読書通信 2018年11月号

■ 日本の金融・証券政策と銀証ビジネスほど錯誤を繰り返した例は珍しいのではないか。高度成長期には矛盾はさほど表面化しなかったが、この30年はさすがにいかんともしがたく、銀行も証券会社も世界に劣後した感は否めない。
 太田康夫『金融失策 20年の真実』日本経済新聞出版社、1944円)は、新聞記者としての取材をもとに誤算、失政、混迷の金融行政と業界の内幕を丹念に追っている。著者の立場は適度な自由主義というほどのものでおおむね異存はないが、官も民もこれほど失敗が続くということの本質をどう説明したらいいのだろう。要するに日本人には金融のセンスが欠如しているにすぎないのか。深く考えさせられた。
■ 国境なき記者団による報道の自由ランキングで米国は何位だろうか。この種のランキングを信じる気はさらさらないが、話の種に調べてみると45位だった(韓国43位、日本67位)。おそらく権力とメディアの関係が響いているのだろう。特にCIAは悪名高い。ニコラス・スカウ『驚くべきCIAの世論操作』インターナショナル新書、820円)を読むと、ここまでメディアを丸め込むのかと感心してしまう。
ベトナム戦争、コカイン犯罪、イラク戦争、グアンタナモ収容所で記者たちをCIAがどう操ったか。ハリウッドでは製作者、監督、俳優を取り込みCIAに都合の良い内容の映画を作らせる。これでは45位でも甘いかもしれない。日本の政官の驚くべき情報隠しなどを見ていると、他山の石として一読の価値はある。
■ 京都市北区の上賀茂神社近くにこの「おせっかい診療所」(とは評者が勝手につけた名だが)はある。訪問診療を精力的に行っていて、おせっかいというのは依頼があれば積極的に出かけていき、家族とも患者ともたっぷり話をし、親身になって先のことまで考え、提案していくから。だから多くは在宅の看取りになる。
渡辺西賀茂診療所編『京都の訪問診療所 おせっかい日誌』幻冬舎、1512円)は心温まる貴重な医療ドキュメントである。渡辺院長の筆になる本文も立派だが、看護士や介護士などスタッフと患者の家族によるエッセイがどれも感動的だ。わが街にもこんな訪問診療所が出来たらと思わずにはいられなかった。
■ 上野で開催中のフェルメール展を閑寂に見る。そんな夢がかなう宝くじでもあったらいいのに。秦新二・成田睦子『フェルメール最後の真実』文春文庫、1080円)は限られたフェルメール作品を世界各地から借り出し(これが至難である)日本で企画展をどのように実現してきたかを披露する。何よりフェルメール・シンジケートを構成する専門家たちの言動を率直に描いている(著者もその一人)のが魅力だ。極めて個性的な彼らの実像が本書で初めて明らかにされるとともに、フェルメールの全作品をカラーで楽しむことができる。(浅野 純次)