読書通信 2022年1月号

■ 昨年取り上げた47冊の中からベストテンを選んでみた(〇数字は月号)。まずアンデシュ・ハンセン『スマホ脳』②は大ベストセラーになったがまだならぜひ。マイケル・ルイス『最悪の予感』⑨はさすがルイス、片山善博『知事の真贋』①、保阪正康『石橋湛山の65日』⑥、芝健介『ヒトラー』⑫も力作だ。小川仁志『むかしむかしあるところに哲学者がやってきた』④は異色の哲学入門。渡辺政隆『科学の歳事記』⑤、千足伸行『画家たちのパートナー』⑥、猪木武徳『社会思想としてのクラシック音楽』⑧は楽しみながら学ぶところ大である。コロナ感染防止には西村秀一『新型コロナの大誤解』⑧が絶対のお薦めで、残る37冊も捨てがたかった。
■ 全国紙やキー局のジャーナリズム精神に疑問符がつく昨今だが、その点、地方メディアにはさまざまな優位性がある。しつこく一つのテーマに取り組む能力などはその最たるものだろう。松本創『地方メディアの逆襲』ちくま新書、946円)に登場する記者たちはほんとにしつこい。さまざまに厳しい状況下にありながら、何年もかけて一つの問題を追う。あるいはドキュメンタリー番組を何十年と続ける。
彼らのひたむきさは感動的ですらある。岡山本社に異動しても前任地高松の事件を追い続ける記者と、それを認める会社。人口減の中で財政的困難は増す一方だろうに、つい応援したくなる。登場するのは秋田魁新報、琉球新報、毎日放送、瀬戸内海放送、京都新聞、東海テレビ放送の6メディア。でも類似の例はほかにもたくさんあるはずだ。読み応え十分の力作である。 続きを読む »

編集後記 2022年1月号

【編集後記】 2021年も年の瀬に至ってまたも新たな統計不正が明るみに出ました。三年前の厚生労働省の問題が表面化した際には、全ての官庁統計の作成が適切に行われているかどうかが精査されて、必要な改善がなされたはずでした。しかし、いくら形式的な調査を行っても、担当者が統計の意味を理解して本来の趣旨から外れないように誠実に取り組んでいるかどうかまでは検証できなかったのでしょう。どうやら、お役所の統計に対する意識は依然としてお粗末極まるものであるようです。安倍・菅政権の強権政治体質が権力に阿ってつじつま合わせの杜撰な統計をはびこらせた遠因ではないでしょうか。
次号は豊島逸夫氏「コロナ相場、本番は2022年」、嶋中雄二氏「2022年の日本経済展望」、寺島実郎氏「日本経済・産業再生の視座」を掲載予定です。

談話室2022年1月号

映画雑感16   柴生田 晴四

経済倶楽部講演録2022年1月号 No.875

2022年1月号目次

徳川慶喜の明治維新
近代史研究家 鈴 木 荘 一

コロナ危機が長引くなかで内外経済・マーケットをどうみるか

みずほ証券チーフマーケットエコノミスト 上 野 泰 也

総選挙後の岸田政権のゆくえ
政策研究大学院大学教授 飯 尾   潤

欧州の政治・経済・金融情勢の展望
みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐 鎌 大 輔

〔談話室〕映画雑感16         柴生田 晴四
〔会員の広場〕  CPAP、そして鼻うがい        小長井 孝

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.203)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年12月号

民主政治の危機の本質        柴生田  晴四

読書通信 2021年12月号

■ ヒトラー死して76年、いまだにヒトラーは忘れ去られずにいる。ナチ的なものの復権の動きもある。日本もひとごとではなく、芝健介『ヒトラー』岩波新書、1276円)もよく売れているらしい。著者はヒトラーの波乱の人生を縦軸に、広域ドイツの国内事情、政治家や軍人たちの動きを織り成して描き切った。ヒトラーの野心や偏執性、さらに疑心や葛藤も追究され、特異な個性が熱狂の時代に浮かび上がる。
ナチスを論じるに際しては、ヒトラーの役割を重視する「意図派」と体制全体の構造を重視する「機能派」の対立が続いたが、本書は両者を統合的にとらえる歴史家カーショーを高く評価して同様のアプローチをとっているため、結果的にバランスのとれたナチス分析となった。エピソードも適宜織り込み、充実度において新書のイメージを超えた、専門家と一般読者の双方を満足させうるだろう力作である。余談だが、本書読了後、水木しげるの傑作「劇画ヒットラー」(ちくま文庫)を読み直して余韻が膨らんだ。
■ 問題のあまりに多い昨今の経済社会だが、識者たちの作為とも無作為ともとれる発言がそれに覆いかぶさってうっとうしい。もっとしっかり勉強しておけばよかったと思っても後の祭りだが、それでも猪木武徳『経済社会の学び方』(中公新書、946円)を読んで、好奇心を忘れず、経済社会を有機的連関をもつ仕組みとして懐疑的に考え抜くことが重要だと痛感した。理論、データ、因果、歴史、心理などをどう落とし込みどう推理していけばいいのか、経済学の泰斗が自らの体験を踏まえ縦横無尽のヒントを展開してくれる。とはいえ内容的には歯応え十分で喉越しするするとはいかないが、世代を超えて大いに参考になるだろう好著である。 続きを読む »

編集後記 2021年12月号

【編集後記】 あわただしく岸田政権がスタートしました。事前には苦戦を予想された総選挙を自民党単独過半数確保で乗り切り、幹事長への茂木敏充氏と外務大臣への林芳正氏起用で安倍離れを演出、案外この人は化けるのかもと思わせましたが、一方では現金給付で相も変わらぬバラマキが続きます。評価を下すのはまだ早いというところでしょう。
次号は鈴木荘一氏「徳川慶喜の明治維新」、上野泰也氏「コロナ危機が長引く中で内外経済・マーケットをどう見るか」、飯尾潤氏「総選挙後の岸田政権のゆくえ」、唐鎌大輔氏「欧州の政治・経済・金融情勢の展望」を掲載します。

経済倶楽部講演録2021年12月号 No.874

2021年12月号目次

コロナ危機下の日本経済の課題
大正大学地域構想研究所教授 小 峰 隆 夫

新型コロナウイルスの正体と付き合い方
京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授 宮 沢 孝 幸

インド太平洋時代の国際連携と日本
―RCEP、CPTPP、FOIP
神奈川大学法学部教授 大 庭 三 枝

衆院選後、政治はどうなる
毎日新聞社専門編集委員 与 良 正 男

〔談話室〕民主政治の危機の本質       柴生田 晴四
〔会員の広場〕  「コロナ禍、頑張らない健康法」         田 川 修 司

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.202)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年11月号

不快な言葉    柴生田  晴四

読書通信 2021年11月号

■ 一部政治家にとっては、面従腹背していたとはいえこうした人物が文部科学次官にまで上り詰めるとは腹立たしい限りだろう。前川喜平『権力は腐敗する』毎日新聞出版、1760円)は前著『面従腹背』同様、官邸官僚政治と二代首相による国政私物化を徹底批判している。冒頭でアクトンの「絶対的な権力は絶対的に腐敗する」を引き「この警句は直接には教皇庁の権威主義に宛てたものだ。彼は教皇無謬説を厳しく批判した。それは良心の自由に反する専制主義にほかならなかったから」だと言う。本書の言いたいことはこの一点に集約される。つまり至上の価値としての良心の自由である。
後半部分には教育を中心にした論考が並ぶ。白眉は安倍首相の全国一斉休校問題で、感染についての科学的知見の欠如もさることながら、教育の本質に関わる決定的過ちが糾弾される。すなわち「子どもたちから学校教育と学校生活の機会を奪う休校は彼らの生存権と学習権を侵す」重大な憲法(25、26条)違反だ、というのである。これは当時のみならず、いつの時代にあっても見落とせない論点だろう。
■ 「官報複合体」という言葉は「権力と一体化するメディア」を揶揄した著者(元日経記者)による造語である。牧野洋『官報複合体』河出文庫、990円)は9年前に出版された同名の書を大幅に加筆修正し文庫化された。まずジョージ・オーウェルの名言が引用される。「権力が報じてほしくないと思うことを報じるのがジャーナリズム。それ以外はすべてPR」だと。
かくして日本のマスメディアの現状が徹底分析され、米国ジャーナリズムの歴史と実情が対比される。両者の差の大きさには慄然とせざるをえないが、とくに著者がコロンビア大学ジャーナリズム校で学んだ事例が再三紹介され説得力がいや増す。毎朝の紙面にいかに独自情報が少ないか、改めて痛感させられた(夕刊は少し改善)。「PR」は読み飛ばすしかないのだろう。 続きを読む »