談話室2020年5号

政治の責任     柴生田    晴四

読書通信 2020年5月号

■ コロナでうやむやになっていいとは思えないのが「桜を見る会」の真実である。モリカケも問題だが、桜のほうは政治資金規制法にもろに関わる。そんなわけで毎日新聞「桜を見る会」取材班『汚れた桜』(毎日新聞出版、1320円)でおさらいしてみた。昨年11月に参議院予算委で田村智子議員が爆弾質問して以来の一部始終が明快である。桜をめぐって何が起き、何が問題なのかが手際よく整理されている。
多くは新聞報道などで断片的に頭に入っていたことだが、この問題を最初から体系的にみてみると物語は極めて単純なことがわかる。新聞記者たちの心中や取材現場が描かれるのもよい。招待名簿の廃棄だとか、前夜祭での会費支払いのうやむやだとか、状況証拠からすれば安倍首相側は限りなくクロだが、それにしてもこんなことで国会という大事な政策論議の場が空転を続けていく日本という国が情けなくなる。
■ 沖縄のことを、筆者も含め「本土」の人々はわかっているつもりでいても実はほとんどわかっていない。少なくとも沖縄の人はそう思っている。これを被害者意識などといってすませてはいけないと、阿部岳『ルポ沖縄 国家の暴力』朝日文庫、814円)を読んで思った。
名護市の北隣にある東村にヘリパッドが建設されることになり、抗議する人々を排除するために機動隊員が500人も全国から集められた、その攻防の記録である。著者は沖縄タイムス記者で、現場に本土の記者は現れない。だから本土の人たちはこの一部始終をまるで知らずに終わった。ヘリパッドは首尾よく完成したのだが、その1カ月後、オスプレイが近くの海に、1年後には今度はヘリが近くの牧草地に、墜落した。そのときの高圧的な米軍の行動に著者は憤る。そして沖縄での作家百田尚樹の唖然とするような言動にも。沖縄の悩みはますます深い。 続きを読む »

編集後記 2020年5月号

【編集後記】 コロナ騒ぎがもたらした自粛の日々をいかに有効に過ごすかが今後の日本人の在り方を決めるような気がしています。あり余る時間を古典や文化、芸術の再認識のための天が与えた休暇と考え、これまでの歴史をふりかえり、これからの社会や自らの生き方を考え直すいい機会として活用したいものです。
次号は、熊倉正修氏「日本の経済政策と民主主義」、三浦瑠麗氏「日本人の価値感の違いを探る」、早川英男氏「〈異次元緩和〉7年後の真実」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2020年5月号 No.855

2020年5月号目次

政治の季節となる2020年度 経済へのインパクト
ピクテ投信投資顧問シニア・フェロー 市川 眞一

変容する国際秩序・転機を迎えた中国の外交
早稲田大学大学院教授 青山 瑠妙

ワード・ポリティクス/コラムニストが考える、これからの日本
毎日新聞社特別編集委員 山田 孝男

〔談話室〕政治の責任           柴生田 晴四
〔会員の広場〕天山北路 国境を超える旅   高田 英生

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.183)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2020年4号

政策決定の透明性    柴生田   晴四

読書通信 2020年4月号

■ 首相にとって検察とはどんな存在か。忠誠を誓うならともかく、逆に地検特捜部に狙いを定められて勝てる政治家はめったにいない。あの角栄でさえ敗れた。「田中角栄とロッキード事件の真相」と副題のついた石井一『冤罪』産経NF文庫、902円)に、今さらと思う人がいたらちょっと待ってほしい。角栄の悲劇は、決して過去の話ではないと思うから。
米国(特にキッシンジャー)にとって彼らの意向を無視した自主路線(日中国交回復や資源外交など)を追求する角栄は不愉快極まりなくかつ不都合な存在だった。幸い日本側にも事件の本丸だったP3C対潜哨戒機に絡む不正(特に先日死去した中曽根、小佐野)があった。そして当時の最高裁判事と検事たちは決定的な政治的間違いを犯し、世紀の冤罪を生んだ。以上の事実を、角栄の最側近だった著者は「オヤジ」への敬慕の念を込め、強い執念で掘り起こしていく。まことに理路整然とした話だ。政治家にとって検察がいかに怖い(あるいは利用価値の高い)存在かを知れば、黒川東京高検検事長の今回の人事を読み解くことは容易だろう。
■ 日本にも一億総中流と言われた時代があった。しかし今、中流は消えて、下層階級が大問題となっている。ブレイディみかこ『THIS IS JAPAN』新潮文庫、649円)は英国在住の保育士(『ぼくはイエローで‥』の著者)が久しぶりに長期帰国して日本の「現場」を歩き回ったルポルタージュ。保育園の混乱、労働者同士の労働争議、デモ…こんな風景が日常化しているのにテレビやスマホで気づくことはない。目線が低くて嫌味のない語り口が好ましい。文庫化を機にまだの人はぜひお読みください。知られざる日本の深層(表層か)を知るために。 続きを読む »

編集後記 2020年4月号

【編集後記】 WHOは2月29日に新型コロナウイルスの感染防止対策として、マスクなどの適切な使い方の指針を公表しました。咳、くしゃみなどの症状のない人は、予防目的でマスクを着用する必要はない、として過度な着用を戒めています。すでに極度の供給不足から、医療や介護などマスクの着用が欠かせない現場からは悲鳴が上がっており、政府はこうした機関へのマスクの提供に乗り出していますが、完全に行き渡るかどうか疑問です。予防目的でマスクの着用を強要する企業も散見されますが、こうした行為は公共の利益を損なうものと言えるでしょう。
次号は市川眞一氏「政治の季節となる2020年度経済へのインパクト」、青山瑠妙氏「変容する国際秩序・転機を迎えた中国の外交」、山田孝男氏「ワード・ポリティクス/コラムニストが考える、これからの日本」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2020年4月号 No.854

2020年4月号目次
日本経済のゆくえ
一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄

軍国日本を創った明治維新
作家 原田 伊織

日本を覆う公文書クライシス
―隠ぺいの実態とその背景
毎日新聞社特別報道部記者 大場 弘行

地方自治のガバナンスを問う
早稲田大学大学院教授 片山 善博

〔談話室〕政策決定の透明性   柴生田 晴四
〔会員の広場〕”オオカミ少年”の真実  瀧口 勝行

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.182)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2020年3号

感染症対策に見る宿痾      柴生田 晴四

読書通信 2020年3月号

■ 2010年の石橋湛山賞を受賞した傑作が新装刊された。牧野邦昭『新版 戦時下の経済学者』(中央公論新社、1540円)はぐんと完成度が高まったように思う。総力戦に直面したとき経済学は何をなしえたかを実証的に追究した本書は、河上肇、有沢広巳、柴田敬、高田保馬、中山伊知郎ら経済学者と軍部(特に秋丸機関)の関係を描いて間然するところがない。新版では荒木光太郎の果たした役割について紙数を加えて論考に厚みを加えたほか、逆に前作で終章に取り上げた高橋亀吉論を削除してテーマの一貫性を高めた。というわけで前作を未読の方は新版をお読みになってはいかがか。前作と比べ文字が大きくなり読みやすくなったこと、定価が3割も下がったことも付記したい。なお高橋亀吉は「石橋湛山と合わせて別の機会に論じたい」とのことなので期して待ちたい。
■ NHKの特別番組は歴史の真実に迫る秀作を多数世に送り出してきた。映像もいいが、そのひだまで書き込んだ出版物も捨てがたい。NHK「ETV特集」取材班『証言 治安維持法』(NHK出版新書、990円)もそうした一冊である。まず稀代の悪法とも呼ばれる法律が出来上がっていく過程とその適用の実情が丁寧に描かれる。だがそれ以上に興味深いのは、当初、目標とした左翼を潰滅させた後の展開である。立法直後、特高の定員を急増させた内務省は対象がもういないからといって人員を減らすわけにはいかない。校内でレコード鑑賞会や読書会を開いていた教師、母国語のハングル勉強会を行った朝鮮人など、治安維持法に全く関わりのない人たちが次々に逮捕、拷問され、釈放されても職を辞さざるをえなかった例が多かったという。最後は「それぞれの戦後」を追う一方、「教訓を現代にどう活かすか」で締めくくられる。歴史に学ぶことの重要性を改めて感じた。 続きを読む »