読書通信2013年12月号

① 日本の農業は過保護である、TPPでしか日本農業の体質強化は果たせない、5%の農業のために95%が犠牲になる国でいいのか、などという意見に異を唱えるのは容易ではない。鈴木宣弘『食の戦争』(文春新書、745円)は食と農業をめぐる議論に対する答えを用意し丁寧に説明していく。たとえば、アメリカが膨大な輸出補助金を農民に与えているという事実。日本側がTPP交渉の場でそれを持ち出したら、アメリカはどう日本を煙に巻くのだろう。食と農業は弾薬を使わぬ戦争なのだ。食糧はまさに戦略物資である。「今だけ、金だけ、自分だけ」をモットーとする人々に農業と食を任せておいては日本と日本人が危ない、という強い危機感に裏打ちされた憂国の書である。

② 昭和史にはほんとに学ぶことが多い。しかも知るにつけてもあきれたり首をひねったりだ。本筋ではないが謎解きの面白さもある。昭和史では双璧の二人が縦横に語り合った半藤一利・保阪正康『そして、メディアは日本を戦争に導いた』(東洋経済新報社、1575円)はテーマのツボをしっかり押さえて過不足なく論じている。本書によって読者はさらにさまざまな関連図書を読みたくなるだろう。メディアやジャーナリストを主題にして語られてはいるが、これは昭和史へのいざないの書でもあり、秘密保護法渦中の今、一読をお勧めしたい。
③ 「正論」や「WILL」のような保守系誌にはいつも同じような論者が登場して中韓や北朝鮮に対して威勢のいい意見をぶち上げている。産経を除く各紙はほとんど触らぬ神に祟りなしの態だが、山口行太郎『保守論壇亡国論』(K&Kプレス、1470円)は真向切り込んでいる。著者も保守なのだが、最近の保守論壇の劣化、思想的退廃に耐えられずに本書を執筆したという。中西輝政の「保守」とは単なる知識であって安倍政権の本質が見抜けていないとか、西部邁は小林秀雄や江藤淳をまったく理解できておらず福田恒存の保守思想とはまるで無縁の「保守主義」でしかない云々。櫻井よしこ、渡部昇一、西尾幹二、さらに孫崎享まで取り上げているが、みな、非保守の孫崎と同じイデオロギー化の陥穽に落ち込んでいるとする。昨今の保守論壇の本質を突いていて説得力がある。
④ ドイツを賞賛する論議が盛んである。EUの勝ち組、脱原発、戦後処理等々からの評価だろうが、実態はどうか。川口マーン恵美『住んでみたドイツ8勝2敗で日本の勝ち』(講談社+α新書、880円)によると、ドイツは息苦しくて問題だらけの国だという。小学生で人生は決まってしまう、サービスや便利という言葉は死語に近い、休暇自体がストレスの社会、など日本のほうがよほど力があり、住み心地がいいなどの日独比較論が展開される。両国の人々がお互いの実情も知らずに他国を誉めたりけなしたりしていることがよくわかる。(純)