状況によって心はコントロールされていっているからである。その意味でネット社会の若者も危険にさらされている。
④ 誰でもできる健康法で一番は少食かもしれない。町田宗鳳『人の運は「少食」にあり』(講談社+α新書、920円)は水野南北から始まる少食の勧めであるとともに、和食の良さ、断食の効用、呼吸法、酵素の力、エコライフなど食と健康全般にわたって述べた良い本である。読みやすくて、示唆に富み、しかも評者の実践している食のあり方と基本的に同じ思想なので、手前味噌的だが推薦したいと思う。(玄)