読書通信 2018年5月号

■ とっくに本欄で紹介したつもりでいたが、そうでなかったことに気づいて書棚から引っ張り出した。これは絶対に見逃せない本だと思うので、今からでもぜひお読みいただければと。旗手啓介『告白』講談社、1944円)は読む者をカンボジアPKOの混乱の現場へと誘い込むのみならず、謎解きの面白さも味わえる。昨今、屈指のドキュメンタリーだろう。PKO(国連平和維持活動)で派遣された日本の文民警察は文民の名のとおり丸腰だった。政府として死傷者だけは避けたかった自衛隊は南部の安全地帯へ、対して警官は危険な北部のポルポト派支配地域などへ派遣される。案の定、高田警部補が銃撃に遭い死亡、重軽傷者も出た。だが時の宮澤政権はこれを単なる事故扱いとし、同僚警官には滞在時はおろか帰国後も一切の発言、記録執筆を禁じる。欧州各国は分厚い報告書を作成して国民に明らかにしたというのに、日本はひたすら隠蔽した。23年後の取材でようやく当事者や外国人に重い口を開かせた「NHKスペシャル」は数々の賞を受賞したが、著者はそのディレクター。PKOとは、権力の説明責任とは。多くを考えさせられる。
■ 中高生のスマホ普及率は7割以上だとか。川島隆太『スマホが学力を破壊する』集英社新書、799円)は親子必読で、スマホをやればやるほど学力低下が歴然の怖いデータが山盛りである。破壊的影響が明白なのは数学と理科。自宅学習中に音楽・ゲーム・動画・LINEを併せて行うマルチタスクは最悪で、いくら勉強しても少しも頭に入らない。スマホと脳の話も専門家ならでは。大いに納得がいく。スマホは亡国の玉手箱であり、人口減少などよりはるかに恐ろしいことに気づくべきだ。それも早いほどいい。大人の脳に関する言及も見逃せない。
■ 昭和史の主要人物の言動を拾い出して時代を描き出すとどうなるか。保阪正康『人を見る目』新潮新書、820円)は追従、お節介、横柄など20のテーマを取り上げている。追従では東条英機「納豆組」のべたべた上下関係。佐藤賢了は東條の喜びそうな報告ばかり上げて、また田中隆吉はゴマすり専門で、ともに東條全盛期に異例の出世を遂げた。嫌がらせでは統帥権干犯という妖怪を引きずり出した政友会の森恪、お節介では昭和史最大のお調子者として松岡洋右など。庶民のほうがずっとましだった。
■ 義和団の乱を主題にした松岡圭祐『黄砂の進撃』講談社文庫、756円)は前作『黄砂の籠城』とガラッと変わって主人公は漢人の労働者や農民たち。「扶清滅洋」の旗印のもとゼロから一大勢力となった義和団が東港民巷(北京在外公館区域)へ攻め込むまでをおおむね史実に即しつつも見事な脚色で一気に読める。清朝末期を宮廷側から描いた浅田次郎の傑作『蒼穹の昴』『珍姫の井戸』とも重なり合うが、本書は民衆の側のエネルギーが主人公である。(浅野 純次)