読書通信2014年3月号

■ アジアをひとくくりにして欧米と対比させて論じることは誤りだ。アジアの中の日本と中韓の間の溝は日欧や日米と同じくらい深い。少なくとも文化人類学的に見ればそうなる。という視点から日本は凹型文化なのに対し、欧米も中韓も凸型文化なのだという根拠、例証を古今東西、膨大な歴史的事実、文献、発言などから探り論証したのが芳賀綏『日本人らしさの発見(大修館書店、2100円)である。
凸型は強烈な自己主張、言語による発信、一神教、差別、敵味方の峻別などを特徴としていて、しばしば日本的美徳ともされる寛容性、淡白さ、情、和、アミニズムなどとは異次元の世界だという。二つの文化が重層的、多面的かつ平易に究明されていて、なるほどと思わされること再三である。今、グローバルスタンダードは凸型ということになっているが、著者の視点は極めて明快で、しなやかな「日本人らしさ」という世界にもまれな特質を大事にし、それを世界に発信していくことで自他ともにプラスすることを目指そうとする提言は貴重である。読書の楽しみを併せて味わえるのもうれしい。
■ 日本が戦後独立してから62年、この間に28人の首相が生まれた。強烈な印象を残した首相はその半分もいないが、政権獲得時を中心にそれぞれ10ページ前後(安倍首相だけは長文だ)を割いて振り返った塩田潮『権力の握り方』(平凡社新書、945円)は拾い読みもよし、手元に置く資料としても便利だ。個人的関心からいうと古い時代ほど興味深い。歴史を下るほど宇野宗佑、海部俊樹、羽田孜、森喜郎、そして近年の数人など素材そのものが魅力に乏しい。要するに自民党政権が衰退するまでは個性的で志ある首相が多かったことを本書は問わず語りに明らかにする。政権の取り方自体が派閥抗争時代までは波乱万丈で面白く読める。
■ 薄熙来の失脚は中国の権力闘争の闇を象徴的に示したが、もっと大物の周永康がどうなるか、まだ決着はついていない。朝日新聞中国総局『紅の党』(朝日文庫、735円)は権力闘争を中心にした旧著に「エリート」「中南海」の二章を付け加えたために、より深く掘り下げた内容になった。中国の問題は中南海の権力構造に集約されるだけに本書は事の本質の理解に益するところが大きい。この国の権力に肉薄することの難しさも改めて感じさせられた。
■ ビッグデータ、サイバー戦争、クラウド。ネット空間をめぐる国家間と企業間の戦いについては「今さら聞けない」ことが多い。月尾嘉男『ビッグデータとサイバー戦争のカラクリ』(アスコム、1345円)は田原総一郎氏が聞き手となって、ビッグデータの裏にあるアメリカの情報処理システムと卓越したインテリジェンスが歴史を踏まえて説明される。あらゆる情報とデータは彼らの手中にあると知りながらなおSNSを使い続けるのか。怖い話である。(純)