談話室2019年9月号

漂流する廃プラスチック   柴生田   晴四

読書通信 2019年9月号

■ アンダークラス定着で日本も階級社会になったと喝破したのは橋本健二氏だが、中間層の消滅が日本のみならず世界を揺るがしていることを考えると、「階級」は固定的だと思わざるをえない。教育しだいで下の階級から上へ移動できるはずが、その教育がカネ次第とあってままならないのだから事は深刻である。
橘玲『上級国民/下級国民』小学館新書、885円)は、大卒・非大卒、壮年・若年、男・女の6グループに分類してそれぞれの感情、経済力、結婚などを調べている。すると非大卒男子には驚くほど冷酷な現実が待ち構えていることがわかった。経済力に乏しく女性にモテないので生涯独身の可能性が極めて高い。逆に大卒男子の一部は大いにモテて離婚―再婚を繰り返すので、非大卒男子の結婚機会を奪っていく。それほど単純かどうかは議論の余地があるだろうが、非大卒中心の引きこもりが500万人もいるかもと言われると、確かに深刻である。
日本社会の分断は現下の重大問題であり政治家や官僚にこそ読んでもらいたい本だが、どうやら庶民のほうが熱心に読んでいるようだ。欧米の混乱を理解するにも格好の書で、知的好奇心を大いに満足させてくれる。
■ ネット犯罪やネット炎上が増え続け、一方、ネット販売は拡大一途でこの先、本当に大丈夫なのだろうか。ジャロン・ラニアー『今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由』亜紀書房、1944円)はソーシャルメディアの闇を徹底的に究明している。
ネット社会で個人情報を吸い上げアルゴリズムによって金儲けを図るIT企業が批判の対象である。特にフェイスブックとグーグルがアカウントの顧客の行動を本人の気づかぬうちに「修正」していくことが追及される。主体的に情報を得て自ら考えることが対応策として提示されていて、これはネットに限らず重要だと感じさせられた。ちょっと過激だが、怖い世の中で道を間違えないためには肝に銘じたい内容だ。 続きを読む »

編集後記 2019年9月号

【編集後記】 日本政府の輸出優遇措置の撤廃を機に一気に加速した日韓関係の悪化は、韓国政府に改善を模索する動きがあるものの、依然として解決の糸口が見えません。一方的に相手を痛めつけて二国間関係が改善することはあり得ない以上、この政策の目的が国内の不満に対する措置と受け取られても仕方がないでしょう。そうではないと言うのなら、そのきっかけとされる「軍事転用の疑義」について、その具体的な中身を提示してもらいたいものです。 次号は、小林弘幸氏「長生きのための栄養学」、渡部恒雄氏「トランプ外交を読み解く」、豊島逸夫氏「2019市場が発する異音」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2019年9月号 No.847

2019年9月号目次

参院選と今年後半の政治を読む
ノンフィクション作家、評論家  塩 田  潮

米中関係の行方と日本の選択
双日総研チーフエコノミスト    吉 崎 達 彦

低金利下の経済運営について
学習院大学国際社会科学部教授   伊 藤 元 重

〔談話室〕漂流する廃プラスチック    柴生田 晴  四

〔会員の広場〕 渋谷大開発と水道塔  坂 本 正 治

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.175)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2019年8月号

通商国家の在りよう   柴生田 晴四

編集後記 2019年8月号

【編集後記】 先ごろ公取委がジャニーズ事務所に対して元SMAPメンバーのTV出演への「取引妨害」につながる恐れがあるとして注意を行ったことが報道されました。この問題はかつて解散騒動に際して「談話室」でその前近代性について取り上げたことがあります。公取委の調査では明確な圧力の証拠が得られなかったものの三人の番組出演が激減し、ほぼゼロに近い現状を踏まえて「注意」という形で警告したと言えます。大手芸能事務所に「忖度」しがちな民放の現状と合わせて、今回の注意が今後の芸能界の正常化に資することを期待したいものです。 次号は、塩田潮氏「参院選と今年後半の政治を読む」、吉崎達彦氏「米中関係の今後と日本の選択」、伊藤元重氏「低金利下の経済運営について」を掲載予定です。

読書通信 2019年8月号

■ 犯罪会計学と聞いてがぜん興味がわいた。確かに不祥事続出の折から深く探求すべき学問分野であるだろう。細野祐二『会計と犯罪』岩波書店、1944円)はキャッツ粉飾決算事件で有罪となった公認会計士つまり著者が、郵便不正事件における地検特捜部の立件の仕方を詳細に追究し、その矛盾を明らかにしていく。起訴した以上はなにがなんでも有罪へもっていこうとする検察の病理を解明して説得力十分だ。村木厚子氏(のち厚労省次官)は幸いにも無罪となったが、弘中惇一郎弁護士の手腕に加え、最大の勝因は起訴事実の全面否認にあった。日産ゴーン事件も取り上げていて、起訴が無理筋であることを力説し、今回も弘中弁護士がついていることの意味は大きいという。日本の検察には真実よりも自らのメンツと利益を重視する救いがたい組織第一の論理があるようだ。法曹に限らず広く読まれるべき力作である。
■ 国際協力機構は広く世界的に認められている。特に青年海外協力隊の働きはめざましい。北岡伸一『世界地図を読み直す』(新潮選書、1404円)は世界の国々の歴史的紹介や訪問記にとどまらず、そこでの日中米ロの立ち位置と意図が浮かび上がって参考になる。著者は東大教授の傍ら国連大使を務め、今はJICA理事長として世界を飛び回っている。行動する政治学者による地政学が面白くないはずがない。
フィンランド、ロシア、エジプトなど既知の国々では独特の視点が新鮮だし、アルメニア、ザンビア、コロンビア、南太平洋の島嶼国家などではこうした国とこそしっかり向き合っていくべきことを教えられる。各国に批判がましいことは言わず、統治者に対しては建設的な語り口がもっぱらで、これこそ外交だと納得した。 続きを読む »

経済倶楽部講演録2019年8月号 No.846

2019年8月号目次

世界経済の構造変化と見通し
―令和時代の日本の経済金融情勢
慶應義塾大学総合政策学部教授 白井 さゆり

極端気象・異常気象と地球温暖化
東京大学大気海洋研究所教授 木 本 昌 秀

平成経済の回顧と令和経済の課題
大正大学地域創生学部教授 小 峰 隆 夫

〈夏季特別企画〉
「札幌農學校とクラーク先生」
昭和7年5月10日に東京で行われた大島正健氏の講演

〔談話室〕通商国家の在りよう       柴生田 晴四
〔会員の広場〕 極東ロシアの印象     松 井 和 明

経済倶楽部便り
読  書  通  信(No.174)
バックナンバーのご案内/編集後記

読書通信 2019年7月号

■ 安倍一強は官邸パワーによって生まれた。といっても官邸に集められた官僚出の秘書官や官房副長官の言動に永田町や霞が関が引きずられているにすぎないのだが、もちろん忖度は着実に密度を高めている。森功『官邸官僚』文藝春秋、1728円)はその実相を、個人名を多数挙げながら俎上に乗せていく。
主役の今井尚哉(経産)は安倍首相の分身とも化身とも呼ばれて得意の絶頂にある。アベノミクスの成長戦略の柱とされた原発輸出を取り仕切ったが全敗に終わった。しかしそんなことにめげることなく外交にも首を突っ込んで谷内正太郎を激怒させるが、まるで馬耳東風という。ほかに和泉洋人(国交)や杉田和博(警察)も主役級であるが、官僚人事を一手に担当する内閣人事局も含め官邸がここまで強くなって大丈夫かと思わざるをえない。虎の威を借るキツネたちの物語。見逃せぬ一冊である(敬称略)。
■ まともに記者会見をしなくなったトランプ大統領もひどいが、日本も似たようなものだ。安倍首相も昨今、記者会見はほとんどしていないし(自分でしたいときは除く)、「全く~ない」を連発する菅官房長官も質問に真摯に答える気配がうかがえない。そして河野外相も。南彰『報道事変』朝日新書、853円)からは誠意に欠けた政治家たちの姿が浮かび上がる。しつこく食い下がった東京新聞の望月衣塑子記者の場合が典型だ。嫌がる官房長官の意を体した上村秀紀官邸報道室長が、質問している最中に10秒おきくらいに「簡潔にお願いします」と繰り返す。その速記録を見ると幼稚な嫌がらせとしか思えない。だがこれに危機感を覚える記者や新聞社が多ければまだしも、むしろ同記者を疎外しようという動きすらあるという。著者の危機感をメディアや読者が共有できるか、そのためには何が必要なのか考えさせられる。 続きを読む »

読書通信 2019年6月号

■ 世はキャッシュレス時代、ということで、日本が世界に取り残されつつあると心配する声も多い。だが何事も光と影がある。中国在住17年で現地の大学教授となった著者による、西村友作『キャッシュレス国家』文春新書、918円)は、中国のモバイル決済と新ビジネス、社会の裏側まで描いて貴重である。
買うのも、食べるのも、移動するにも、遊ぶにも、みんなネットを使いキャッシュレスで精算する。路上の物乞いでさえQRコードのスキャンで小銭を受け取る。おかげで銀行はリテイルではほとんどやることがない。ポイントも溜まり誰もが幸せに感じているらしいが、確かに効率も良くなった。だがデジタル格差は生まれ、個人情報は丸裸になっている。新たな犯罪も発生していて、さらに巧妙化するだろう。ほんとに、そんな社会は住みやすい世の中なのだろうか。キャッシュレス社会にやや好意的な書きぶりではあるが、時宜にかなった好著である。
■ 書名も内容もなんとも刺激的で挑発的な本だ。岡口基一『最高裁に告ぐ』岩波書店、1836円)の著者はツイッターで率直な発言を繰り返してきた東京高裁判事で、ために上司の長官から懲罰的に最高裁に処分を申し立てられた。裁判官の裁判(分限裁判という)で、最高裁は被告に戒告処分の決定を下した。それに対する決定的な異議申し立てが本書で展開されるのだが、理は明らかに被告の側にある。
裁判所の内幕や裁判官の生態、裁判官における表現の自由、そして監視・批判勢力としてのメディアの現状など、本書から学ぶことは多い。それにしても三権分立などというけれど、司法の惨状は放置が許されぬところへ来ているように思える。自由で民主的な社会の最後の拠りどころは司法にあると考える立場からは、政治と行政に関心を持つだけでは危ないと痛感する。 続きを読む »