読書通信 2020年6月号

■ 新刊旧刊問わず感染症や伝染病の本がよく売れているらしい。便乗してハウツー本のような感じの長尾和宏『歩くだけでウイルス感染に勝てる!』山と渓谷社、1320円)を買い求めたが、案外まともで大いに参考になった。人は歩くことで抵抗力が増す。これが本書の一貫した主張だ。食事・睡眠・気・運動を免疫力の基本とする評者の主義からすると歩くだけでいいのかと突っ込みを入れたくなるが、歩くことの重要性には十分、説得力がある。免疫力が低下している高齢者ほど歩くことが重要で、歩けば自律神経が調えられ、感染症に対する抵抗力は増していく、と著者の自信は揺るぎない。座ってばかりでは感染に弱くなる、5分でも10分でも歩いてセロトニンを分泌し日に当たろう。これが先々まで有効な(たぶん)本書の提案である。そして数年後には新型コロナはありふれたウイルスになるとも。それまで永い付き合いだとすれば、座してワクチン開発を待つよりも、歩けるうちは近場を歩き回ることにしよう。
■ 感染症の本をもう一冊。著者は例のクルーズ船に乗り込んで二次感染を警告し厚労省の職員とトラブルを起こして下船した専門家だが、警告が正しかったことを否定する人は今いないだろう。岩田健太郎『感染症は実在しない』インターナショナル新書、1078円)は、感染症をどう捉え、これにどう対処するべきかという、今、最も重要なテーマを論じている。感染症を「こと」でなく「もの」として捉えては(大半の医療関係者がそうらしい)検査も治療も間違える可能性が大きいと著者は力説する。状況に学んで自分の意見を変え方針を変えることのできない厚労省の役人や学者、医者には無謬性信奉が強く、プランBを用意することができない、これが感染症対策の最大の問題である、という指摘は重要だ。医療体制を見直す上で本書から教えられることは少なくないだろう。
■ リーマンショックの数十倍の金融危機が起こると主張する政治団体「オリーブの木」の代表が書いた黒川敦彦『ソフトバンク崩壊の恐怖と農中・ゆうちょに迫る金融危機』講談社+α新書、924円)は怖い本である。冒頭の「18兆円の借金まみれ ソフトバンクの爆弾」からして深刻だが、続く「農林中金が8兆円弱、ゆうちょ銀行が1・5兆円抱えるCLO(ローン担保証券)の罠」には背筋が凍る。早ければ年内にも危機が到来すると著者は言う。もし本当なら、パニックが来る前にどう備えようか。
■ 最後は昨今、出色の科学物を。全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』朝日出版社、1760円)は物理学者が書いたエッセイ集。銀河、彗星など天空編もいいが、秀逸なのは生物編で、農業を営む昆虫、奴隷化され自由を求めて反乱を起こす昆虫の話には引き込まれる(答は、どちらも蟻。軽飛行機に引率されて越冬の旅に出るアメリカシロヅルの話は感動的だ。(浅野 純次)