読書通信 2019年7月号

■ 安倍一強は官邸パワーによって生まれた。といっても官邸に集められた官僚出の秘書官や官房副長官の言動に永田町や霞が関が引きずられているにすぎないのだが、もちろん忖度は着実に密度を高めている。森功『官邸官僚』文藝春秋、1728円)はその実相を、個人名を多数挙げながら俎上に乗せていく。
主役の今井尚哉(経産)は安倍首相の分身とも化身とも呼ばれて得意の絶頂にある。アベノミクスの成長戦略の柱とされた原発輸出を取り仕切ったが全敗に終わった。しかしそんなことにめげることなく外交にも首を突っ込んで谷内正太郎を激怒させるが、まるで馬耳東風という。ほかに和泉洋人(国交)や杉田和博(警察)も主役級であるが、官僚人事を一手に担当する内閣人事局も含め官邸がここまで強くなって大丈夫かと思わざるをえない。虎の威を借るキツネたちの物語。見逃せぬ一冊である(敬称略)。
■ まともに記者会見をしなくなったトランプ大統領もひどいが、日本も似たようなものだ。安倍首相も昨今、記者会見はほとんどしていないし(自分でしたいときは除く)、「全く~ない」を連発する菅官房長官も質問に真摯に答える気配がうかがえない。そして河野外相も。南彰『報道事変』朝日新書、853円)からは誠意に欠けた政治家たちの姿が浮かび上がる。しつこく食い下がった東京新聞の望月衣塑子記者の場合が典型だ。嫌がる官房長官の意を体した上村秀紀官邸報道室長が、質問している最中に10秒おきくらいに「簡潔にお願いします」と繰り返す。その速記録を見ると幼稚な嫌がらせとしか思えない。だがこれに危機感を覚える記者や新聞社が多ければまだしも、むしろ同記者を疎外しようという動きすらあるという。著者の危機感をメディアや読者が共有できるか、そのためには何が必要なのか考えさせられる。
■ 周りに同調ばかりする人たち。望月衣塑子/前川喜平/マーティン・ファクラー『同調圧力』角川新書、907円)はそんな状況を危機的と受け止める3人の論考と鼎談から成る。危機的と言いつつ3人とも元気だ。それぞれ個が確立されていて、ぶれないからだろう。3者3様、読み応え十分である。確かに政治家も官僚もジャーナリズムも「同調圧力」にさらされているが、それは自分で考え、自分で判断する力の不足を示しているにすぎないともいえる。であれば、この危機感はとても重要だと思う。
■ 人類は寒冷化と温暖化が織り成す8万年を乗り越えてきた。田家康『気候文明史』日経ビジネス人文庫、972円)は文明の興亡がどのように生じたかを気候の面から探った労作である。歴史的には寒冷化や干ばつのほうが人類にとっては大問題だった。著者は長期的視点から気候激変は必然だとして、火山爆発、太陽活動などの歴史的教訓に学ぶ一方、二酸化炭素の増加に注意することを勧めている。(浅野 純次)