読書通信 2019年3月号

■ 現役政治家だった頃の野中広務には、率直にいってそれほど関心はなかった。こわもての政治家で右寄りだが、戦争の臭いには敏感な人、というのが個人的印象で、それ以上でも以下でもなかった。しかし菊池正史『「影の総理」と呼ばれた男』講談社現代新書、950円)を読んで、見方は一変した。地方政治家としても国会議員としても敵は容赦なくやっつけるが、その敵は永久的ではない。政治状況が変われば敵が友になることは野中にとってなんの矛盾でもない。そんな変幻自在な、しかし軸はぶれない政治家の姿は昨今、希少価値であるだろう。
「あの戦争に生き残り、生かされた私の使命は二度と戦争を起こさせないことだ」。そして「弱者を見捨てない」。この言葉を若い世代に伝えるべく全力を尽くしたのに、戦争を知らぬ政治家たちは集団的自衛権へと突っ走った。著者は日本テレビの政治部デスク。戦後政治史としても切れ味鋭いものがあり大いに勉強になった。良質の政治評論も立派だ。気骨の政治家の一生を描いて政治のありようを問うた力作である。
■ この先も日本企業の国際競争力は低下の一途なのだろうか。経営者か、社員か、組織のあり方か、欠陥はどこにあるのか。と考えていたら、熊野英生『なぜ日本の会社は生産性が低いのか』文春新書、950円)は先進国最低レベルとなった生産性の実態を経済学の基本に帰って解説してくれた。本書を通読すると、ワンオペ化とか長時間労働とか投資抑制とか最近の傾向が必然的に生産性低下を招いていることがわかってきた。人にもっと投資せよ。一見、単純だが的を射た提言である。本書を参考に早く手を打たないといけない。四半期決算ばかり気にせずに。働く上のヒントの数々もいい。
■ 短期講和を構想して真珠湾作戦やミッドウェー海戦に臨みながら東條政権によって長期戦という真逆の方向へ追い詰められていった五十六の悲劇を、保阪正康『山本五十六の戦争』毎日新聞出版、1728円)は過不足なく描いている。注目されるのはブーゲンビル島上空で撃墜され即死とされてきた五十六が、実はジャングルの中で20時間、存命していた事実である。軍部はそれを懸命に秘匿した。もし五十六が死を覚悟して前線などへ出向かず、早期講和内閣成立に尽力していたら、あまたの悲劇は避けられた。歴史のifが迫ってくる書である。
■ 読書の楽しみ、読書の薦め、読書術。さまざまな読書本が出版される。岸見一郎『本をどう読むか』ポプラ新書、864円)もその一つ。アドラー心理学でベストセラーを連発している哲学者らしく、なぜ、どうやって、どんな本を読むのか、理路整然と語っている。とはいえ堅苦しいところはない。でもこの種の本を読んでいると、読み終える前に早くあの本、この本を読みたくなる。そんな読書の薦め本の著者はもって瞑すべきなのだろうか。(浅野 純次)