読書通信2017年7月号

■ 明治29年から120年余にわたり東洋経済がリベラルな立場を(幸運にも)保ち続けられた歴史を振り返るにつけても、日本政治から健全な保守が消滅しかかっていることを残念に思う。その意味で、塚田穂高『徹底検証 日本の右傾化』筑摩選書、1944円)はなかなか時宜を得た企画である。壊れる社会、政治と市民、国家と教育、家族と女性、言論と報道、蠢動する宗教の6部構成で21人の筆者がそれぞれの論点から右傾化の実態を探っている。
■中北浩爾「自民党の右傾化」、竹中佳彦「有権者の右傾化」、清末愛砂「憲法24条はなぜ狙われるのか」はじめ興味深い論文が多く、多様性に富んだ構成だが、さすがに21編にはややばらつきが感じられたことは否めない。このうち中北、竹中両論文によれば、安倍政治は確かに右傾化が著しいけれども、世論に支えられてそうなっているというよりも、政治が進んで右傾化しているにすぎない、という。とはいえ民主主義下でもナチスは誕生した。重要な論点が取り上げられている本として熟読したい。
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編集後記2017年7月号

【編集後記】 「共謀罪」と「加計学園問題」が盤石と見られた「安倍一強政治」に思わぬ失墜をもたらしました。内閣支持率は「安全保障関連法案」強行後と同水準まで低下しましたが、明らかに今回の方が重症です。「共謀罪」は委員会審議を飛ばして「中間報告」のみで本会議採決を強行するという禁じ手を使い、「加計学園問題」は首相自身の盟友を巡る疑惑隠しが露わになりました。東京五輪のために「共謀罪」が必要だと強弁しながら、IOCが求める「分煙」徹底は完全無視です。ご都合主義に走る政権は末期症状を呈しています。
次号は佐治信行氏「2017年、2018年度マクロ経済の見通し」、山田恵資氏「安倍一強政治の行方」、中岡望氏「米国政治思想から見たトランプ大統領の評価と未来」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年7月号    No.821

2017年7月号目次

拡大するネットメディアの行方
東洋経済オンライン編集長 山 田 俊 浩

新・所得倍増論から見た日本経済
小西美術工藝社社長 デービッド・アトキンソン

習近平の中国、トランプの米国
現代中国問題研究家 津 上 俊 哉

日本政治はどうなるのか
TBS「ニュース23」キャスター 星  浩

〔談話室〕          映画雑感7      柴生田 晴四
〔会員の広場〕     高齢者の自動車運転    矢野 恒太郎
経済倶楽部便り
読書通信(No.149)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年6月号

■ 昨今、立憲制も天皇制のあり方の議論もおかしな雲行きである。この際、天皇機関説と国体明徴問題について知っておくことは「神の子孫としての天皇という権威」を錦の御旗にした軍部による戦前の忌まわしい歴史の再現を防ぐ意味でも極めて重要だろう。山崎雅弘『「天皇機関説」事件』集英社新書、820円)は天皇を神格化して自分たちに都合の良い方向へ日本をもっていこうとした軍部や政治家たちによって立憲主義が機能停止させられる一部始終を述べきたって間然するところがない。
「陛下を機関呼ばわりするとは何事か」というのは大衆受けのする「糾弾」だった。しかし大事なのは党利党略に走った立憲政友会などの政治家と美濃部達吉に冷たい態度を取り続けたメディアの責任の大きさである。いつの時代にも政治とメディアがしっかりしているか否かが問われる。昭和天皇は一貫して機関説に同意し機関説排撃に不快感を抱いていたが、その真意が広く国民に共有されることはなかった。「万世一系」を唱える人々が立憲主義を脅かしている今の時代が、本書の描写と二重写しになって見えるのが杞憂でなければ幸いである。

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編集後記2017年6月号

【編集後記】 4月から5月にかけての講演会の中で、複数の講師の方々から、日本の企業部門に積みあがった膨大な内部留保についての指摘がありました。この資金が前向きな投資に使われれば、日本経済は再び輝きを取り戻し、新たな成長軌道に復帰することが出来るかもしれません。グローバル化する市場において、「成長機会がない」という言い訳は通用しません。新たな成長機会を探し出し、リスクを負って再投資を行うことは経営者の責務です。長期にわたって内部留保を積み上げるのは経営者の怠慢でしかありません。
次号は、山田俊浩氏「拡大するネットメディアの行方」、デービッド・アトキンソン氏「新・所得倍増論から見た日本経済」、津上俊哉氏「習近平の中国、トランプの米国」、星浩氏「日本政治はどうなるか」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年6月号    No.820

2017年6月号目次
尊厳を保障し、財政を改革する
―私たちのくらしだから、私たちみんなで変える
慶応義塾大学経済学部教授 井 手 英 策

当面の内外経済の見通し
東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授
伊 藤 元 重

日銀超金融緩和策の副作用と内外経済
東短リサーチ社長 加 藤   出

官僚機構をどう改革するか
衆議院議員 河 野 太 郎

〔談話室〕 文化行政の責任     柴生田晴四
〔会員の広場〕 異文化交流に学ぶ  松 下 滋

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.148)

バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年5月号

■ 昭和の自由主義者といえば長谷川如是閑、清沢洌、石橋湛山、河合栄治郎だろうか。彼らに共通するのは個が確立されていて、世の中がどう動いても座標軸は全く揺るがないことだ。湯浅博『全体主義と闘った男 河合栄治郎』産経新聞出版、2052円)はアカデミズムの世界にあってぶれることなく主張を貫き通した男の気骨の生涯を描き切っている。最初は大内兵衛などマルクス主義、次はファシズムと闘ったが、後者によって東大教授の職を追われても死を賭して自由主義の気概を守ろうとする。死の直前まで著述に専念する壮絶な生き様がベテランジャーナリストによって活写される。
評者は読み進む中で再三、石橋湛山との比較に入り込んだ。二人とも剛直でありながらリアリストで、膨張主義に反対しながらも愛国者だった。「日米戦争は不可避」でそうなれば「日本は朝鮮、満州、台湾、沖縄も失うだろう」という河合の先見性も湛山にほぼ共通していた。もし二人が語り合えば意気投合したのではないか。だが惜しいことになぜか接点はなかった。河合が戦後まで生きたら首相になっただろうと著者は推量の翼を広げている。確かに河合と湛山が戦後政治をリードしたら日本の道筋はまるで変わっていただろう。惜しまれる“if”である。 続きを読む »

編集後記2017年5月号

【編集後記】 歳出が歳入を大幅に上回る国家予算が提出されたのにもかかわらず、歳出の中身やその是非について国会では大した議論も行われませんでした。いつものこととはいえ、国会議員は本来の務めを一向にはたしていません。その一方で「森友学園」問題は、財務省が交渉経過を明らかにしないままで幕引きされました。行政の業務の遂行がどのように行われているのかを、国民は知る権利があります。国民のプライバシーを侵害する法律を作る一方で、自らの行動を隠蔽する政府は危うい将来につながっていく危険をはらんでいます。
次号は、井手英策氏「尊厳を保障し、財政を変革する」、伊藤元重氏「当面の内外経済の見通し」、加藤出氏「日銀超緩和策の副作用と内外経済」、河野太郎氏「官僚機構をどう改革するか」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年5月号   No.819

2017年5月号目次
安倍超長期政権の行方
「インサイドライン」編集長 歳 川 隆 雄
世界経済の潮流と日本経済の行方
大和総研チーフエコノミスト 熊 谷 亮 丸
歴史を考える
ライフネット生命会長 出 口 治 明
トランプ政権のアメリカと中東情勢
千葉大学法政経学部教授 酒 井 啓 子
〔談話室〕    看過できない発言  柴生田 晴四
〔会員の広場〕  老夫婦の衝動買い  深瀬 拡
経済倶楽部便り
読書通信(No.147)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年4月号

■ トランプ大統領がメディアに登場する頻度は下降気味だが、トランプ旋風の意味を考える重要性はなんら低下していない。アメリカがどんな状況にあるのかをしっかり理解しておく必要はむしろこれから高まるのだろう。その意味で格好なのが金成隆一『ルポ トランプ王国』岩波新書、928円)で、著者は朝日新聞NY支局員として、メディアの予測とは真逆のトランプ陣営の異常な勢いに気づき、旧工業地帯や東部諸州を丹念に取材して歩く。
オハイオやヴァージニアで「生まれたときから」民主党支持だった(現・元)労働者や女性たちが熱烈なトランプ支持に変わっていく。その思いや生活実態が率直に語られる、庶民それぞれの発言はどれも軽視しえない種類のものである。ミドルクラスの消滅がたかだか20年かそこらの間にこれほどの勢いで進んだ理由、NAFTAの経済的影響は劇的でトランプのTPP反対が熱烈に受け入れられた背景などがよく理解できる。文章は読みやすく軽妙で、この春、見逃せぬ一冊である。 続きを読む »