読書通信2022年8月号

■ ドラッカーはもちろん経営学者だが、経営学者という以上に、もっとスケールの大きな学者だった。そうでなければ没後17年になってもその業績がこれほど繰り返し深掘りされることはないだろうと感じる。経営学は奥が深いともいえるが、それ以上に「さすが」と思うことが多い。そしてまた佐藤等『ドラッカーに学ぶ人間学』致知出版社、1760円)が刊行された。未来を切り開く組織のために、組織の文化が花開くために、人が組織の中で最高の仕事をするために。そんな問題提起で本書は編集されている。気に入った箴言は多々あるが、「これからは、とくに秀でた才能もない普通の人たちが、自らをマネジメントしなければならない」は至言である。知識労働者は自ら考え、決定し、行動しなければならない。ドラッカーは明治維新と戦後復興をとくに賞賛した。今の日本を見たらきっと落胆するだろう。今こそ個の確立こそが求められているのに、指示待ち、横並びは相変わらずだ。終章「日本の強みを生かしてポストコロナの社会を再生する」もタイムリーである。
■ 日米関係を重視していく路線に異論はあまりないだろう。だが日米地位協定を今のままにして日米関係は強固でありうるのだろうか。基地をめぐる日米不平等協定をこのままにして、基地提供側の不満はいずれ臨界点に達するのではないか。山本章子・宮城裕也『日米地位協定の現場を行く』岩波新書、990円)はその意味で示唆するところ大の貴重な書である。著者たちは三沢基地、首都圏の米軍基地、岩国飛行場、築城基地、新田原基地、馬毛島、嘉手納基地の周辺を歩き回り、住民たちがどんな思いで生活しているか、事故の時の米軍の言動はどうだったか、など調べ上げていく。その不平等性は占領軍並みであり、憲法で認められた基本的人権を下回ると言って過言ではない。本書の問題提起を、基地から遠く住む人々みなが重く受け止めることが求められていると思う。
■ 鮫島浩『朝日新聞政治部』講談社、1980円)は政治記者として活躍した著者が調査報道に配転され、福島原発での「吉田調書」でスクープを放つものの社の危機管理の失敗もあって退社するまでの社内愛憎劇。社内抗争のドロドロした話が続き、大新聞の内情があからさまにされるので、メディアの内側を知りたい人には参考になる。面白さでは一級品だが、著者の側に立つかどうかで評価は変わるだろう。
■ 実家の遺品整理は大変だ。義理の母の度外れた遺品の山に振り回される嫁の姿を描いた垣谷美雨『姑の遺品整理は、迷惑です』双葉文庫、715円)はちょっと身につまされるユーモア小説。笑えるけれど、もうちょっと短くてもよかった。もちろんこれは個人的感想で最後まで堪能する人もいるだろう。深刻な話を楽しみつつ、わが家も父以来の二代の断捨離の時が迫っていることを痛感させられた。(浅野 純次)