読書通信2013年9月号
①東洋経済新報社百周年のときのロゴは「百年リベラル」だった。リベラルという言葉は誤用、悪用、借用、さまざまに使われる。で、「伝統・文化など価値観の共有を重んじる保守(共和党)、個人の自由を重んじるリベラル(民主党)」(毎日新聞)などというステレオタイプの記事が書かれたりする。保守とリベラルを対立概念としてとらえるから、記事脇の図では横軸の右端の保守には自民、真ん中に民主、生活、みんな、左端のリベラルに社共、などという笑うに笑えぬ配置が堂々と描かれていた(志位さんもびっくりだろう)。
中島岳志『「リベラル保守」宣言』(新潮社、1470円)は自由民主主義、漸進主義、寛容性、歴史と伝統重視等々の中に良質な保守主義は成立し、リベラルとの統合が可能になることをトクヴィル、バーク、チェスタトンなどの言説とともに論じていて、二項対立的に保守、リベラルを考えることの不毛を鋭く追及している。貧困問題とコミュニティ、ナショナリズムへの言及や橋下批判も興味深い。
②靖国について考えることが多かった8月、保阪正康『「靖国」という悩み』(中公文庫、880円)を再読した。「法的には日米戦争が継続している状況下に行われた東京裁判のA級戦犯は戦闘中に敵に殺されたのと同じなので靖国に合祀した」という松宮元宮司の主張に対し、合祀は戦後の歴史認識を否定する政治運動だったと糾弾する。そのとおりだろう。松宮説が正しければ吉田内閣も当時の官僚も敵国に協力した反逆者ということになる。境内につくられた遊就館の歴史観批判、鎮霊社をめぐる考察は鋭い。
③第一印象によって就職も結婚も商談も決定的に影響を受けるのに、人は意外に無頓着だ。『人は見た目が九割』は大ベストセラーになったが、読まない人は容姿こそすべてと思ったのではないか。第二弾、竹内一郎『やっぱり見た目が九割』(新潮新書、735円)は「コミュニケーションは受け身から始まる」「オーラはいかに生まれるか」「目と声の威力」などといった身近なテーマを論じていて、前著同様、非言語コミュニケーションを考えるうえで大いに参考になる。さてどこから改善しようかと思う人もいるだろう。
④7年前の夏に出版されていまだに人気の高い百田尚樹『永遠の0』(太田出版、1680円/講談社文庫、920円)の文庫版が300万部に達し、映画化も進んでいる。零戦のパイロットたちを中心にした物語だが、先の大戦の史実を忠実に追いながら、戦争と家族愛が織り成す感動的な(安易に使いたくない言葉だが)小説に仕上がっている。戦争、とりわけ特攻の悲惨さを描きながら、ミステリー仕立てで最後まで引きつける。構成のうまさはこれが処女作とは思えないほどだ。(純)