読書通信 2020年9月号

■ 近畿財務局上席管理官だった赤木俊夫さんが自死したのは森友学園文書の改ざんを苦にしてのことだが、赤木雅子+相澤冬樹『私は真実が知りたい』文藝春秋、1650円)は夫人が大阪日々の記者(共著者)とともに元上司たちに真実のありかを尋ねて回るのが圧巻である。真実を知りたい、それだけのために長時間待ち続けつかまえ質問を浴びせる。しかし誰もまともに対応しない。ひたすら逃げ回る。官僚としての責任感も矜持もあったものではない。
こんな上司たちにいいように使われ見捨てられた故人が気の毒だが、日本の官僚組織の無責任ぶりを明らかにしただけでも本書の価値は大きい。すべては忖度と出世。そして実際、関係者はみな栄転していて、その実名が明かされる。佐川財務局長だけではない。公僕とは公務員のことと辞書にあるが、故人は「ぼくの契約相手は国民です」と普段から言っていたそうである。
■ 高度成長からバブル期までを21講、21人の学者がコンパクトに執筆した筒井清忠編『昭和史講義(下)』ちくま新書、1210円)はなかなかユニークな構成である。安保闘争時の「新左翼」とか「全共闘」など普通なら登場しないテーマを詳細に整理したり「日韓基本条約」や「歴史認識問題」に光を当てるなど、政治や経済に偏らない編集方針が好ましい。第1講を石橋内閣から始めたのも良かった。筆者の牧野邦昭は湛山研究の第一人者だが、簡にして要を得た出色の論考である。湛山がどのような知見と意図をもって政治活動したか、池田内閣下の高度成長は蔵相、通産相としての湛山の言動の中にすでに芽生えていた、などこの稿だけでも本書を手にする価値は十分ある。
■ 戦前戦中の写真といえば白黒だった。だが白黒写真は過去形という心証が強い。そこでAIと関係者の証言によってカラー化する試みが行われてきた。庭田杏珠・渡邊英徳『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書、1650円)はその成果である。355枚の白黒写真をカラー化した紙面は戦争に対する思いや感情を強烈に呼び覚ます。まさに「記憶が解凍」されてくる過程である。戦争末期、米側が撮影した写真は壮絶の一語だ。平和な時代しか知らない人にはぜひ手にとってほしい。ページが打たれていないのもしゃれている。
■ 東京駅、岩崎邸、ニコライ堂、鳩山一郎邸、自由学園、東京文化会館。東京は歴史遺産としての建築物であふれている。若山滋『寡黙なる饒舌』現代書館、1870円)はそれら建築物の技術的紹介は抑えぎみにして、その歴史的、人間的、社会的側面に光を当て、闊達な文明批評を展開している。「建築は否応なく時代のイデオロギーを背負う」とは至言だろう。建築物は単なる物ではなく、裏に必ずドラマがある。24の建築物、どれも訪ねてみたくなるだろう。それほど深く、見事な語り口だ。(浅野 純次)