読書通信 2011年5月号

①日本の直面する問題は大きく括っていったい、いくくくつあるのか。政治、財政、社会福祉、安全保障…まだまだ限りがないが、これらを手際よくまとめたのが星浩『日本と日本人の大問題』(三笠書房、126010円)である。著者は朝日新聞の政治担当編集委員だが、永田町情報にとどまらず、広範囲なテーマを選んでわかりやすく解説している。

 とはいえ、二大政党制の直面する問題、小沢一郎論、小泉改革など政治を真っ向から取り上げた章はどれも簡にして要を得ているうえに、バランスがとれた見方が披瀝されていて首肯するところが多い。財政、社会保障、不況対策、日米、日中、憲法問題の章も、みな政治とのかかわりの中でわかりやすく解説されている。会話調のソフトな語り口も一役買っているのだろう。最終章をメディア論に割いているが、日本の政治が三層のメディアに大きく左右され(時には政治がメディアを利用し)てきたことの指摘は、今後の政局にも大きな意味をもっている重要な点だ。

 ②東京都知事選で現職が圧勝し4期目に入る。松沢神奈川県知事(当時)が「長洲さんは当初は偉大な知事だったけれど、長期政権の末期は弊害が多くてまだ若手県議だった私は厳しく批判したものです」と言っていたのを思い出すが、出馬表明した松沢氏のはしごを高齢、多選の現知事が最後になって外したのは、周辺によると「結局、東国原に負けると確信したから」だそうだ。ともあれ、これで通算16年、長洲県政以上に議員や職員がおべんちゃらを使い、絶対権力が絶対的にさらに腐敗していくであろうこの先を、松沢氏はどういう思いで見ているのか。

 斎藤貴男『東京を弄んだ男』(講談社文庫、630もてあそ円)は『空疎な小皇帝―「石原慎太郎」という問題』として8年前に出版されたものに序章を付け加えて再出版したものである。都庁の内外で繰り返される暴言の数々はマスメディアは全く伝えない。新銀行東京やオリンピック誘致の失敗、築地移転の闇を埋めるだけの「実行力」は本当にあるのか、都民の「検証なき期待感」の先にあるものが問われている。

 ③地図によって空想の旅をし、地域を探索するほど楽しいものはない。地図が激変するのは天変地異の後と戦争時であるが、後者の場合、戦前と戦後の変化だけでなく、敵に地理情報をもらさないための抹消改変という変化が生じる。それを丹念に調査し解説したのが今尾恵介『地図で読む戦争の時代』(白水社、1890円)である。

 改変前と後の地図を多数収録し、その照合をするだけでも興味津々だし、戦争とはこういうものかと教えられる。軍需工場、軍港、飛行場、引込み線、等高線等々が抹消されるのだが、抹消後の空白を巧妙にカモフラージュしなければ頭隠して尻隠さずであるのに、プロが見れば(プロでなくとも)明々白々というのもご愛嬌だ。改変を指図する軍部に対し、正確な地図を作るのが天職の人たちがあまり気乗りしなかったからだろう、という個所が随所に登場するのは面白い。

 ④靖国には消極的だった石橋湛山氏は伊勢神宮にはしばしば出かけている。だからというわけではないが、建築家の書いた武澤秀一『伊勢神宮の謎を解く』(ちくま新書、924円)を建築物的興味から読み始めた。ところが内容は予想とはだいぶ違って、神話の時代を基礎に伊勢神宮がどのようにして誕生したかの考証が延々と続く。しかしアマテラスとタカミムスヒ、国家神と皇祖神の綾が伊勢神宮にどう降り立つのか、推理あや小説の趣さえあって結構楽しめた。(玄)