読書通信 2021年2月号

■ 戦後政治と検察の緊張関係は強まったり弱まったり、時に政治が検察人事を支配し、逆に特捜が政治家の肝を冷やしもする。安倍政権で検察人事を取り仕切ったのは菅官房長官と杉田和博副長官だった。政権の下では黒川弘務東京高検検事長が重用され、ついには検察庁法の改正、定年延長などの無理筋が登場し、挫折した。
村山治『安倍・菅政権vs.検察庁』文藝春秋、1760円)はベテラン司法記者ならでは、政権後半の4年間に両者の間に起きた暗闘の緻密な描写には引き込まれる。安倍政権が「黒川検事総長」を目論んだ最大の動機が「桜を見る会」問題で検察を抑えこむことにあったとする一方で、黒川氏も政権に振り回された被害者だったとの指摘は興味深い。検察という組織とその機能の理解を深めるに役立つとともに、検察の中立性の大事さが改めてよくわかった。官邸の人事権が強すぎるとろくなことがないことも。
■ パンデミックは日本の政治システムの想像以上のもろさを露呈させた。東日本大震災もそうだったが、非常時には情報伝達、意思決定、兵站などの本来的な欠陥が明白になる。竹中治堅『コロナ危機の政治』(中公新書、1078円)はその点を丁寧に分析していて大いに参考になった。とくに武漢封鎖やクルーズ船の頃から特措法、知事の権限、検査キャパシティなど今に尾を引く問題点が登場している事実からは「スピード感をもって」の言葉の軽さを知る。
過不足なく整理されていて資料的な面でも貴重だが、中央政治と地方政治の関係を多面的に追究している点が何より重要である。一強のはずの安倍政権が地方自治との齟齬によってほとんど指導力を発揮できなかった事実の指摘は、今後の大災害やさらなるパンデミック対応という点で示唆するところが大きい。これを機に権限配分のあり方が的確に見直されなければ、苦しむのはまたしても国民であるだろう。
■ スティーブ・ジョブズなどIT企業のトップはわが子にスマホを与えないという。アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』新潮新書、1078円)に出てくる話だ。確かにスマホはギャンブルや麻薬並みに依存性が強い。スマホを脇に置いただけで集中力や記憶力が落ち心の病が増えるなど、驚くべきデータの数々が示される。人間の脳はスマホでドーパミンというご褒美がもらえる構造になっているという「人間の進化の見地」からの論旨は説得的で、自分だけでなく子や孫の将来を考えるうえで見過ごせぬ一冊。
■ テレビで心配ばかりせず長尾和宏『コロナ禍の9割は情報災害』山と渓谷社、1320円)を読んでみてはどうだろう。コロナよりステイホーム症候群のほうがよほど深刻だと著者は力説する。コロナの98%は自然免疫で対応できるのだとも。歩く、筋肉を鍛える、減量、十分な睡眠が推奨される。個人的には説得力十分だったが、悲観派には向かないかも。(浅野 純次)