読書通信 2021年5月号

■ 昨秋出版されていたのに遅くなってしまったが、良い本なので紹介したい。600ページに及ぶ大著でそれなりの定価にもかかわらず、著者に先日、聞いたところではすでに6刷という。大したものだ。春名幹男『ロッキード疑獄(KADOKAWA、2640円)は田中角栄と丸紅、全日空の首脳が逮捕、起訴された昭和の大事件の真実に迫って読む者を引きつける。
ロッキード事件では「関連文書誤配説」「ニクソンの陰謀説」「三木の陰謀説」「田中の資源外交起因説」などの陰謀論が人口に膾炙した。最終的に本書はキッシンジャーという伝説的外交官の自らの外交への過信、強い猜疑心、謀略の才能などが一体となって田中を陥れた、外交的葛藤の所産としての疑獄だったと結論づける。「巨悪の正体」と題した「児玉誉士夫の先の闇」の解明も冴えている。15年もの長期取材で膨大な資料を渉猟し続けた努力の結晶としての推理ドキュメンタリーとも言うべき力作である。
■ 石橋湛山は汲めども尽きぬ泉のようだ。これだけ論じられていまだ評価され切れていない言説が次々に出てくる。原田泰・和田みき子『石橋湛山の経済政策思想』日本評論社、3960円)も、過小評価あるいは無視されている湛山の経済政策思想に新たな光を当てている。テーマの一つは湛山の昭和恐慌理解がなぜ誤解されたかだが、湛山の理解には日本のケインジアンやマル経学者たちが考えもつかない独創性があったことを本書は明らかにする。あるいは湛山がインフレーショニストというレッテルを張られたのはなぜか、また傾斜生産方式がなぜ有沢広巳の手柄として喧伝されたのか、など、データを駆使しつつ推理小説もどきに明らかにしていく著者の推理の流れは、統計を一貫して重視した湛山と通底して鮮やかである。副題の「経済分析の帰結としての自由主義、民主主義、平和主義」はまさに本書の意義(あるいは湛山の本質)を疑いなく明確に語っていると感じた。
■ あまたの渋沢本の中で河合敦『渋沢栄一と岩崎弥太郎』幻冬舎新書、990円)は岩崎と対比しつつ描いたために渋沢の人と仕事がより鮮明になった気がする。公益重視の渋沢と独裁主義の岩崎が激論の末に決別し海運業の覇を競っていくところは本書のヤマ場の一つだが、全体を通し2人の共通点と相違点が浮き彫りになる中で日本資本主義の黎明期を学ぶにも好適な書となった。それにしても渋沢も岩崎もすごい。こんな経営者が今いればな、とつい思った。
■ 新聞に連載された63のエッセーからなる渡辺政隆『科学の歳事記』教育評論社、1760円)は理科への興味を育んでくれる好著だ。見開き左側の文章に合わせた右ページの絵 (山本美季)もしゃれていて和ませる。「不安で眠れない」「蜜の味」「聞く耳をもつ花」「渋柿の化学」など面白い話題が多く、理科は苦手だった人でも大いに楽しめるだろう(たぶん)。(浅野 純次)