読書通信 2020年10月号

■ 安倍政治を厳しく論評してきた山口二郎氏と一定の評価をしてきた佐藤優氏の組み合わせの割に波長の合った対話が展開するのが佐藤優・山口二郎『長期政権のあと』祥伝社新書、968円)だ。キリスト教の価値観で一致する点が相性の理由らしい。「かつての自民党政権はレンガを積み上げるようにして政策を実現させたが、安倍政権は積み木の散らかった子ども部屋みたいなもの」(山口氏)というのは言いえて妙だし、佐藤氏の「(株高+円安)×対米追随」が安倍長期政権の方程式だ、というのも正しい(正確には《円安+↓株高》だろう)。
安倍政権が長期化したのは国民が変化を欲しなくなっているから、という指摘は正鵠を得ているし、「安倍政権後に訪れる国難」では経済の破綻、教育の劣化、家族モデルの崩壊など、長期政権の無策が説得力をもって語られる。ポスト安倍論で菅という名は出てこないが、それはともかく、そして個々の政治家の評価には異論があるにしても、見逃せない政治論である。
■ 意外に真っ当で謙虚なところのある政治家だと感心した。辻元清美『国対委員長』集英社新書、990円)は、国対委員長を2年間務めた著者の、与党との丁々発止(相手は森山裕氏)の話が波乱の連続で、知られざる国対の世界に連れこまれる。虚々実々でありながら、どこで妥協するか、互いを信用するかしないかというまことに人間臭いやりとりが続くらしい。
メディアは予算委員会ばかり報道するが、その裏には国対でのぎりぎりの交渉がある。議員の数だけではない国会の取り引きはとても重要だと改めて感じたし、野党の審議拒否の重みもよくわかった。憲法をめぐる著者の考え方は国対の話の後だけに説得力がある。野党に期待する人はもとより、しない人にも良い本と思う。
■ 映画や舞台の名優たちが戦中戦後をどう生き抜いたかを書き下ろした濱田研吾『俳優と戦争と活字と』ちくま文庫、1210円)は読み応え十分である。伊藤雄之助、徳川無声、芦田伸介、信欣三、木村功、山田五十鈴、三橋達也はじめ698人も登場する。原爆で家族や俳優仲間を亡くしたり、満州から命からがら引き揚げる話など、無数のエピソードにほろっとすることたびたびだ。ちょっといい話も多々ある。戦争だけは二度とごめんだと他人事とは思えず読んだ。たいへんな労作であり秀作である。
■ 書店の棚は新型ウイルス本であふれているが、感染防止と感染したときの対応という点で本間真二郎『感染を恐れない暮らし方』講談社、1650円)はとても役に立つと思う。ウイルスやワクチンの専門家だけに曖昧なところがまるでないし、生活全般にわたって的確な助言が満載である。免疫力と自然治癒力を生活の中で高めることが大事という姿勢がいいし、食や薬、運動と呼吸について評者の永年の考えとほぼ一致しているのもうれしい。(浅野 純次)