読書通信 2020年7月号

■ 安倍政権のもとでの公文書の秘匿、廃棄、そして改ざん。こんなことがいつまで続くのか。黒川東京高検検事長の人事に関連しては記録(公文書)さえ残されていない。これでは事実確認も後日の検証もできるはずがなく、民主主義の崩壊につながりかねないと思っていたら、毎日新聞取材班『公文書危機 闇に葬られた記録』毎日新聞出版、1650円)が目に入った。
冒頭、財務官僚が「財務省の力の源泉は何か」と問い、記者の(まっとうな)答えを否定して「違います、記録です」と言う。そうなのだ。役所にとって記録こそ力であるのに、それを作らせなかったり、改ざんしたり、廃棄したりでは自殺者が出るのも無理はない。政治家の責任は無限大だ。日米関係を重視する政治家なら、せめて米国の公文書重視に学んでほしい。鳩山友紀夫、福田康夫、前川喜平、御厨貴ほかの人たちへのインタビューには考えさせられた。
■ 映画監督のオリバー・ストーン、アメリカン大学教授のピーター・カズニック、元首相の鳩山友紀夫、鹿児島大学教授の木村朗、4氏の対談、鼎談で構成されるO・ストーンほか『もうひとつの日米戦後史』詩想社新書、1155円)は、米側2氏の対米(対日ではない)批判の厳しさに圧倒された。原爆投下の狙いから、ケネディ暗殺の背景、冷戦の主役、クリミアでの策謀、イスラム差別、等々まで軍産複合体、ネオコン、米国政治に対する告発は論理的で、これに反論するのは容易でないだろう。
日本人は米国の本当の姿をまるで知らないと言われているように感じる。確かに米国という国は一筋縄ではいかない。安倍対トランプでは役者が違う。本書で米国という国を確認することは意義深いことだ。ところで米側2氏が評価する政治家はヘンリー・ウォレス(戦時中の米副大統領)とJFKである。ヒラリーとトランプ論(日本側2氏の評価との違いも)も興味深い。
■ 赤字農家が年商1億円のメロン農家となっていく裏でのてんやわんや、寺坂祐一『農家はつらいよ』同文舘出版、1870円)は詳細かつ延々と苦労話が続く。地元農家の閉鎖社会でいびられ、アル中の祖父母や父にひどい目に遭い、果てはハウスに除草剤をまかれて6600玉が全滅、倒産の危機に直面する。神経をさいなまれ、自殺しかけ、カウンセリングを受けて救われ、最後はクラウド・ファンディングで立ち直るまでの468ページ、終始、楽しめた。
■ カラスのすべてを描いた松原始『カラスは飼えるか』新潮社、1540円)は痛快かつ面白い。一見、賢そうなカラスの実力と性格は人類の常識とはまるで違うと、カラスの専門学者たる著者はカラス愛にあふれた研究成果を披露する。天敵フクロウからカササギ、鷹、ドードーまで話は広がり、一貫してサービス精神満点だ。さてカラスは飼えるか。飼えるが、著者は飼わない。なぜかが泣かせる。(浅野 純次)