読書通信2017年4月号

■ トランプ大統領がメディアに登場する頻度は下降気味だが、トランプ旋風の意味を考える重要性はなんら低下していない。アメリカがどんな状況にあるのかをしっかり理解しておく必要はむしろこれから高まるのだろう。その意味で格好なのが金成隆一『ルポ トランプ王国』岩波新書、928円)で、著者は朝日新聞NY支局員として、メディアの予測とは真逆のトランプ陣営の異常な勢いに気づき、旧工業地帯や東部諸州を丹念に取材して歩く。
オハイオやヴァージニアで「生まれたときから」民主党支持だった(現・元)労働者や女性たちが熱烈なトランプ支持に変わっていく。その思いや生活実態が率直に語られる、庶民それぞれの発言はどれも軽視しえない種類のものである。ミドルクラスの消滅がたかだか20年かそこらの間にこれほどの勢いで進んだ理由、NAFTAの経済的影響は劇的でトランプのTPP反対が熱烈に受け入れられた背景などがよく理解できる。文章は読みやすく軽妙で、この春、見逃せぬ一冊である。
■ 理論派右翼の本とは思えない書名の鈴木邦男『憲法が危ない!』祥伝社新書、842円)はレッテルを貼ることの間違いを雄弁に語ってくれる。熱心な改憲派だった著者を右翼だと切って捨てることはたやすいが、今、何を主張するかで人は判断されなければならない。結論から言えば、その憲法論はまっとう至極で、いちいち首肯することばかりである。
一人ひとりの人間が自由に、平和に暮らせるためにこそ憲法はある、それなのに強い国家のために「強い憲法」が望まれている昨今の風潮は危険極まりないという。「憲法に愛国心、家族、道徳まで盛り込んではいけない」「自由のない自主憲法より自由のある押し付け憲法のほうが望ましい」「憲法は暴走のブレーキ役であるべし」など読み進めばリベラル派が書いた文章かとまがうばかりだ。大いに感服した。
■ 2・26事件ならよく知っているという人は多いだろうが、植松三十里『雪つもりし朝』角川書店、1620円)はそんな人にも十分面白いはずだ。基本は史実に忠実に、細部は著者が想像をはばたかせて構成したノンフィクション小説の秀作である。岡田啓介首相、鈴木貫太郎侍従長、秩父宮、牧野伸顕などおなじみの人物とそれぞれの脇役の描き方もいいが、出色は最後に登場する「ゴジラ」の監督、本多猪四郎で、この一章が本書に厚みを加えている。
■ 最後はミステリー小説で締めくくろう。岩木一麻『がん消滅の罠』宝島社、1490円)は「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しただけあって、二転、三転が楽しめる上に、病理学的なトリックに嘘っぽさがない。人物描写や会話をもう少し刈り込んで磨きが入ればと惜しまれるが、十分に及第点だろう。がんに関心のある人には特にお勧めである。(浅野 純次)