読書通信2014年2月号

①藤本隆宏・東大教授は経済倶楽部講演で最高の熱弁を振るわれる講師の一人だ。いつも終了予定時間を30分近くオーバーされて司会者としてはハラハラするのが常だったが、退席する人もほとんどなく最後まで熱心に聞いていただけたほどの良い講演が常だったのは主催者冥利に尽きた。さらに講演録用の速記原稿に徹夜で手を入れてこられるのにも頭が下がった。
経済倶楽部での三回の講演をまとめて出来上がったのが藤本隆宏『現場主義の競争戦略』(新潮新書、756円)である。
というよりも、その講演録原稿にさらに推敲に推敲を重ね、たっぷり加筆もされて、いちだんと充実した内容になった。講演録よりも真意がより明快になり、かつ付加された事例により説得力が増しているので、再読する価値は十分にある。「本社よ、覚醒せよ」「戦うマザー工場を日本に残せ」「日本の現場は夜明け前だ」という著者の声に経営者たちが真剣に向き合うとき、日本企業の未来は洋々たるものがあると改めて感じた。
②デジカメの普及で写真フィルム市場は消滅した。売上げの6割がなくなった富士フィルムは本業消失の危機を乗り越えて新たな戦略分野の構築と改革に成功し、片やコダックは破産に追い込まれた。古森重隆『魂の経営』(東洋経済新報社、1680円)は富士フィルムの奇跡的ともいうべき第二の創業をリードしたCEOによる貴重なレポートであり、経営哲学の書である。何より経営責任者として全精力を傾けて取り組んだ実体験に裏打ちされた主張が説得力を高めている。前掲書と併せ読めばへたなビジネススクール以上の成果が得られるだろう。
余談だが、さる伝統ある経営者賞選考委員会の場で、一昨年、昨年と評者は古森氏を推薦しているのだが、他の選考委員の賛同がなかなか得られない。だが本書を読んで推薦してきたことに改めて自信を持った次第である。
③第二の権力たる司法に世間の関心が低いのはなぜだろう。森炎『司法権の内幕』(ちくま新書、798円)は元裁判官による驚天動地の「内幕」本であるが、といって興味本位の内容ではまったくない。死刑、政界汚職、冤罪事件などあくまで具体的事例に即して裁判と裁判官の実態に迫っている。正義とか公正とかいう言葉を安易に司法に使うことは今日からやめにしたくなる、目から鱗のお勧め本だ。
春日太一『あかんやつら』(文藝春秋、1942円)は東映京都撮影所半世紀の息吹が生々しく伝わってくる貴重なドキュメンタリーである。帯に「映画より熱く、馬鹿で、最高に面白い」とあるがまんざら誇大でもない。有名無名の製作者、監督、脚本家、俳優、スタッフが入り乱れて傑作、駄作の乱作へと突き進む。中村錦之助、高倉健などの大スターを超えて、所長・岡田茂の破天荒な言動に圧倒される。映画好きでなくとも見逃せない痛快作品である。(純)