読書通信2017年11月号

■ 環境史観をご存じだろうか。私見によれば地球環境を歴史的に探ることによって文明の特質を解明し、歴史的視点に立った生き方を提示する学問である。その基本には環境考古学があるが、その第一人者による大著、安田喜憲『人類一万年の文明論』東洋経済新報社、2592円)は業界紙に長期掲載された時評から成る。
『一神教の闇』『稲作漁撈文明』『山は市場原理主義と闘っている』など著者の名著のエッセンスに再三、言及しつつ、グローバリズムと市場原理主義を厳しく論難している。一方で、自然と共存するアニミズム文明、資源循環利用、森を守る島国根性、地震予知のための年縞研究、防潮堤より防潮林など話題は多様に広がる。物質文明偏重やマネー至上主義から離れて自然との共生を考えたい人には格好の書である。
■ 個人的には中国・アメリカ産の食品は全面的に遠慮してきたが、奥野修司・徳山大樹『怖い中国食品、不気味なアメリカ食品』講談社文庫、799円)は徹底的に中国の現場を踏んでレポートしていて、どれも驚くべき劣悪さだ。不衛生極まりないだけではない。有害物質に対する観念がまるでない。それを「自分たちが食べるのではないから」と言って製造出荷する。
一方、アメリカ産で怖いのは牛、豚、鶏肉に含まれる化学物質で、特に成長促進のためのホルモン(エストロゲン)が大量に含まれていて、日本では乳がんの激増、成長や生殖への重大な影響が報告されている。もう一つ怖いのはGM作物で、特にGMとうもろこしが加工品に多用されて日本人の体内に入り込んでいるという。
一次産品は気をつけられても、加工品は内実を知りようがない点で、中国、アメリカどちらも怖いと言うしかない。数年前、「週刊文春」に連載され大きな反響を呼んだ記事を加筆して文庫化した本書は、特に若い世代には必読と思う。 続きを読む »

編集後記2017年11月号

【編集後記】 「岩盤規制にドリルで穴を開ける」と国際会議で大見得を切った安倍首相ですが、その突破口として掲げた経済特区で実現したのはお友達の学校新設でした。今、日本経済に必要なのは、新たな成長機会を生み出す規制改革です。そのメスがはいらなくてはならないのは、いまだ国家管理が続く、農林水産省、国土交通省、文部科学省の既得権益保護行政です。5年間も金融と財政によりかかりつづけ、構造の変革は口だけだった安倍政権は、日本の長期停滞を深刻化させ、変革を進めることができなかったことをこそ、自ら総括すべきでしょう。
次号は、曽我豪氏「政治の怖さ、面白さ」、三浦瑠麗氏「北朝鮮核危機と日本」、山下一仁氏「柳田・石橋の農政論と農業改革」、河野龍太郎氏「完全雇用なのになぜ追加財政、金融緩和を続けるのか」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年11月号    No.825

2017年11月号目次

自民党、そして日本の今後について
衆議院議員 石 破  茂

大規模地震対策特別措置法見直しと予知の実力
東海大学教授、海洋研究所・所長 地震予知・火山津波研究部門長
長 尾 年 恭

朝鮮半島問題に解はあるか
(株)日本総研国際戦略研究所理事長 田 中  均

インターネット・ゴールドラッシュ時代の投資戦略
武者リサーチ代表 武 者 陵 司

〔談話室〕         中国式白タクに思う            柴生田 晴四
〔会員の広場〕      1965年・ニュウヨーク、2017年・New York Now②         夏 目 敏 夫
経済倶楽部便り
読書通信(No.153)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年10月号

■ 「内に立憲、外に帝国」という明治時代に多用されたスローガンは、一見、あの時代を象徴しているように見えなくもない。しかし、坂野潤治『帝国と立憲』筑摩書房、1836円)によると、立憲と帝国はあざなえるかのごとく交互に登場して日本を振り回した。1874年の台湾出兵から日中全面戦争が始まる1937年まで、立憲主義の拡大と帝国主義化が同時並立することはまれで、前者の時代は国会開設、政党内閣制、普選運動、さらには軍拡予算への抑制も働いた。一方、帝国化では日清・日露戦争から日韓併合、満蒙特殊権益へと進む。
問題は立憲の名のもとでの民主主義の定着および抑止力である。本書は「デモクラシーが戦争を抑え込み…発展するという好循環は、リベラルな政党内閣…の下でしか生じない」という歴史教訓を提示し、現下の日本政治を考える上で貴重な示唆を与えてくれる。リベラル派では原敬が「天皇統帥権否認」を、高橋是清が「参謀本部廃止」を主張したという驚くべき事実も知る。原、高橋や浜口雄幸、若槻礼次郎らの政党内閣が実現させた「立憲と非帝国の両立」からは、歴史の「if」が楽しめるだろう。
■ 9条もさることながら個人的には緊急事態条項のほうが心配なのは、首相への権限集中により、国民の権利を縛り奪うことになりかねないだろうから。長谷部恭男・石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』集英社新書、777円)は憲法学者とドイツ史の専門家の懇切丁寧な対談で問題の所在がよくわかる。
この国が危ない、と言われれば、テロやミサイルや震災が迫る中、備えは当然と思ってしまう人もいるだろう。だが緊急事態条項を突破口にヒトラー独裁を実現したナチスの先例を見れば、事はそれほど単純ではない。難しい法律論もあるが、そこは飛ばして読んでもいい。「ナチスの手口に学んではどうか」という政治家に負けずに、こちらもしっかり学ばないと…。
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編集後記2017年10月号

【編集後記】 9月1日の関東大震災「慰霊の日」に、「朝鮮人犠牲者を慰霊する式典」への都知事の追悼文送付が取りやめられました。この前段として、今年4月の都議会において、自民党議員から慰霊碑の碑文にある犠牲者6千余という数字に疑義が出された、これを受けての見送りとも考えられます。小池氏は「史実については歴史家にゆだねる」と答えていますが、人数の多少はともかくとして、少なからぬ朝鮮人が虐殺された事実は否定の余地がありません。日本国民としてその行為を深刻に受け止め、犠牲者に哀悼の意を表することは当然の行為です。
次号は、石破茂氏「自民党、そして日本の今後について」、長尾年恭氏「大規模地震対策特別措置法見直しと予知の実力」、田中均氏「朝鮮半島問題に解はあるか」、武者陵司氏「インターネット・ゴールドラッシュ時代の投資戦略」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年10月号    No.824

2017年10月号目次

綻びだした安倍長期政権と今後の政治展望
ノンフィクション作家、評論家      塩田 潮

昭和・平成そして新時代-今上天皇の「生前退位」を考える
ノンフィクション作家 保阪 正康

ITを軸にした世界経済の変化について
早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問
野口 悠紀雄

〔談話室〕  安易な衆院解散を憂う     柴生田 晴四

〔会員の広場〕  「1965年・ニュウヨーク、

    2017年・NEW YORK NOW ①        夏目 敏夫

経済倶楽部便り
読書通信(No.152)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年9月号

■ 劣化し続ける政治、袋小路の経済金融に企業、脅かされる平和と、石橋湛山の現代的意義が見直される事象ばかりである。「もし今、湛山ありせば」と考えてみることは、私たちに突きつけられた課題を自らに問うことにほかならない。増田弘『石橋湛山』ミネルヴァ書房、3780円)は湛山研究の第一人者による、現時点における最高の湛山論である。
ジャーナリスト、エコノミスト、政治家、思想家としての波乱の生涯を、石橋湛山全集全16巻はもとより多くの文献や証言を駆使して、見事に描き切っている。そしてそれらに挟み込まれた著者のコメントには教えられるところが多い。湛山の言説だけでなくその時代背景や彼を取り巻く人々の動きなどにも光を当てて、充実した明治・大正・昭和史にもなっている。終章「湛山イズム」はその主義主張や行動の基底にあるものを簡にして要を得た分析で締めくくり読者の理解を助けるだろう。400ページ近い大冊だが、一気に読了した(これぞ湛山の魅力か)。本書と湛山の評論集(たとえば岩波文庫)を併読すれば、湛山理解は一挙に進むはずだ。
■ 経済人でこれほど活字好きの人は寡聞にして知らない。読書の傾向もとても個性的だが、その人の読書論が初めて出た。丹羽宇一郎『死ぬほど読書』幻冬舎新書、842円)がそれで、経済人らしい視点がたくさん織り込まれているところが特徴である。旺盛な好奇心が猛烈な読書の原点にあることが浮かんでくる。
読みながら考えることが大事で、ハウツー本やベストセラー本は読まない、本にカネは惜しまない、人を見る目は本で養われる、など本をめぐる多様な生き方、勉強の仕方、見極める力のつけ方などが述べられて、大いに参考になる。ほんとに幸せな人生だなとほぼ全編、同感し、読書のない人生なんてと改めて口走りかけた。
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編集後記2017年9月号

【編集後記】 6、7月の記録的猛暑の後は、記録的長雨や集中豪雨と、日本列島は相変わらず天候異変に襲われています。地球温暖化がもたらす気候変動の影響は年々大きくなっているようです。トランプ政権内で「パリ協定」からの離脱を強硬に主張したバノン氏が更迭されたことで米国は少し良識が回復してくるのでしょうか。それとも肝心の親玉が変わらない限り、米政権の正気は戻らないのでしょうか。
次号は、塩田潮氏「綻びだした安倍長期政権と今後の政治展望」、保阪正康氏「昭和・平成そして新時代―今上天皇の生前退位を考える」、野口悠紀雄氏「ITを軸にした世界経済の変化について」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年9月号    No.823

2017年9月号目次
プーチンと日露外交
NHK解説委員 石 川 一 洋

2017年後半、新たな有事相場への備え
国際金融問題研究家 豊 島 逸 夫

害のある薬をやめる方法を考える
―薬のチェックは命のチェック
医師、NPO法人医薬ビジランスセンター理事長
浜 六 郎

〔談話室〕   国際平和協力とは何か   柴生田  晴四
〔会員の広場〕  -建設狂奏曲-      坂本  正治

経済倶楽部便り
読書通信(No.151)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年8月号

■ 安倍内閣の支持率はつるべ落とし。政策とか理屈よりも、国会答弁の仕方とか、お友だち内閣の惨状とかに対する感覚感情的な批判が強い。こういう人気離反はかなり手ごわそうな気がする。そんな折、古賀茂明『日本中枢の凶謀』講談社、1836円)の熱気にはいささか辟易しながら圧倒された。テレビ中心にメディア関連の話が多いが、とりわけ「報道ステーション」をめぐる古舘伊知郎、官邸、テレ朝首脳の内幕話は自身が絡むだけに真に迫っている。
もとより政権批判はとどまるところを知らず、ここまで言うかと思う糾弾、そしてその根拠たる事実が次々に炸裂する。与党だけでなく、民進党批判も強烈で、白眉は原発マフィアの告発だ。読み進むにつれて、著者にはやはりテレビで批判相手たちと丁々発止の論争をしてもらうのが一番だという気になってくる。個々の論点すべてがそのとおりというつもりはないが、なるほどと思うことの多い告発の書である。
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