読書通信2017年10月号

■ 「内に立憲、外に帝国」という明治時代に多用されたスローガンは、一見、あの時代を象徴しているように見えなくもない。しかし、坂野潤治『帝国と立憲』筑摩書房、1836円)によると、立憲と帝国はあざなえるかのごとく交互に登場して日本を振り回した。1874年の台湾出兵から日中全面戦争が始まる1937年まで、立憲主義の拡大と帝国主義化が同時並立することはまれで、前者の時代は国会開設、政党内閣制、普選運動、さらには軍拡予算への抑制も働いた。一方、帝国化では日清・日露戦争から日韓併合、満蒙特殊権益へと進む。
問題は立憲の名のもとでの民主主義の定着および抑止力である。本書は「デモクラシーが戦争を抑え込み…発展するという好循環は、リベラルな政党内閣…の下でしか生じない」という歴史教訓を提示し、現下の日本政治を考える上で貴重な示唆を与えてくれる。リベラル派では原敬が「天皇統帥権否認」を、高橋是清が「参謀本部廃止」を主張したという驚くべき事実も知る。原、高橋や浜口雄幸、若槻礼次郎らの政党内閣が実現させた「立憲と非帝国の両立」からは、歴史の「if」が楽しめるだろう。
■ 9条もさることながら個人的には緊急事態条項のほうが心配なのは、首相への権限集中により、国民の権利を縛り奪うことになりかねないだろうから。長谷部恭男・石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』集英社新書、777円)は憲法学者とドイツ史の専門家の懇切丁寧な対談で問題の所在がよくわかる。
この国が危ない、と言われれば、テロやミサイルや震災が迫る中、備えは当然と思ってしまう人もいるだろう。だが緊急事態条項を突破口にヒトラー独裁を実現したナチスの先例を見れば、事はそれほど単純ではない。難しい法律論もあるが、そこは飛ばして読んでもいい。「ナチスの手口に学んではどうか」という政治家に負けずに、こちらもしっかり学ばないと…。
■ 飛騨といえば森と木工の里。だが近年、森は荒廃し、木工業は衰亡の一途をたどっていた。岡田賛三『よみがえる飛騨の匠』幻冬舎メディアコンサルティング、1512円)は老舗の木工家具会社を見事、立て直した実録で、へたな小説より面白い。見込み生産から受注産業への転換、これまで廃棄されてきた節のある木材を使った家具作り、地元の杉を圧縮材として活用する着想、等々を通じた社員の活性化など、生きた経営論としても大いに参考になるだろう。
■ 福島正則、田沼意次、上杉鷹山、徳川吉宗らを題材とする瀧澤中『「江戸大名」失敗の研究』PHP文庫、842円)は江戸大名の本と言いながら、昭和の人物と事件が半分近くを占める。「田沼と田中角栄」「赤穂事件と2・26事件」「上杉と浜口雄幸」など、政治力とリーダー論でもあってなかなか面白い。一読、江戸期と昭和期と、歴史から二度学べるかも。(浅野 純次)