読書通信2017年6月号

■ 昨今、立憲制も天皇制のあり方の議論もおかしな雲行きである。この際、天皇機関説と国体明徴問題について知っておくことは「神の子孫としての天皇という権威」を錦の御旗にした軍部による戦前の忌まわしい歴史の再現を防ぐ意味でも極めて重要だろう。山雅弘『「天皇機関説」事件』集英社新書、820円)は天皇を神格化して自分たちに都合の良い方向へ日本をもっていこうとした軍部や政治家たちによって立憲主義が機能停止させられる一部始終を述べきたって間然するところがない。
「陛下を機関呼ばわりするとは何事か」というのは大衆受けのする「糾弾」だった。しかし大事なのは党利党略に走った立憲政友会などの政治家と美濃部達吉に冷たい態度を取り続けたメディアの責任の大きさである。いつの時代にも政治とメディアがしっかりしているか否かが問われる。昭和天皇は一貫して機関説に同意し機関説排撃に不快感を抱いていたが、その真意が広く国民に共有されることはなかった。「万世一系」を唱える人々が立憲主義を脅かしている今の時代が、本書の描写と二重写しになって見えるのが杞憂でなければ幸いである。

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編集後記2017年6月号

【編集後記】 4月から5月にかけての講演会の中で、複数の講師の方々から、日本の企業部門に積みあがった膨大な内部留保についての指摘がありました。この資金が前向きな投資に使われれば、日本経済は再び輝きを取り戻し、新たな成長軌道に復帰することが出来るかもしれません。グローバル化する市場において、「成長機会がない」という言い訳は通用しません。新たな成長機会を探し出し、リスクを負って再投資を行うことは経営者の責務です。長期にわたって内部留保を積み上げるのは経営者の怠慢でしかありません。
次号は、山田俊浩氏「拡大するネットメディアの行方」、デービッド・アトキンソン氏「新・所得倍増論から見た日本経済」、津上俊哉氏「習近平の中国、トランプの米国」、星浩氏「日本政治はどうなるか」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年6月号    No.820

2017年6月号目次
尊厳を保障し、財政を改革する
―私たちのくらしだから、私たちみんなで変える
慶応義塾大学経済学部教授 井 手 英 策

当面の内外経済の見通し
東京大学名誉教授、学習院大学国際社会科学部教授
伊 藤 元 重

日銀超金融緩和策の副作用と内外経済
東短リサーチ社長 加 藤   出

官僚機構をどう改革するか
衆議院議員 河 野 太 郎

〔談話室〕 文化行政の責任     柴生田晴四
〔会員の広場〕 異文化交流に学ぶ  松 下 滋

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.148)

バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年5月号

■ 昭和の自由主義者といえば長谷川如是閑、清沢洌、石橋湛山、河合栄治郎だろうか。彼らに共通するのは個が確立されていて、世の中がどう動いても座標軸は全く揺るがないことだ。湯浅博『全体主義と闘った男 河合栄治郎』産経新聞出版、2052円)はアカデミズムの世界にあってぶれることなく主張を貫き通した男の気骨の生涯を描き切っている。最初は大内兵衛などマルクス主義、次はファシズムと闘ったが、後者によって東大教授の職を追われても死を賭して自由主義の気概を守ろうとする。死の直前まで著述に専念する壮絶な生き様がベテランジャーナリストによって活写される。
評者は読み進む中で再三、石橋湛山との比較に入り込んだ。二人とも剛直でありながらリアリストで、膨張主義に反対しながらも愛国者だった。「日米戦争は不可避」でそうなれば「日本は朝鮮、満州、台湾、沖縄も失うだろう」という河合の先見性も湛山にほぼ共通していた。もし二人が語り合えば意気投合したのではないか。だが惜しいことになぜか接点はなかった。河合が戦後まで生きたら首相になっただろうと著者は推量の翼を広げている。確かに河合と湛山が戦後政治をリードしたら日本の道筋はまるで変わっていただろう。惜しまれる“if”である。 続きを読む »

編集後記2017年5月号

【編集後記】 歳出が歳入を大幅に上回る国家予算が提出されたのにもかかわらず、歳出の中身やその是非について国会では大した議論も行われませんでした。いつものこととはいえ、国会議員は本来の務めを一向にはたしていません。その一方で「森友学園」問題は、財務省が交渉経過を明らかにしないままで幕引きされました。行政の業務の遂行がどのように行われているのかを、国民は知る権利があります。国民のプライバシーを侵害する法律を作る一方で、自らの行動を隠蔽する政府は危うい将来につながっていく危険をはらんでいます。
次号は、井手英策氏「尊厳を保障し、財政を変革する」、伊藤元重氏「当面の内外経済の見通し」、加藤出氏「日銀超緩和策の副作用と内外経済」、河野太郎氏「官僚機構をどう改革するか」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年5月号   No.819

2017年5月号目次
安倍超長期政権の行方
「インサイドライン」編集長 歳 川 隆 雄
世界経済の潮流と日本経済の行方
大和総研チーフエコノミスト 熊 谷 亮 丸
歴史を考える
ライフネット生命会長 出 口 治 明
トランプ政権のアメリカと中東情勢
千葉大学法政経学部教授 酒 井 啓 子
〔談話室〕    看過できない発言  柴生田 晴四
〔会員の広場〕  老夫婦の衝動買い  深瀬 拡
経済倶楽部便り
読書通信(No.147)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年4月号

■ トランプ大統領がメディアに登場する頻度は下降気味だが、トランプ旋風の意味を考える重要性はなんら低下していない。アメリカがどんな状況にあるのかをしっかり理解しておく必要はむしろこれから高まるのだろう。その意味で格好なのが金成隆一『ルポ トランプ王国』岩波新書、928円)で、著者は朝日新聞NY支局員として、メディアの予測とは真逆のトランプ陣営の異常な勢いに気づき、旧工業地帯や東部諸州を丹念に取材して歩く。
オハイオやヴァージニアで「生まれたときから」民主党支持だった(現・元)労働者や女性たちが熱烈なトランプ支持に変わっていく。その思いや生活実態が率直に語られる、庶民それぞれの発言はどれも軽視しえない種類のものである。ミドルクラスの消滅がたかだか20年かそこらの間にこれほどの勢いで進んだ理由、NAFTAの経済的影響は劇的でトランプのTPP反対が熱烈に受け入れられた背景などがよく理解できる。文章は読みやすく軽妙で、この春、見逃せぬ一冊である。 続きを読む »

編集後記2017年4月号

【編集後記】 都議会における豊洲問題に関する証人喚問は、豊洲移転の早期実現を主張する自民党議員と石原、浜渦両証人との波長が見事に一致する猿芝居でした。加えて東京都の豊洲市場における土壌汚染対策に関する専門家会議の平田座長は地下水が汚染されていても地上は安全だと援護射撃をしています。しかし、同じメンバーによる専門家会議は土壌汚染対策として盛り土を提案し、汚染物質が気化して上がってきても盛り土が吸収するとして盛り土を提言したのではなかったでしょうか。提言を受けて行われた盛り土が建物部分では行われていなかったこと、地下水に基準値の100倍を超えるベンゼンが含まれていることを考えると、この気化したベンゼンが地上部分に影響を与えることは、これまでの専門家会議の議論から当然導きだされる危険です。その危険をどのような対策で除去するのか。専門家会議は都民を納得させる義務があります。
次号は、歳川隆雄氏「安倍超長期政権の行方」、熊谷亮丸氏「世界経済の潮流と日本経済の行方」、出口治明氏「歴史を考える」、酒井啓子氏「トランプ政権のアメリカと中東情勢」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2017年4月号   No.818

2017年4月号目次
アジア平和貢献センター共催シンポジウム
ヨーロッパはどこへ行く
〈問題提起〉 早稲田大学政治経済学術院教授   縣 公一郎
基調報告1/フェリス女学院大学教授  上原 良子
基調報告2/東北大学名誉教授    田中 素香
基調報告3/早稲田大学政治経済学術院教授    福田 耕治
波乱の朝鮮半島情勢
―朴大統領の弾劾と日韓関係の行方、そして北朝鮮のICBM
コリア・レポート編集長 辺 真 一

2017年 日本経済の展望と課題
法政大学大学院政策創造研究科教授 小峰 隆夫

元医師だった父の上手な平穏死
医師、作家 久坂部 羊

〔談話室〕   税金にたかる寄生虫     柴生田晴四
〔会員の広場〕 忘れえぬ女     高野 力
経済倶楽部便り
読書通信(No.146)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信2017年3月号

■ ポピュリズムは大衆迎合的政治という意味で使われがちだが、これは少々正確さを欠く。既存の政党政治を超えて幅広く国民に訴えようとする政治スタイル、あるいは既成の政治を批判する立場からの政治運動、いずれかの意味で使うのが正しい。水島治郎『ポピュリズムとは何か』(中公新書、885円)はポピュリズムの定義と背景を整理した上で、南米と欧州での近年の動きを詳説し、ポピュリズムがグローバル化していると指摘している。
しばしば右傾化として認識されがちだが実態は非常に多様で、ベルギーのポピュリズム政党VBのようにリベラルでありながらイスラム教徒の非民主主義性だけは厳しく排斥して勢力を拡大する例もある。スイスやオランダなどあまり知られていない政治勢力についての事例や日本への言及は興味深く、「デモクラシーという上品なパーティに飛び込んできた招かれざる泥酔客」という比喩もなかなか面白い。
■ 母方の祖父、岸信介との因縁はともかく、安倍首相には父系の祖父に安倍寛という政治家がいた。村民の敬愛の念は強く、戦時中、大政翼賛会に加わらず無所属から立候補した劣勢の寛を草の根的に当選させたりした。寛は反戦を貫く硬骨の政治家として活躍するが、惜しくも戦後初の総選挙目前で亡くなっている。
青木理『安倍三代』朝日新聞出版、1728円)は村民や同級生たちへの丹念なインタビューをもとに三代の政治家を探っている。右寄りと見られた晋太郎が意外にリベラルでバランス感覚にあふれていたこと、成蹊小から成蹊大までの晋三が凡庸で目立ったところもなく政治に対する感度もほぼゼロだったことが明らかにされる。それがなぜ一強と言われる存在になったのか。日本の政界はその程度なのか、本人が劇的に変化したのか。ただし孫は父と祖父にはなぜかほとんど言及しない…。力作である。 続きを読む »