読書通信 2020年2月号

■ 祖父への追慕の念が安倍首相の政治課題や政治姿勢と深く関わっているらしいことはしばしば指摘されてきた。鯨岡仁『安倍晋三と社会主義』朝日新書、891円)はそうした視点を交えアベノミクスがどのように構想され実行されてきたかを探った書である。ここでの社会主義とは商工官僚として満州国工業化をリードした岸信介の思想を指しており、アベノミクスもまたケインズ的でも新自由主義でもなく岸に劣らず社会主義的色彩が濃いというにある。
政策的には極端な金融緩和、積極的な財政出動、財界への賃上げ要請などは大きな政府を志向しているという。だが思うに分配に無関心な点からはそれは国家社会主義と呼ぶべきで、岸と通底するとすればその限りにおいてだろう。岸と深く関わった右派社会党の三輪寿壮を安倍首相が意識していることも社会主義的とする根拠の一つらしい。ユニークな視点だが、アベノミクス論としては少々物足りなさが残る。
■ 山の保水力強化には植林しても効果は薄いと学者がテレビで宣っていた。いや、杉やヒノキではダメだが多様多層な広葉樹と下草があれば保水は十分可能だ、と反論したのだが独り言に終わった。宮脇昭『いのちの森づくり』藤原書店、2860円)はシイ、タブ、カシの森を日本と世界に作りまくった学者の自伝と講演の再録から成る。今でこそ宮脇方式で作られた森は圧倒的存在であるが、当初は学者も役所もそっぽを向いていた。逆風の中を孤軍奮闘、頑張り抜いた反骨精神はノーベル平和賞ものだ。地震、津波、大火、山崩れに広葉樹の森はめっぽう強い。世代を超えてぜひ読んでほしいと思う。
■ 氾濫多発もそうだが機能や景観という点でも河川はもっと重視されるべきと思う。そんな思いでいたとき、ちょっと変わった本、近藤祐『呑川のすべて』彩流社、2970円)に出会った。副題(東京の忘れられた二級河川の物語)のとおり、世田谷・目黒・大田3区にまたがり最後は羽田の海にひっそり流れ込む、地元でも知る人の少ない、まして頼もしがられることなどない三流河川が主人公である。著者はそんな侘びしい川に愛着を感じ探索を続けるのだが、浮かび上がってきたのは意外な歴史と再生の物語だった。こんな時代だからこそ地誌を探り地元を見つめ続けることは重要だと強く思った。
■ 最後に後藤道夫『子どもにウケる科学手品ベスト版』講談社ブルーバックス、990円)を。手品77編が図入りで紹介されていて、紅白ひもの瞬間移動、2本のお絞りが離れない、おでこに指一本で立てない、など簡単な手品ばかりだ。科学的根拠が説明されているので子どもも納得、一人で楽しんでもいい。親の権威上昇、年寄りの孫対策にピッタリである。中でも「絶対に取れない1万円札」は傑作で、もし相手が取ったらその万札をあげる約束の手品なのでご用心。ともかくはまってしまうだろう。(浅野 純次)