読書通信 2019年1月号

■ 恒例により昨年取り上げた47冊の中からベストテンを。ジャンルが偏らぬようにしたのと面白さを重視した点をお断りしたい(掲載順、〇数字は月号)。森功『悪だくみ』①、中島岳志『保守と立憲』③、ミヌーイ『シリアの秘密図書館』④、旗手啓介『告白』⑤、新井紀子『AI教科書が読めない子どもたち』⑥、新井勝紘『五日市憲法』⑦、福田直子『デジタル・ポピュリズム』⑦、牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦』⑧、田中秀征『自民党本流と保守本流』⑨、神野直彦『経済学は悲しみを分かち合うために』⑨。番外として渡辺西賀茂診療所『京都の訪問診療所』⑪は医療介護の現実と理想を、秦新二・成田敦子『フェルメール最後の真実』⑪は想像を超える絵画と企画展の世界を知る。
■ 前著『知ってはいけない―隠された日本支配の構造』(講談社現代新書)はまさに目から鱗の本だった。続編2は副題に「日本の主権はこうして失われた」とあり、日本の外交や安全保障がアメリカの支配下にあり続ける理由を歴史的に丁寧に分析、解説している。 矢部宏治『知ってはいけない2』講談社現代新書、950円)は、日米関係は安保条約によって規定されているという常識を根底からひっくり返す。日米取り決めは驚くべき密約の数々によって動かされ変更される。著者は丹念に外交文書を掘り起こしていき、その改ざんの跡を提示する。結果として米軍はどんな日米取り決めも守らなくていいことが明らかになる。こんな国は世界にない。本書により、政治家、官僚に最低限のナショナリズムさえ失われている現状を知ることは重要なことであるだろう。決してすらすら読める内容ではないが、このくらい読み通せないでどうする、という気がした。
■ 正月のNHKテレビでドラマ化されたのでご覧になった方も多かろう。門井慶喜『家康、江戸を建てる』(祥伝社文庫、928円)が文庫化された。テレビドラマは視覚的な面白さを追求しているのでもうひとつ物足りない面があった。その点、本書では、川の流れを変えて洪水から江戸を守る、上水を江戸まで引いて上質な飲み水を確保する、金貨を延べて秀吉からの自立を図る、石垣を積み天守閣を作る、などの大事業が見事に描かれている(テレビは上水と金貨の話)。現場のリーダーや職人もすごいが、家康の力量を見直してしまった。小判作りの話などは今に通じる点も多く、テレビでは描けなかった事実と面白さにあふれている。
■ アントン・F・シンドラーをご存知だろうか。ベートーヴェンの伝記作家として誰よりも彼に忠義を尽くした男が、音楽史上最大のスキャンダル「会話帳改ざん事件」を起こした。かげはら史帆『ベートーヴェン捏造』(柏書房、1836円)は音楽好きにはたまらない傑作ノンフィクションで、初の単著とは驚きだ。新たなベートーヴェン像の登場である。(浅野 純次)