読書通信 2019年5月号

■ 書店には平成の総括本が多数並んでいるが、斎藤貴男『平成とは何だったのか』秀和システム、1620円)は一貫して悲憤慷慨している。政治の劣化、格差の拡大、日米関係、原発被害、マスメディア、沖縄問題。まだまだあるが、やるべきことをやらず、やってはいけないことばかりが続いているというのだ。
中でも著者のいちばん言いたいのは、おそらく日本の対米従属ぶりだろう。小泉政権の頃からひどくなった日米構造協議、対日年次改革要望書で日本の富が米国に収奪され続けたと怒りをあらわにする。そして今も日米地位協定と日米合同委員会が厳然として日本を縛っている、と。でも、ここまで言われると平成にもいいところがあったよ、と反論したくなるのは人情ではないか、などと考えてしまった。
■ 世の中、菓子から小物まで令和のロゴがあふれかえっている。「平成はひどい時代だった」と振り返る人もいるけれど、天皇皇后の責任ではもちろんない、どころか、お二人のおかげで救われた人もさぞ多かろう。奥野修司『天皇の憂鬱』新潮新書、864円)は「天皇皇后と戦争」「美智子妃と軽井沢」「生前退位秘録」「天皇家の懐事情」などのテーマをめぐって興味深いエピソードがつづられている。
最も興味深かったのは「陛下はなぜ跪かれるのか」の章で、被災者を慰問される際に天皇皇后がひざをついて話しかけるなどというのは前代未聞でもちろん海外にも例はない。本書によるとこれは天皇が始めたのだが、そこには皇后が重要な役割を果たしていたという。しかも被災者への慰問の旅で予定時間をオーバーするとお二人はとても喜ばれるらしい。これは驚きだ。まさに、「寄り添う」の言葉がふさわしい(だからこそ政治家には安易に使ってほしくない)。
■ 原武史・三浦しをん『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』KADOKAWA、1620円)は政治学者・「鉄学者」と人気作家の異色の対談本。天皇退位を中心にした天皇制をめぐる話題と、鉄道の話題(こちらは二人で鬼怒川に東武で出かけて盛り上がる)とが中心だ。このうち、本書の最大の焦点は原センセイの鉄道オタクぶりだろう。これだけ鉄道の博識を披露し、鉄道と旅に集中、興奮するのは尋常ではない。おかげで天皇制がつまみとなった感もなくはないが、こちらもそれでも十分奥が深い。
■ こんな漫画本が書店で目に止まるようになったのもやはり老境入りの兆候だろうか。山田英生編『老境まんが』ちくま文庫、842円)は老い、諦観、生と死、回想がテーマ。手塚治虫、水木しげる、白戸三平、つげ義春など14人の漫画家の短中編で構成されている。老境の本質にはやや遠いものもあるが、余韻十分なものも多い。こんな漫画アンソロジーが編まれるのも時代なのだろう。個人的にはごひいき谷口ジローの「欅の木」を楽しんだ。(浅野 純次)