読書通信2022年11月号

■ 「為政者は間違え、代償は庶民が払う」の副題を見て買い求めた。栗原俊雄『戦争の教訓』実業之日本社、1760円)は日本が勝ち目のない戦争に突っ込んでいった迷走の足跡が主題である。石油と鉄(原料屑鉄)の9割以上を米国からの輸入に頼りながら対米開戦へと突き進む当時の為政者たちが悲劇というより喜劇役者のように見える。1941年6月、日本の仏印進駐を受けて米国は石油の対日禁輸に踏み切ったが、日本政府には青天の霹靂だったとは驚きだ。禁輸の可能性を皆無と見ていたとは…。それでもなお半年後には戦争を始めている。終戦交渉でも為政者の浅慮が続く。希望的観測ばかり用意してみたり、ソ連に仲介を持ちかけたり。敗戦1カ月前、面会要求がやっとかない佐藤尚武駐ソ大使がモロトフ外相の部屋に入ったとたんに宣戦布告を読み上げられた一幕など、笑うに笑えない。世界の常識から遠いところにあったかつての日本を改めて振り返り、為政者は常に間違えることを胸に刻み込むことはいつの時代にも必要なことである。
■ 続いて昭和史を裏面からのぞいてみることにした。手に取ったのは黒井文太郎『謀略の昭和裏面史』宝島社新書、990円)である。事件の裏には常に謀略があったことが、次から次へと描かれる。関東軍の謀略の背後に大陸浪人と帝国陸軍がいたことは当然として、彼らの動きを詳細に知ると、謀略を防げるとしたら天皇くらいしかなかっただろうと思えてくる。戦後は戦後で昭電疑獄、下山事件、三島由紀夫自決、ロッキード事件などGHQと右翼、自衛隊が絡み合った事件が頻発した。人物では岸信介、中曽根康弘、児玉誉士夫、笹川良一、瀬島龍三などが登場してきて、改めて知ることも少なくなかった。もはや歴史となった数々の事件がそんな単純なものでなかったことは頭に入れておく価値があると思うことしきりである。
■ 三代目ともなると沈下一方というのが創業家の習いだが、姻戚が多いともつれることが必定ということもある。高橋篤史『亀裂 創業家の悲劇』講談社、1980円)はロッテ(重光家)、セイコー(服部家)、国際興業(小佐野家)、ソニー(盛田家)など骨肉の争いを描いて出色である。筆者が東洋経済の記者だったから言うのではないが、8ファミリーの知られざる内幕を掘り起こした取材力は見事で、他人の争いは読み物としても面白い。
■ 田淵俊彦『弱者の勝利学』方丈社、1650円)はテレビ東京のディレクターが世界各地での貴重な制作体験を語りつつ、視聴率、収益力、就職人気などかつての負け組から見事に脱却した事情を描いている。確かに昨今のテレ東にはユニークな番組が多い。不利な条件を逆手に取っていく工夫と努力という逆転の発想は大いに参考になる。ちなみに評者の一押しは「ニッポン行きたい人応援団」である。(浅野 純次)