編集後記 2023年2月号

【編集後記】 ロシアのウクライナ侵攻後の岸田政権の外交は、もっぱら西側先進国との共同歩調に終始しているように思われます。軍事的圧力を強める中国を念頭に敵基地攻撃能力を含めた防衛力の強化によって中国に対する抑止力を高めることは東西冷戦が復活し、米国の軍事的優位に陰りが見られる現状を考えれば、一定の合理性があるのは確かです。しかし、海上警備の強化や防空体制の見直しなど、急がなければならない課題が山積する中で敵基地能力だけが勇ましく語られる現状には違和感がぬぐえません。しかも西側諸国との一体感が強調される一方で同じように中国の圧力に対峙している東南アジア諸国などアジア域内の国々との対話や連携がおろそかにされている感は否めません。ただ西側諸国に追随するのではなく、アジア域内で友好国の輪をしっかり作り上げていく必要があるでしょう。
次号は、藤原帰一氏「ロシアのウクライナ侵攻後の世界」、富坂聰氏「習近平三期目の中国の外交と日本」。古賀茂明「改憲なしで変わる国の形」を掲載予定です。

編集後記 2023年1月号

【編集後記】 防衛費を5年間でGDPの2%まで増額するために増税を検討することが明らかになったとたんに内閣支持率が急落しました。岸田首相はGDPの2%はいまやグローバルスタンダードだと言いますが、一国の予算編成は国家が独立国として何物にも侵されることのない政府権限であるはずです。国際情勢に鑑みて防衛費の増額が必要だと言う主張は理解しますが、まず2%ありきはいただけません。五年間で何をどう強化するのかが先で、それをまかなうのに必要な予算はその後にくるべきものです。そうした議論を素通りしていきなり増税がでてくるのでは支持を失って当然でしょう。
次号は、寺島実郎氏「2023年の視座――世界史の転換点に立って」、田中秀征氏「岸田政権と自民党の行方」、嶋中雄二氏「2023年日本経済の展望」を掲載予定です。

編集後記 2022年12月号

【編集後記】 米国のインフレが減速したことから、FRBによる利上げがペースダウンするとの見方が強まり、円が買い戻されました。しかし、金融政策の方向性の違いや日本経済のパフォーマンスの低さなど、円が再び売られる状況は基本的に変わっていません。景気の好転や金融政策の転換がなければ円安局面に大きな変化はないでしょう。記録的な円安は海外資本にとっては、日本買いのチャンスでもあります。企業、不動産から文化遺産まで、なけなしの大事な資産を失うリスクが高まっていることに真剣に向き合う必要があります。
次号は三品和広氏「企業成長と経営者」、小泉悠氏「ロシア・ウクライナ戦争と日本の安全保障」、豊島逸夫氏「マーケットは収縮の時代へ―マーケットをよむ勘所」、唐鎌大輔氏「欧州経済の現状と展望」を掲載予定です。

編集後記 2022年11月号

【編集後記】 水際対策が大幅に緩和され、全国旅行支援が開始されるなど社会経済活動の制限が解除される中で町には賑わいが戻りつつあります。政府は野外でのマスクの着用は必要ないと度々よびかけていますが、まだ7割近い国民がマスクを野外で着用し続けています。ある韓国ジャーナリストは、「同調マスク」と揶揄していますが、先進国では唯一の異常なマスク執着ぶりと言えます。第5類への変更をためらう政府に問題がありますが、一つには、相変わらず感染者数や感染した死者数を報道し続けて恐怖を煽るメディアにも責任があります。次号は、山田実氏「ウィズコロナ、高齢者に必要な2つの“活”」、伊藤元重氏「変化の時代に向かう内外経済」、山下一仁氏「食料安全保障の危機」、中岡望氏「アメリカの将来を決する中間選挙の行方」を掲載予定です。

編集後記 2022年10月号

【編集後記】 岸田政権が今直面している最大の課題は物価の急騰への対処です。すでに消費者物価は超金融緩和政策解除の目安である2%を大きく超えています。先進国で唯一、金融緩和政策に固執する理由を黒田日銀総裁は、景気回復の足を引っ張ることになると主張していますが、日銀はいつから物価の番人から景気の番人に宗旨替えしたのでしょうか。物価の上昇の大きな要因として海外の資源価格急騰に加えて31年ぶりの円安が響いていることは明らかです。円安は先進国で唯一金融政策を転換しようとしない日本だけの現象です。岸田首相は安倍氏の遺産であるアベノミクスに一刻も早く訣別すべきです。
次号掲載は佐々木恭子氏「ビジネスと生活を変える気象情報の活かし方」、星浩氏「岸田政権の課題」、永濱利廣氏「どうして日本の国力は30年以上も低下し続けているのか?」です。

編集後記 2022年9月号

【編集後記】 安倍元首相の暗殺は、旧統一教会と自民党との長年にわたるただならぬ関係をあぶりだす結果になりました。この問題への対処を議員個人個人の問題として矮小化した岸田首相には党首としての自覚と責任が微塵も感じられません。案の定、内閣支持率は急落しました。上から下までこの問題に真摯に向き合おうとする動きが全く見えないところに自民党の衰弱の深刻さがうかがえます。
次号は三浦瑠麗氏「変革を迫られる日本、分断する世界」、垣内俊哉氏「バリアバリュー―障害を価値に変える」、高原明生氏「党大会を迎える習近平政権の動向」を掲載予定です。

編集後記 2022年8月号

【編集後記】 巷では新型コロナウイルスの感染が急拡大し、第7波に見舞われていることが大きく報じられています。今のところ、政府は行動制限を伴う感染防止対策には否定的ですが、その一方で欧米諸国のようなマスク着用もいらない日常への復帰にも踏み切れないでいます。新たな変異株は感染力が強まる一方で毒性が薄まっている現状を踏まえれば、一刻も早く第2類相当から第5類への変更に踏み切るべきです。政府の優柔不断は経済の停滞と財政の悪化によって日本の国力を一段と弱めることになるでしょう。
次号は塩田潮氏「危機の時代と岸田政権の対応力――コロナ・ウクライナ・参院選の行方」、吉崎達彦氏「有事の世界経済を読み解く」、〈夏季特別企画〉石橋湛山氏「百年戦争の予想」(昭和16年講演)を掲載予定です。

編集後記 2022年7月号

【編集後記】 為替相場は歴史的な円安局面に突入しています。米国が景気の過熱と資源価格の急騰によるインフレ対応で急ピッチの利上げに動き、欧州各国も金融引き締めに動く中で開かれた日銀の政策決定会合は、ゼロ金利政策の継続を決定、円安がさらに進行しています。日米金利差の拡大から考えても円安には歯止めがかからない可能性が高く、日本の物価上昇もさらに深刻なものになるでしょう。日銀は低金利政策の継続の理由として景気回復に水をさすリスクをあげていますが、そもそも低金利政策が経済の停滞に対して基本的に効果がなかった事実を無視し続けています。
次号は渡部恒雄氏「ロシア・ウクライナ戦争とアメリカの戦略」、前田昌孝氏「株式市場の本当の話」、廣瀬陽子氏「ロシアのウクライナ侵攻と旧ソ連空間の動き」を掲載予定です。

編集後記 2022年6月号

【編集後記】 夏本番を前に、松野官房長官が野外でのマスク着用は熱中症の危険を高めるので人との距離が保てる場合はむしろ控えてほしいとの趣旨を呼びかけました。一方で児童のマスク生活が健康に有害であることが早くから指摘されているにも関わらず、児童のマスク着用を推奨しないとする見解の表明に政府は最近まで及び腰でした。一部の専門家と称する人たちの見解にのみしたがって幅広い分野の専門家の総合的な判断を仰ごうとしてこなかった政府や行政府の罪はいずれ取り返しのつかない結果となって現れるでしょう。
次号は歳川隆雄氏「ウクライナ戦争と岸田文雄政権の行方」、隈部兼作氏「経済制裁を受けているロシア経済の現状・見通しと課題」、庄司克宏氏「ロシアのウクライナ侵攻後におけるソフトパワーEUの現状と展望」、河野龍太郎氏「グローバル経済と日本の超低金利政策の行方」を掲載予定です。

編集後記 2022年5月号

【編集後記】 簡単に制圧できると高をくくって泥沼の戦争に身動きがとれなくなったロシアのプーチンとゼロコロナにこだわって大都市上海を混乱に導いた中国の習近平。いずれも自らの力を過信して社会を混乱に導いたところは共通しています。中国には漢民族とは異なる文化を有する地域が周辺に存在し、漢民族の支配に苦しんでいます。人間の尊厳を認めない前時代的な強権支配がいつまで続くのか。我々にできるのは自立した市民が主役となる民主国家の範となることでしょう。
次号は原田泰氏「新しい資本主義とは何か」、青山瑠妙氏「流動化する国際情勢と中国の対外政策」、相澤孝夫氏「コロナ禍で明白となった我が国に必要な医療改革」、下斗米伸夫氏「ソ連崩壊からウクライナ戦争まで――悲劇の背景と平和の条件」を掲載予定です。