読書通信2014年4月号

■ やはり一冊目はこの本から。 姜克實『石橋湛山』(吉川弘文館、2376円)は、永年の湛山研究を踏まえて過不足なく、そして手際よく湛山という人物とその業績を描き切っている。湛山についての知識があまりない読者にはまことに親切に書かれているし、ある程度のことは知っている読者には整理、確認に加えて著者ならではの視点や疑問点などの知見が明らかにされて有益である。

満遍なく時代を追って叙述されてはいくが、メリハリはもちろんある。戦前のジャーナリスト時代は小日本主義、戦後の政治家人生は唐突かつ不条理な公職追放である。前者は理念もさることながら経済的合理性からの必然的結論だったこと、後者はGHQという巨大権力に敢然として立ち向かったことに対する報復的謀略である。このような湛山の行動様式と人格が鮮明に現れる事象に紙数を割いた著者の判断は極めて的確だった。冷戦下、日中米ソ平和同盟というとてつもない構想に晩年の夢を懸けた湛山を静かに描いて本書も幕を閉じる。久しぶりに良い湛山論を得られたことはまことに喜ばしい。
■ 東日本大震災から3年。風評は風化してほしいが、多くの被災避難者がなお厳しい状況下にあることや3・11からのすべての日々が風化していくのは許されないことである。どうやって被災地の人びとに寄り添っていくのか。その手掛かりの一つは、やはり優れた文学や芸術の力を借りることにあるのではないか。
新聞協会賞や菊池寛賞を受賞した河北新報社『河北新報のいちばん長い日』(文春文庫、810円)が文庫化された。編集、印刷、物流はじめ会社全体がどのようにあの修羅場を乗り越え被災者を励まし続けたかの壮絶な記録である。へたな感想は述べたくないほどの迫力で心打たれる(まだの方はぜひお読みください)。
■ 中国という国は一筋縄ではいかない。映像も文字も一部を、しかも多くの場合、不正確に伝える。小林史憲『テレビに映る中国の97%は嘘である』(講談社+α新書、993円)はテレビ東京のプロデューサーによる取材体験記。反日デモ、中国一の金持ち村、マオタイ村と偽マオタイ、チベット族の村、毒ギョーザ事件、中朝国境など危ない目に遭いながらの取材の裏側とともに中国社会の実態が赤裸々にされる。記者もこの国では楽ではない。だがともかく中国の闇を懸命に追っていることがよくわかる。
■ 芥川賞に比べると近年の直木賞は水準がそろっている。その点、今年受賞した姫野カオルコ『昭和の犬』(幻冬舎、1728円)は、個人的に言うと例年ほどではなかった。昭和33年生まれの主人公が成長していくなかで、その時どきの人気テレビ番組が狂言回しというか背景を説明する。そしてそこには8種8匹の犬が添うのだが、のったりした雰囲気が楽しめる人、ものたりない人、どちらもありだろう。(純)