読書通信2013年8月号

①21世紀は確かにアジアの時代だとしても、問題は日中韓がどのような立ち位置をとるかだ。進藤榮一『アジア力の世紀』(岩波新書、798円)は東アジア共同体とASEANを基軸として相互補完的で開かれた地域統合としてのアジア版EUを目指すべきだと主張している。アメリカの覇権は終焉の時を迎え日米にのみ顔を向けた日本に未来はない、TPPは百害あって一利なしだし、中国脅威論は虚妄だ、とすこぶる歯切れがいい。
 尖閣、竹島などの小さな領土にこだわるのでなく独仏和解の歴史的教訓に学べ、として日本、そしてアジアの進むべき道を提示する結論は明快であり、傾聴すべきところは多い。少数意見はいつの時代も貴重である。

②東洋経済から出てベストセラーになった『ストーリーとしての競争戦略』の著者が久しぶりに書いた本。楠木建『経営センスの論理』(新潮新書、777円)は「経営者」「戦略」「グローバル化」「日本」「よい会社」「思考」という経営の六つの断面それぞれの論理を論じた6章からなる。経営者はセンスがカギを握っていて、いい経営者は社長室に引っ込んでいないでハンズオンつまり現場に出て判断を下す。戦略でいうと森と木と葉とどれを重視するかだし、グローバル化ではダイバーシティ(多様性)の重要性が言われるが多様性自体からは何も生まれない、その先にある「統合」にこそ経営の本質がある、等々。
 オンラインサイトの連載だそうで気楽に話は進む。攻撃は最大の防御だとして著者の肉体的問題点(禿頭と肥満)が延々と述べられるなど全編エッセー風だ。ただし「本書で論理が明快になればスカッとするはずだし、明快にならなければ自分で考えろ」と著者から言われてもなあ、という気がしなくもない。
③ヒロシマとナガサキでは国際的知名度が一ケタ違う。これにはモニュメント之差もあるのだろう。ではなぜ長崎には「原爆ドーム」がないのか。高瀬毅『ナガサキ消えたもう一つの「原爆ドーム」』(文春文庫、682円) は戦後の謎に迫って読ませる。廃墟となった浦上天主堂と焼け爛れたマリア像が残っていれば原爆ドームに勝るとも劣らぬ世界へのメッセージとなっただろう。保存派だった長崎市長は昭和31年、至れり尽くせりのアメリカ旅行から帰国すると急きょ取り壊しへ向かう。丹念に原資料を訪ね歩くドキュメントは戦後史の闇を見事に伝えている。
④ 幕末維新を挟んでさまざまな陰謀や決起、要人暗殺が起こった。野口武彦『不平士族ものがたり』(草思社、1890円)は、有名無名の旧士族たちが不平不満を抱えて維新をどのように生き、死んでいったかを八つの物語に紡いでいる。唯我独尊、自己中心的、時代錯誤、いろいろあるが誰もが個性的だ。(純)