読書通信2017年3月号

■ ポピュリズムは大衆迎合的政治という意味で使われがちだが、これは少々正確さを欠く。既存の政党政治を超えて幅広く国民に訴えようとする政治スタイル、あるいは既成の政治を批判する立場からの政治運動、いずれかの意味で使うのが正しい。水島治郎『ポピュリズムとは何か』(中公新書、885円)はポピュリズムの定義と背景を整理した上で、南米と欧州での近年の動きを詳説し、ポピュリズムがグローバル化していると指摘している。
しばしば右傾化として認識されがちだが実態は非常に多様で、ベルギーのポピュリズム政党VBのようにリベラルでありながらイスラム教徒の非民主主義性だけは厳しく排斥して勢力を拡大する例もある。スイスやオランダなどあまり知られていない政治勢力についての事例や日本への言及は興味深く、「デモクラシーという上品なパーティに飛び込んできた招かれざる泥酔客」という比喩もなかなか面白い。
■ 母方の祖父、岸信介との因縁はともかく、安倍首相には父系の祖父に安倍寛という政治家がいた。村民の敬愛の念は強く、戦時中、大政翼賛会に加わらず無所属から立候補した劣勢の寛を草の根的に当選させたりした。寛は反戦を貫く硬骨の政治家として活躍するが、惜しくも戦後初の総選挙目前で亡くなっている。
青木理『安倍三代』朝日新聞出版、1728円)は村民や同級生たちへの丹念なインタビューをもとに三代の政治家を探っている。右寄りと見られた晋太郎が意外にリベラルでバランス感覚にあふれていたこと、成蹊小から成蹊大までの晋三が凡庸で目立ったところもなく政治に対する感度もほぼゼロだったことが明らかにされる。それがなぜ一強と言われる存在になったのか。日本の政界はその程度なのか、本人が劇的に変化したのか。ただし孫は父と祖父にはなぜかほとんど言及しない…。力作である。
■ 佐治晴夫『宇宙が教える人生の方程式』(幻冬舎、1188円)は日本を代表する理論物理学者によるエッセー集。「恋の80%はH2O」「戦いは脳の進化がもたらす負の産物」「『生きる』は100ワットの電球と同じエネルギー」など面白くて考えさせられる科学と人生の話が30編ほど並んでいる。といっても特段の科学知識を要求されることはない。個性的な著者の感性とエスプリを楽しみつつ、老化しかかった頭と心をリフレッシュさせてみるのはどうだろう。
■ 3・11大津波が襲った陸前高田で200年の歴史をもつ醤油工場の八木澤商店も壊滅した。ゼロから昔の醤油を復元するまでの苦闘を描いた竹内早希子『奇跡の醤』祥伝社、1836円)は気持ちの良いノンフィクションである。主人公の社長や家族、従業員、町の人々、時に葛藤や対立もあるが、みないい人ばかりだ。ちょっと感動させられる話も随所にある。あれから6年、元気がもらえる本である。(浅野 純次)