読書通信 2021年1月号

■ 昨年取り上げた47冊の中からベストテンを選んでみた(○数字は月号)。まず檀乃歩也『北斎になりすました女』⑤全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』⑥濱田研吾『俳優と戦争と活字と』⑩は「この年の3冊」の原稿を某紙から頼まれて挙げた秀作である。劣らず池辺晋一郎『音楽ってなんだろう?』④松原始『カラスは飼えるか』⑦もいい。子どもや孫が大事な人には新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』①後藤道夫『子どもにウケる科学手品ベスト版』②を、硬派では毎日新聞取材班『公文書危機』⑦石井妙子『女帝 小池百合子』⑧が出色。あと1冊、石井一『冤罪』④は異色の角栄本だ。
■ 日本にとっての最大の問題の一つは国と地方の関係であると思う。それは単に地方分権を進めればいいという話ではない。片山善博『知事の真贋』文春新書、880円)はそのことを考える最良の手引きであり、見事な論考である。鳥取県知事や総務相を経験した著者はこの問題を両側から論じるに最適の一人と思う。
論点はパンデミックへの自治体と政府の対応で、小池都政、吉村府政など遠慮なく切り込んでいる。政府も厳しく批判されるが、もとより気楽な政治批評などではなく、法令解釈や予算、知事権限など地方自治の根幹に関わる部分を詳細に解説して説得力十分だ。脆弱な地方自治に住民としてどう向かい合うか、大いに刺激になる。政府の司令塔に著者のような人が加わっていればこれほど無残な感染対応にはならなかったろうが、政権はこういう人は煙たいのだろう。
■ 英語を小学校から必修にという謬論がまかり通っている。それより国語力をしっかり身につけてほしい。鳥飼玖美子・斎藤兆史『迷える英語好きたちへ』インターナショナル新書、924円)は文科省の英語教育や英語試験での混迷を痛烈に批判していて評者にとってはわが意を得た感があった。とくに英語試験での「四技能(読む、書く、話す、聞く)信仰」を完膚なくやっつけていて痛快でさえある。
もう一つ気に入ったのはカタカナ英語への批判で、クラスター、GO TOトラベル、オーバーシュートがみな間違いであることもきちんと説明されている。感染症に限らずカタカナ英語の氾濫の理由と弊害についての解説は非常に有益で、「英語好き」でなくとも一読の価値がある。
■ もとより「死の勝利」「夜警」「睡蓮」「叫び」などの名画を感性で楽しむのもいいけれど、それだけでは物足りない。名画の背後には宗教や王侯貴族と平民など多様な文化があり、それを知れば面白みがぐんと増す。木村泰司『名画はおしゃべり』ワニブックス、1430円)はルーベンス、レンブラント、ヨルダーンス、フェルメール、ゴーギャンなどの名画を素材に彼らの人生をも語って興味津々である。著者のおしゃべりも縦横無尽だが、名画の裏にある「物語」も確かに傾聴に値すると思った。(浅野 純次)