読書通信2022年7月号

■ 世界は今いろいろな意味で危機にある。自然破壊などの地球環境、絶滅危機に直面する動植物、パンデミックや貧困に苦悩する人類。地球温暖化だけ言っていればいいというものではない。ジェーン・グドールほか『希望の教室』海と月社、1760円)で取り上げられる「危機」は多岐にわたりかつ多彩である。共著者ダグラスの絶妙な話の引き出し方にグドール博士が見事に応えて本書は構成される。
グドールはチンパンジーなど動物行動学の第一人者で、世界を歩き回って調査研究してきた。87歳の今も各国で講演するスーパーウーマンである。その見聞録、体験談はとても面白く、説得力に富む。書名からは希望の持ち方の授業かと思われそうだが、それより彼女が将来に希望を捨てない理由が主テーマで、理由は「人間の知力」「自然の回復力」「若者の力」「人間の不屈の精神力」の4つ。「一緒ならできる、一緒にやろう」がグドールのメッセージで、ほんとに若々しい。我らも負けてはいられない。そう思った。
■ 昔から全体主義は苦手だ。ヒットラー、スターリン、東条英機。全体のため個が否定される社会だけは住みたくない。というわけで適菜収『ニッポンを蝕む全体主義』祥伝社新書、924円)が書店ですぐ目に飛び込んできた。出だしは「全体主義は近代人がかかる病」と「大衆が指導者を生み出す」。確かにそうだ。
前半はオークショット、フロム、アレント、トクヴィルはじめ多くの言説を丁寧に紹介しつつ、全体主義は大衆の所産であることを繰り返し論じていく。まさにポピュリズムであり、歴史的にも大いに啓発される。ところが後半は一転、維新の会(とくに橋下徹)と安倍晋三批判の部分では著者のボルテージが急上昇する。こうして整理されると、彼らの暴言がなぜ看過され続けてきたのか首をかしげざるをえない。全体主義の萌芽はすぐ足元にあることを知る。
■ 量子コンピュータが異次元の能力を発揮するのもそう遠い話ではないらしい。新書でそんなことを読みかじっていたら、吉成正夫『量子論でみる社会と経済』東京図書出版、1540円)を進呈された。量子のイロハから、変化と関係性という量子論のポイントを多面的に述べ、為替レートや金融資産など著者の専門分野へ展開して不確実性の議論からケインズと量子論で締めくくられる。大胆な経済学的解釈は非常に興味深いが、一回読んだだけでは著者の意とするところを十全には理解しきれていないのではと不安になった(で、もう一回読むことに)。
■ 吉川徹『コールセンターもしもし日記』三五館シンシャ、1430円)は怒鳴られ、からまれ、クレーマーやちょっと変わった人たちとの電話対応に悪戦苦闘する話が、やはり面白い。ただそこを徹底したらよかったのに、同僚たちの描写に励んだ分、期待がややそがれた感は否めない。面白いシリーズの一冊。(浅野 純次)