読書通信2013年7月号

①尖閣海域へ連日のように侵入する艦艇をめぐり外務次官や審議官が中国の駐日大使を呼んでは厳重抗議する。で、程 永華大使は「尖閣は中国の領土で不法侵入には当たらない」と反論するのが常だ。どこの大使も大変だが、知日派の程大使と日本の前中国大使を見比べて感じるのは、国益を守りながらも両国間の友好のために自ら考え努力する姿勢の違いではないか。
 丹羽宇一郎『北京烈日』(文藝春秋、1365円)を手に取る際の最大の関心事は尖閣に振り回された日々の記述と主張だろう。ただし直接かかわる話は18ページだけなのでちょっと肩透かしを食った感も残る。結論的には棚上げ、つまり「待つ」という選択肢と「愛国親中」こそが大使としてのとるべき姿勢だとされる。紙数の大半は日本と中国の現状と課題、将来展望、そして提言であり、人口、食糧、エネルギー、環境、習近平体制が取り組む「壮大な実験」などに割かれる。日本の抱える難問についての指摘はもっともな点が多く、20年後を見据えた「憂国の書」の趣と言うべきか。大使時代の言動の原点が柔軟な思考とともに浮き彫りにされ、教えられるところが多い。
②日韓関係もささくれ立っている。歴史的、地理的、発展段階的に難しい事情が多すぎるし、偏狭なナショナリズムほど始末に負えないものはないが、両国が「日韓和解」「日韓友好」へこぎつけるためには何が必要なのだろう。時間が解決するなどとはとても言えないだろうことだけははっきりしている。
 書名もすごいし、帯の文言も扇情的で買うのがはばかられたけれど、述べられる事実はすべて韓国のメディアに依っているとあったので読んでみることにした。室谷克実『悪韓論』(新潮新書、756円)は『嫌韓論』の理論編だ。「格差王国」「短期退職者の溢れる国」「外華内貧で老人自殺大国」「詐欺・訴訟大国」「詐術大国」「汚職・恩赦大国」「売買春天国」……切りがないのでやめておくが(韓国人は大国と強国それにgreatが好きなのだそうだ)、韓国の新聞が苦渋(たぶん)の末に掲載した数々の記事によって次々に例証される。良く言えば目から鱗、でも言葉遣いには違和感もある。「本書の内容に異議のある方は私の典拠より高い水準のソースを基に良韓論を」執筆されたい、と著者は強気だ。評者の韓国観は大きく修正を迫られた。
今野浩『工学部ヒラノ教授のアメリカ武者修行』(新潮社、1575円)はシリーズ第三弾で、今回は超一流から並みクラスまでアメリカの大学が舞台。金融工学の学者たちを主な登場人物に、天才教授から昇進もままならぬ若手たちまで日本とは別世界のキャンパスと研究室での著者の実体験である。軽妙な筆致は相変わらずで、個性的な人物たちが大小の事件を引き起こしていく。こんな肉食系世界で高い評価を得て出世していくのは至難の業だ。日米大学文化の比較論として参考になる点が多い。もちろん大いに楽しめる。
④調子が優れないと「更年期のせい」にしてしまいがちだが、実は大半は「夫のせい」らしい。石蔵文信『奥さん、それは「夫源病」ですね。』(静山社文庫、714円)はキワモノかと思ったが、著者は大学教授で臨床医でもあって内容は極めて真面目なものである。40代以降の女性の不調はほとんどが夫のわがまま、無理解、濡れ落ち葉症状、シンクロ性などから重症化している。二人そろって診察を受けて完治する例もたくさん紹介されていてホッとするが、何はともあれ夫婦で回し読みすることをお勧めしたい。お互い思い知らされるのではないか。        …今回からペンネームを変更しますが、筆者は同一人物です。(純)