読書通信 2018年8月号

■ 先の大戦で日本の経済学者たちは日米独の戦力をどのように分析し、それは開戦にどう影響したのだろうか。牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦―秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』(新潮選書、1404円)は、石橋湛山賞を受賞した『戦時下の経済学者』のいわば続編であるが、前作に劣らぬ力作であり、奥が深い。
人民戦線事件で検挙され保釈中の有沢広巳をはじめ、中山伊知郎、森田優三、宮川実、武村忠雄などそうそうたる経済学者たちが参加して研究したのが秋丸次朗主計中佐の主宰する秋丸機関だった。陸軍が日米の力の差をわきまえず無謀な戦争に突っ込んでいった、という俗説ほど実際は単純ではなかったらしい。学者たちは日米独の経済力をほぼ正確に分析して報告書にまとめているし、軍部の認識もそれと大差はなかった。ではなぜ開戦に至ったのか。有沢の戦後の証言がなぜ事実に反したのか。学者と軍人たちの動静は推理小説の趣さえあって、引き込まれる。戦後につながる部分も面白い。
■ 文科省の役人たちが官邸の意向を忖度しすぎたことが加計学園問題の本質であるのだろうが、それは一朝一夕に生まれた体質ではなかった。前川喜平『面従腹背』(毎日新聞出版、1404円)は時節柄のキワモノではまったくない。教育の本質をしっかりと見詰め、個人の尊厳と国の未来を確かなものとするために何が求められているかを、明確無比に語っている。
教員免許更新制、国歌・国旗の指導、教科書採択問題、教育基本法改正、道徳の教科化など、著者のかかわった文部行政への思いや面従腹背の真意が語られる。個の確立へ向けて真摯に対応する著者の苦渋の選択にはほとんど納得がいく。加計学園をめぐる鼎談が説得力をもつのも著者の半生史を読んでの上だからだろう。
■ 維新史の中で虚像と実像の落差の激しい点で勝海舟の右に出るものはいない。何より『氷川清話』と司馬本の影響が大きいのだろう。水野靖夫『勝海舟の罠』毎日ワンズ、1620円)は勝の虚構をはぎとっていって一気に読める。『氷川清話』は勝、最晩年の気楽な放談の書だが、著者はさまざまな史料からその矛盾点を次々に明らかにしていく。「西郷・勝会談による江戸無血開城」の大ウソなど、ファンには申し訳ないが大いに楽しめる。
■ 声は大事だ。説得力も、人間的魅力も、愛の力も、顔の表情と声で決まる(と思い込んで何十年か過ぎた)。過日、竹内一郎『人生は「声」で決まる』朝日新書、810円)に出会って、確信は強まった。「人は声に寄ってくる」し、「声は社会を映す鏡」であり、「声を生かして生きる」ことが大事だという。そして「豊かな声をつくる術」が披露される。ベストセラー『人は見た目が9割』を執筆した劇作家・演出家ならではの著者の提案に従って「人生を変える」声に挑戦してみてはどうだろう。(浅野 純次)