読書通信2013年1月号

① 宇沢弘文先生は経済倶楽部のパーティにもよくお出でになった。若手エコノミストや東洋経済の記者たちとお酒を楽しみつつ談論風発、中締めの後もエンドレスだった。お酒のせいか体を壊されたので講演もパーティも今はお休みなのはまことに残念だ。でも本が刊行された。宇沢弘文『経済学は人びとを幸福にできるか』(東洋経済新報社、1680円)は10年前に刊行された『経済学と人間の心』を底本に経済倶楽部での二度の講演を加えたものである。
シカゴ学派やフリードマン批判も面白いが、その対極にある「社会的共通資本」、そして「人間の顔をした経済学」への熱い思いが語られる。

大気や水などの環境資源、教育、福祉、医療など地域の経済文化を維持していくために欠かせぬ社会的共通資本の概念は著者によって初めて切り開かれたもので、私たち一人ひとりが格差ないし貧困の問題とセットでしっかり考えていかねばならぬ時代であることを痛感させられる。巻頭に池上彰氏による解説が付されている。
② 経済学混迷の時代と言われて久しいが、現実経済を解き明かすに経済学が無力化しているといってもよい。そんな中、根井雅弘『経済学の3つの基本』(ちくまプリマー新書、714円)が目にとまった。著者の魅力と100ページという薄さが付け目だったが、甘かった。
経済成長、バブル、競争という経済学の基本テーマに即して、経済史と学説史から概念の見直しや落とし穴を探っていく流れは見事である。ガルブレイスやシュンペーター、ミンスキーなど取り上げられる学者も好ましい。経済学の考え方は一つではないとの指摘は至言だろう。ただし、内容的には歯応え十分でこれがジュニア向け新書かと複雑な心境になった。新日鐵誕生、即ち富士八幡合併に近経学者が猛反対した事例が取り上げられるが、東洋経済も一緒に反対の論陣を張ったことを著者はご存じだろうか…。
③ 高齢化と認知症の激増が深刻な社会問題になっている。NHKスペシャル取材班『老人漂流社会』(主婦と生活社、1365円)は番組制作の副産物たるドキュメンタリー。家族を失業やケガ、疾病が襲うといっぺんに生活は厳しくなり、そこへ認知症が重なると施設をたらい回しされるしかない。他人事とは思えないエピソードに何を思うかは読む人次第だが、これがアベノミクスと表裏一体の現実なのだろう。
④ 人間の体で脳の次に賢いのは腸である。いや脳は騙されるが、腸は騙されないから腸のほうが賢いかもしれない。ともあれ人の健康を最も左右する臓器は腸である。そして腸自体も便秘から大腸がんまで疾患は増える一方で、歳とともにその機能は低下していく。松生恒夫『老いない腸をつくる』(平凡社新書、798円)は腸のスローエイジング、機能維持のためのヒントから腸の難病対策まで、専門的だが平易な、中高年にお勧めの一冊である。(純)