読書通信 2021年3月号

■ トランプ政権の下で分断に直面した米国、EU離脱の英国、移民問題に揺れる独仏を見るにつけ、寛容と不寛容は今後もなお人類最大の課題であると思わざるをえない。森本あんり『不寛容論』新潮選書、1760円)は植民地時代の米国にさかのぼってこの魅力的なテーマに切り込んでいて、圧倒される。とくに宗教における不寛容さはしばしば深刻な問題であり、記された事実は多くの示唆を与えてくれる。
本書は、主人公ロジャー・ウィリアムズがいち早く政教分離を唱え、住民の信教や生活上の権利を尊重した事実を掘り起こしつつ、彼を一方的に美化することなくその矛盾した行動などなんとも人間的な一面も描いてみせた。これによって排外主義的な保守、ときに不寛容なリベラルといった現象を見極めることもより容易になったといえ、読み進むにつれ加速度的に知的興奮に誘い込まれる力作である。最後に私的な思い出を。大学2年のとき学長となったK教授は私の属していた大学新聞のインタビューで「学生諸君に寛容と忍耐の2つの言葉を贈りたい」と語ったが、あれから半世紀。学生たちの何人がこの言葉を大事に人生を送っただろうか。なお寛容の英語toleranceには忍耐の意味もあり、本書でも忍耐の重要性が象徴的に示されている。
■ 昭和史は半藤=保阪コンビの探索によって真実が着実に明らかにされてきた。半藤一利氏亡き後、保阪氏にかかる期待は高まるばかりだ。保阪正康『陰謀の日本近現代史』朝日新書、979円)は期待にたがわず明治から昭和に至る歴史から多くの真実を知ることができ、改めて歴史のイフを思わざるをえなかった。
仕組まれた日米開戦、事件の伏線、戦争に凝縮された日本的特質、歴史の闇を照射する記録と証言の4章は甲乙つけがたく面白い。面白がってはいけないのだが、政治家も軍人もなぜここまで大局観に欠け、しかも無責任なのか。心地良い情報だけ選んで都合よく解釈する。教育にも大きな責任があったのではと思わされた。
■ 100歳を超えてなお現役というのだからすごい。田中旨夫『101歳現役医師の死なない生活』幻冬舎、1430円)はその元気の基を語った45話。食の話を中心に散歩や昼寝などの習慣、気の持ち方など生き方全般にわたる。ぼけないためには脳トレよりも楽しいことを、イライラはするだけ損、今から1年でなく10年頑張るという決意を毎日する、どれも感服した。
■ 藤田紘一郎『感染症と免疫力』ワニブックス新書、968円)は腸の専門家らしく腸の力をつければ新型ウイルスに打ち勝てると断言している。確かに自己免疫力をつければ感染しても重症化しない可能性は大きいのだろう。さらに効果のはっきりしないワクチンより重症化を抑える力のあるBCGを予防に活用せよと力説していて注目される。手を洗いすぎると免疫力が落ちるという説にも納得した。(浅野 純次)