読書通信 2018年12月号

■ サカナ世界と暴力団のかかわりは極めて深いらしい。だが新聞で実態が明らかにされることはまれだ。確かに新聞記者など怖くて取材も容易でなかろう。であればフリージャーナリストの出番である。鈴木智彦『サカナとヤクザ』小学館、1728円)の著者はヤクザ専門誌の編集部に入った後、独立して関連本を多数、出版してきた。本書でも闇の世界に接触する一方、隠密に現場で働いて実情に迫ろうとする。
三陸アワビや北海道ナマコの密猟から、ウナギの国際密輸シンジケートを追って九州、台湾、香港へ。さらに築地市場への潜入ルポや暴力漁港・銚子の戦後史など、どこにもヤクザの影がつきまとい、身の危険を感じること一度ならず。人々の食卓に魚介が届くまでにこれほどの密漁、乱獲、暴利があったとは。暴力団の資金源に私たちが一役買っているということでもある。アワビやウナギは少し控え目にしようか。
■ 政治家と官僚、どちらの劣化がはなはだしいのだろう。政治家は選ぶ国民にも責任があり、昨今のスキャンダルの多さからは官僚のほうが心配の度合いは高い気がする。佐藤優『官僚の掟』朝日新書、853円)は日本の官僚制についての明快な分析ととともに、数多くの事例により説得力が強まるのは著者ならでは。特に外務省の分析は自家薬籠中の物ともいえる。
中でも第4章「第二官僚の誕生」は重要である。かつては政治家と官僚の間に緊張感があった。政治家に知見と見識があり、官僚も時には直言した。しかし昨今、「経産省内閣」といわれるほど官邸に経産官僚があふれ実権を振るっている。他省庁は官邸の威の前にひれ伏さんばかりだ。ヒトラーの治世と同様、総統(今、総理)と一心同体の官僚が第二官僚である。ナチスと似た時代になってきたとすれば世は危うい。官僚の質はやはり政治次第なのだろう。
■ プライベートバンカーとは、億円単位の資金を運用する金持ちを相手に助言したり手続きを代行したりするプロのことである。清武英利『プライベートバンカー』講談社+α文庫、972円)は実話とフィクションがない交ぜになってとにかく面白い。舞台はシンガポール。主人公は顧客のために運用と脱税・節税を取り仕切るが、裏切り、ヘッドハント、国税、税逃れの日本人居住者の生態から逮捕劇まで、海を越えたマネーの世界を縦横に知ることができる。
■ スターリンの独裁を告発したジョージ・オーウェルの傑作を漫画化した石ノ森章太郎『アニマル・ファーム』ちくま文庫、799円)が文庫版として復刻された。悪賢い豚の指導者に煽動された家畜たちの騒動は、旧ソ連に吹き荒れた悲劇というにとどまらずなお現代的意味を失っていない。コマ割り、遠近法、動的表現、明暗法などマンガの極致ともいうべき石ノ森の技術の冴えを堪能できる。併録された2編の短編マンガは怖いことこの上なしだ。(浅野 純次)