読書通信 2018年7月号

■ 東京西部の<RUBY CHAR=”五日市”,”いつかいち”>町(現あきる野市)の土蔵から明治期の古文書が発見されてからちょうど50年が経った。今、それは「五日市憲法」と呼ばれ注目が集まっている。新井勝紘『五日市憲法』岩波新書、885円)は発見のいきさつ、起草者の千葉卓三郎の足どり、五日市という町、そして文書が埋もれていく過程まで、発見者であり研究者である著者ならではの生き生きとした筆致による貴重な記録である。
明治の初め、市井の人々が議論を重ねて憲法草案を起草したエネルギーには圧倒される。昨今のいかにも軽々しい憲法改正案の文言と比べるとき、権力と国民との関係を徹底的に論じ、理想の国のあり方を追求した真摯な姿勢から学ぶものは多い。「五日市憲法」の条文を読むと現憲法よりも優れていると思われる個所さえ散見されるなど、おおいに感服させられた。
■ <RUBY CHAR=”薪”,”まき”>を背負って歩きながら本を読む二宮金次郎の像(戦後も校門脇にあった)はいまだに印象深い。小澤祥司『二宮金次郎とは何だったのか』西日本出版社、1944円)は二宮尊徳の生涯と後継者たちによる報徳運動継承の努力を前半、地方改良運動のシンボルとして利用された戦中の「臣民の手本」としての尊徳を後半に構成されている。報徳運動の実際と、戦時下、国民に虚像が刷り込まれたことに加え、戦後、GHQ右派が逆に尊徳を民主主義者として利用しようとした話も興味深い。そして今、道徳教科書に尊徳の虚像が再び登場し始めている。
■ 誰もがネットで情報を取り、誰でもネットで発信者として意見を言える時代は、ある意味で怖い社会である。福田直子『デジタル・ポピュリズム』集英社新書、799円)からは、ネットを駆使しているつもりのわれわれが、実は利用されている数々の事実を知る。検索したり「いいね」をクリックする都度、「あちら側」はアルゴリズム(情報処理のプログラミング)によって新たな最適解を導き出し、ネット上に植え付け、私たちを誘導しようとする。ツイッターの書き込みや「いいね」のかさ上げでさえ、ボットと呼ばれるソフトによって簡単に果たされるのだという。ネット社会の仕組みを知り、対応するうえで時宜を得た好著である。
■ 食と健康についてはあまたの俗説があり、その中に一握りの真理がある。だが津川友介『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』東洋経済新報社、1620円)の主張は単純明快である。要するに膨大な科学的論文の集積が認められている知見こそ正しいのだからそれを尊重せよ、ということだ。その結論は「精製したコメや麦、牛豚肉、ハム・ソーセージは体に良くないが、玄米、ソバ、オリーブオイル、ナッツ、果物、魚は体に良い」だった。評者の永年の実践にほぼ近いが、食の世界はなお奥深いという感も強い。海草だとか発酵食品だとかお酒だとか。続編が期待される。(浅野 純次)