談話室2021年7月号

一等国の責任とは  柴生田   晴四

読書通信 2021年7月号

■ 「歴史探偵」が亡くなって半年。半藤一利『戦争というもの』PHP研究所、1430円)は「記憶に残したい太平洋戦争名言集」とでもいうべき、いかにも著者らしい遺著である。著者の戦争嫌いは東京大空襲で九死に一生を得た少年期の体験から来ているので筋金入りで、最後の最後に軍人など有名無名人37の名言を選び一冊にまとめようとした。しかし体力、気力尽きて14でストップ、実現したのが本書である。
「沖縄県民斯く戦へり」(大田実)、「一に平和を守らんがためである」(山本五十六)、「敗因は傲慢の一語に尽きる」(草鹿龍之介)、「理想のために国を滅ぼしてはならない」(若槻礼次郎)から「バスに乗り遅れるな」(流行語)、「タコの遺骨はいつ還る」(流行歌)など、著者の絶筆は寸鉄で刺すがごとく鋭い。あと23本は直筆の企画書として本書に掲載されていて実現していればと惜しまれる。末利子夫人と孫の北村淳子氏の解説もいい。
■ 偉い人ほどウソをつく。そして逃げまくる。「このまま忘れてもらおう」作戦に引っ掛かってたまるか。そう憤慨するのが武田砂鉄『偉い人ほどすぐ逃げる』文藝春秋、1760円)である。『文學界』にここ数年、連載してきた43のエッセーを政治、社会、五輪、言葉、メディアの5テーマに再編成した。やや旧聞に属する話もあるが、それだけに忘れかけていた大事な問題を考え直すきっかけにもなる。
安倍前首相も逃げ切ったと思っている一人なのだろうが、看板だった「女性活躍社会」など事実上、何もできずに退陣に至ったことは著者の分析どおりだし、昨年4月の会見でイタリア人記者から「コロナ対応が失敗だったらどうする」と問われて「私が責任をとればいいというものではありません」と返した話が紹介される(当分、忘れてはならぬ迷言だろう)。歯に衣着せぬ著者のしつこさには学ぶべきところも多い。 続きを読む »

編集後記 2021年7月号

【編集後記】 例年よりも早い梅雨入りが発表になりました。湿度が高くなれば、熱中症の危険は増すことになります。そしてマスクの着用によって体温が上昇すれば、リスクはさらに高くなります。他人との濃厚接触の可能性がない場所でのマスクの着用を控えて、熱中症で命を危険にさらすことのないようにお過ごしください。
次号は早川英男氏「〈日本化〉とマクロ経済政策の変貌」、保阪正康氏「石橋湛山首相と日本近現代史」、三浦瑠麗氏「アフターコロナと日本の進路」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2021年7月号 No.869

2021年7月号目次

衆院解散・総選挙はいつか-菅政権の行方
「インサイドライン」編集長 歳川 隆雄

バイデン政権の高圧経済戦略の帰結は?
BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野 龍太郎

アフターコロナの世界を考える
双日総研チーフエコノミスト 吉崎 達彦

バイデン政権下の米国の対中東政策-イスラエル情勢、イラン、中東の民主化
千葉大学法政経学部教授 酒井 啓子

〔談話室〕 一等国の責任とは     柴生田 晴四
〔会員の広場〕カワセミに会いに行こう      高田 英生

経済倶楽部便り
読  書  通  信(No.197)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年6月号

嘆かわしい文化や知への無理解    柴生田  晴四

読書通信 2021年6月号

■ 石橋湛山を主題にした本はあまたあるが、昭和史の泰斗が10年以上前から構想を温めてきた本格的な湛山論がようやく上梓された。保阪正康『石橋湛山の65日』東洋経済新報社、1980円)は期待を裏切らぬ力作である。書名のとおり石橋内閣の誕生までと、病を得てわずか2カ月で歴史的な潔さで退陣するまでとを2本の柱に据えて、湛山が何を国民に訴えたか、何をしようとしたかを過不足なく描いている。
著者は「最短の在任、最大の業績」と評しているが、湛山ほどその哲学と政策を矛盾なく両立させえた政治家は、日本の政治史に他に例を見ないと言って過言ではなかろう。吉田茂との抗争、GHQとの対峙、自主平和路線、国民への真摯な誓いなど、政治家湛山の魅力には改めて感服せざるをえない。戦前からの小日本主義、実用主義、倫理主義を政治家としてぶれずに貫き通す湛山像として描き抜いたところは、人物論としても一級品といえる。昨今の政治の貧困に対する頂門の一針として読者は爽快な読後感を持つだろう。湛山に興味はあっても湛山本はまだという人にこの際、ぜひお薦めしたい。
■ 今の株高は金余り下のバブルと呼ぶしかないだろう。機関投資家も企業も個人もゼロ金利下ではほかに運用対象がないのも事実だ。そんな中、前田昌孝『株式市場の本当の話』日経プレミアシリーズ、935円)は目からウロコの指摘が詰まっている。「課題山積の投資信託」「公的年金の危うい運用」「長期投資は本当に有効か」「ESG投資の死角」など、市場に興味をもつ人にとっては面白い難問が次々登場する。
株式市場を永年ウオッチしてきたベテラン記者ならではの視点と分析はとても参考になる。しかも歯に衣着せずというか、金融庁、取引所、日銀、GPIF、投信など市場関係者に耳の痛い話が多々聞けるのも好ましい。年金基金に関係している筆者としては日頃、疑問に感じている諸点をめぐりわが意を得たりの感をもった。 続きを読む »

編集後記 2021年6月号

【編集後記】 やっと一般国民へのワクチン接種が本格化してきました。行政の対応の遅れや不手際を非難する声は相変わらず高いようですが、ワクチンによって日本社会を覆っている不安の霧が晴れてくれればそれに越したことはありません。コロナ恐怖が蔓延している中で昨年の日本人の死者数は久ぶりに減少しました。そしてコロナ関連の死者の二倍以上の自殺者が出ています。恐怖をあおることでいかに息苦しい社会を作り上げてしまったのかに思いをはせるべきでしょう。
次号は歳川隆雄氏「衆院解散・総選挙はいつか―菅政権の行方」、河野龍太郎氏「バイデン政権の高圧経済戦略の帰結は?」、吉崎達彦氏「アフターコロナの世界を考える」、酒井啓子氏「バイデン政権下の米国の対中東政策:イスラエル情勢、イラン、中東の民主化」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2021年6月号 No.868

2021年6月号目次

コロナ禍で加速されるでじタイル化への対応
野村総合研究所会長兼社長 此本 臣吾

コロナ経済危機の真因
東京大学教授 渡辺 努

「医療崩壊」の不都合な真実
医療ジャーナリスト 森田 洋之

2020年代のロシアを見通す
東京大学先端科学技術研究センター特任助教
小泉 悠

〔談話室〕嘆かわしい文化や知への無理解  柴生田 晴四
〔会員の広場〕リスク対応について   丸本 正人

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.196)
バックナンバーのご案内/編集後記208

談話室2021年5月号

映画雑感14     柴生田  晴四

読書通信 2021年5月号

■ 昨秋出版されていたのに遅くなってしまったが、良い本なので紹介したい。600ページに及ぶ大著でそれなりの定価にもかかわらず、著者に先日、聞いたところではすでに6刷という。大したものだ。春名幹男『ロッキード疑獄(KADOKAWA、2640円)は田中角栄と丸紅、全日空の首脳が逮捕、起訴された昭和の大事件の真実に迫って読む者を引きつける。
ロッキード事件では「関連文書誤配説」「ニクソンの陰謀説」「三木の陰謀説」「田中の資源外交起因説」などの陰謀論が人口に膾炙した。最終的に本書はキッシンジャーという伝説的外交官の自らの外交への過信、強い猜疑心、謀略の才能などが一体となって田中を陥れた、外交的葛藤の所産としての疑獄だったと結論づける。「巨悪の正体」と題した「児玉誉士夫の先の闇」の解明も冴えている。15年もの長期取材で膨大な資料を渉猟し続けた努力の結晶としての推理ドキュメンタリーとも言うべき力作である。
■ 石橋湛山は汲めども尽きぬ泉のようだ。これだけ論じられていまだ評価され切れていない言説が次々に出てくる。原田泰・和田みき子『石橋湛山の経済政策思想』日本評論社、3960円)も、過小評価あるいは無視されている湛山の経済政策思想に新たな光を当てている。テーマの一つは湛山の昭和恐慌理解がなぜ誤解されたかだが、湛山の理解には日本のケインジアンやマル経学者たちが考えもつかない独創性があったことを本書は明らかにする。あるいは湛山がインフレーショニストというレッテルを張られたのはなぜか、また傾斜生産方式がなぜ有沢広巳の手柄として喧伝されたのか、など、データを駆使しつつ推理小説もどきに明らかにしていく著者の推理の流れは、統計を一貫して重視した湛山と通底して鮮やかである。副題の「経済分析の帰結としての自由主義、民主主義、平和主義」はまさに本書の意義(あるいは湛山の本質)を疑いなく明確に語っていると感じた。 続きを読む »