読書通信 2018年4月号

■ 米国で大ベストセラーになったマイケル・ウォルフ『炎と怒り』早川書房、1944円)が邦訳されて1カ月経った。これは日本でも大いに読まれるべき本だ。とにかく大した取材力である。トランプの寝室にはテレビが3台ある、あの奇妙な髪型は禿を隠すためだ、などというのはどうでもいいことだが、ここまで知っているならその他の情報も正しそうだと読者は信頼するだろう(主要な情報源の一つはバノンらしい)。政権内部がこれほどハチャメチャというのも、要するにトランプ当選を本人、夫人、娘、側近まで誰も信じていなかったからだという。
主要な政権関係者22人のうちすでに13人が辞め、2人が解任間近らしい。世界地図も医療の仕組みもほとんど知らず、本もまともに読んだことがないという大統領が核問題や移民、医療行政の鍵を握っているとは。こんな人とその娘夫婦(ジャーヴァンカと本書は呼ぶ)に支配される国って大丈夫か、改めて考えさせられた。
■ 『明治維新という過ち』『官賊と幕臣たち』はどちらも傑作だったが、後者が原田伊織『続・明治維新という過ち 列強の侵略を防いだ幕臣たち』(講談社文庫、702円)として文庫化された。薩長が開国を果たし封建制に終止符を打ったというのは薩長史観の俗説であり、幕府には列強の無謀な要求に理路整然と論駁して日本の権益を守ろうとした幕臣官僚たちがいた。岩瀬忠震、水野忠則、川路聖謨らである。これに対し、著者によれば西郷や龍馬の実像は惨憺たるものであった。維新百年などという前に本書をじっくり読まれることをお勧めする。
■ 内戦が続くシリアの首都ダマスカス近郊の町ダラヤは、アサド政権側の攻撃を受けて孤立し、残された住民1万余が悲惨な生活を送っていた。デルフィーヌ・ミヌーイ『シリアの秘密図書館』(東京創元社、1728円)はダラヤに住む若者アフマドとその仲間が、各所に放置された1万5000冊の本を集めて地下室に「図書館」を作り上げた話である。
政府軍はTNTと金属を詰めた樽爆弾を4年間で6000樽も投下して建物や住民を吹き飛ばしてきた。めげずにアフマドたちは図書館で本を読み、議論し、映写会まで行う。著者は封鎖された現地に入れないため、スカイプやワッツアップにより彼らとの電話や映像だけで本書を執筆した。若者たちの考えや行動から平和な国の読者が学ぶことは極めて多いはずである。
■ 昨夏の刊行から半年で200万部とは驚きだ。吉野源三郎原作、羽賀翔一漫画『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス、1404円)を思い切って買ってみた。漫画だけで原作をどこまで表現できるかと思っていたが、叔父さんがコペル君に伝えたい内容は文章のままでこれが全ページの2割に及ぶ。若い読者がここを飛ばさないようであってほしい。子や孫へのプレゼントが多いそうである。(浅野 純次)