読書通信2017年7月号

■ 明治29年から120年余にわたり東洋経済がリベラルな立場を(幸運にも)保ち続けられた歴史を振り返るにつけても、日本政治から健全な保守が消滅しかかっていることを残念に思う。その意味で、塚田穂高『徹底検証 日本の右傾化』筑摩選書、1944円)はなかなか時宜を得た企画である。壊れる社会、政治と市民、国家と教育、家族と女性、言論と報道、蠢動する宗教の6部構成で21人の筆者がそれぞれの論点から右傾化の実態を探っている。
■中北浩爾「自民党の右傾化」、竹中佳彦「有権者の右傾化」、清末愛砂「憲法24条はなぜ狙われるのか」はじめ興味深い論文が多く、多様性に富んだ構成だが、さすがに21編にはややばらつきが感じられたことは否めない。このうち中北、竹中両論文によれば、安倍政治は確かに右傾化が著しいけれども、世論に支えられてそうなっているというよりも、政治が進んで右傾化しているにすぎない、という。とはいえ民主主義下でもナチスは誕生した。重要な論点が取り上げられている本として熟読したい。
■ 嫌韓本、反韓本が書店にあふれている(嫌中、反中も)。この手の本がすべて間違っているという気はないが、好ましいタイプのナショナリズムではありえず、日韓関係の将来が不安である。日本にも嫌なところが多々あるにしても、韓国人が嫌日、反日の本を読みあさっている風景を想像すればよい。お互い、その手の本は読まないで済むに越したことはない。
そんな中、牧野愛博『ルポ 絶望の韓国』(文春新書、993円)はよく書けている。書名(版元がつけたのだろう)の割に反韓では全然なく、甘韓でもない。朝日新聞ソウル特派員らしく文章もこなれているし、政治、歴史、経済、教育、社会、軍事、外交にかかわる取材の成果と厳しい目が向けられて読ませる。これ一冊で韓国のことはほとんどわかった気になるはずだ。
■ 昭和8年、世に言う「ゴー・ストップ事件」が起こった。大阪の繁華街・天六の交差点で赤信号を無視した軍人を警察官が交番へ連行した、というだけの事件である。だが軍部と警察(内務省)は互いのメンツをかけ、中央を巻き込む大事件となった。山田邦紀『軍が警察に勝った日』現代書館、2376円)はその一部始終を紹介して興味深い。5カ月もすったもんだした挙句、最後は表面妥協、実質、軍の勝利で収まったが、これを機に軍部独裁が進んでいく。その意味でも現代的意味は少なくない。興味本位の報道に終始した新聞の責任も大きかった。
■ 信長、秀吉、謙信、信玄ら27人の武将の辞世の句を紹介した加藤廣『戦国武将の辞世』朝日新書、820円)は著者一流の解説がセールスポイントだ。戦や謀反でいつ死ぬとも知れなかった武将たちは常に辞世の句を用意していた。確かにそれぞれ個性的だが、で、われわれ庶民の辞世は、と考えると結構面白い。(浅野 純次)