読書通信 2018年3月号

■ リベラル=革新であるかの意見が多いのはかねて心外だった。実際、自民党にも昔は多くの良質なリベラル政治家がいたではないか。今回、「本来の」保守こそリベラルだと堂々の論陣を張っているのが中島岳志『保守と立憲』スタンド・ブックス、1944円)である。
保守とは人間の能力の不完全さに深く思いを致し、反対意見にも十全に耳を傾ける謙虚さを持つ。全能でないがゆえに、革命(左右にかかわらず)には否定的で改革も常に漸進的である。そしてデモクラシーの重要な点は死者の声に耳を澄ますことだとする。憲法について言えば先人たちの格闘と経験(つまり死者の声である)を教訓として受け止めながら漸進的に改善を進めることだ。安倍首相のような改憲論はこれと真逆の行き方だと全面的に否定している。
著者はこのように保守を規定したうえで、「弱い敵と共存する決意」(オルテガ)すなわち寛容にこそリベラルの本質を見出す。保守、リベラル、立憲主義、改革、自立など、今の時代に考えなければならないテーマにあふれていて、一読、多くを学んだ。貴重な良書である。


■ 「あの頃の政治家たちは良くも悪くも器が違ったなあ」と表紙の帯にある。角栄、中曽根、竹下、金丸…。岡崎守恭『自民党秘史』講談社現代新書、864円)を読むとまさにそのとおりと思わざるをえない。悪いのもいれば、あまり才ありと思えないのもいたが、個性豊か。とにかくエピソード満載で、政治家の奥座敷まで入り込んだ熟練ジャーナリストならではの絶妙の裏話がたくさん聞けて、政治の世界の真実(の一部)を知る。それに比べ昨今の政治家のちぢこましいことよ。こんな時代だからこんな政治家しか生まれないのか。あっという間に読み終えて、改めて政治の質に思いを馳せた。
■ 冒頭「この小説は史実から発想された」とある。1937年、日独合作の「新しき土」撮影現場に原節子や円谷英二が現れるのも、ドイツがタイタニックの悲劇を戦意高揚映画に仕上げたことも事実である。それらを素材にした松岡圭祐『ヒトラーの試写室』角川文庫、864円)は第一級の映画小説に仕上がっている。日本で円谷に学びドイツへ派遣されて特殊撮影に四苦八苦する主人公柴田彰。ひと癖もふた癖もあるドイツ人スタッフたち。完成を督促するゲッペルス。スリルも仕掛けもたっぷりある。映画ファンならずとも大いに楽しめよう。
■ 12月号で絶賛した『銀河鉄道の父』が直木賞を受賞したのは良かった。同じ賢治の文言から書名を考えたという若竹千佐子『おらおらでひとりいぐも』河出書房新社、1296円)が芥川賞を受賞、「玄冬小説の誕生」だとコピーにある。岩手弁と標準語が巧みに織り成されて自由で賑やかな74歳老女の一人暮らしが鮮やかに削り出される。それにしても饒舌がすぎると感じたのは高齢男子ゆえの偏見か。(浅野 純次)