談話室2021年10月号

行政の怠慢    柴生田  晴四

読書通信 2021年10月号

■ なんとか200回の節目を迎えた。16年前、理事長時代に始めてからざっと800冊、おかげさまでたくさんの良書に出会えた。激励の言葉を折折いただけたからこそ続いたのだろう。もうしばらく多少ともお役に立てればと思う。
■ デジタル一辺倒の世界は危ないのではないか。そう心配していたところに堤未果『デジタル・ファシズム』NHK出版新書、968円)が目に入った。スーパーシティこと丸ごとデジタル化された街(中国が先行)は落とし穴だらけ、効率追求のデジタル政府(エストニアなど)はとてつもなく危うい、キャッシュレス化世界一の韓国はカード地獄でもある、などの事例はしっかり頭に入れておく必要があると感じた。
いちばんショックだったのは「教育のデジタル化」だ。生徒の膨大なデータをグーグルが収集する、ベンチャーが教育を投資商品にする、AI教師で生身の先生はいらなくなる、生徒たちはタブレットのおかげで考えなくてすむようになる、などという話を読んで、デジタルと権力が一体化した世界の怖さはひとしおでなかった。広く読まれるべき問題提起の書と思う。
■ 異なる意見に耳を傾けずしかも常に説明不足だったという点で安倍、菅両政権は似たもの同士であり、官邸官僚を跋扈させた点でも強い相似性をもっていた。森功『墜落 「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』(文藝春秋、1815円)は、コロナ対策がなぜ迷走したのか、五輪開催強行の裏側に何があったのか、政治の私物化がどのように進んだのかなどを、綿密な取材によって政権周辺から描いて読み応え十分だ。
安倍政権で「総理の分身」の異名をとった今井尚哉、警察OBとして凄みを発揮した杉田和博、菅政権で強権を振るった和泉洋人など多くの官邸官僚が登場し、官僚ににらみを利かせ、政策を立案し、政治家さえも手玉にとる。官邸官僚政治極まれりの感があるが、ここまで政権は劣化していたのかと改めて慄然としてしまった。 続きを読む »

編集後記 2021年10月号

【編集後記】 今号がお手元に届く時には、コロナ感染の第5波が収束し、緊急事態宣言もひとまず解除されているでしょう。第5波の推移を見る限り、専門家と称する人たちが大好きな「人流」と感染との間の因果関係は極めて疑わしいと言わざるを得ません。基本的人権に抵触する行動制限を国民に強いるのであれば、明確な科学的根拠が必要です。
次号は岡浩一朗氏「病を生む座りすぎ――それでもあなたは座り続けますか」、星浩氏「総選挙と政局の行方」、長尾年恭氏「南海トラフ巨大地震と富士山噴火」、冨坂聰氏「米中対立時代の日中関係」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2021年10月号 No.872

2021年10月号目次

危機の権力の使命と条件
―コロナ・東京五輪・次期衆院選と菅政権の命運
ノンフィクション作家、評論家 塩田 潮

新型コロナ感染危機以降の世界と日本
―金融・財政政策の政策協調および中央銀行が直面する課題
慶応義塾大学総合政策学部教授 白井 さゆり

GX(グリーン・トランスフォーメーション)と日本経済
学習院大学国際社会科学部教授 伊藤 元重

〔談話室〕行政の怠慢             柴生田 晴四
〔会員の広場〕家庭菜園奮戦の記Ⅱ         増森  均

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.200)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年9月号

映画雑感15   柴生田  晴四

読書通信 2021年9月号

■ 傑作『マネー・ボール』の著者ならでは、今回も(とくに後半は)一気に読ませる。冒頭の章でカリフォルニアの衛生官の仕事ぶりがコロナと無関係に延々と続き、後の章では主人公たちの生い立ちや過去のエピソードなど何度も脇道へ入り込むのも、彼らの後の行動への布石のごとくしだいに必須に思えてくる。マイケル・ルイス著、中山宥訳『最悪の予感 パンデミックとの戦い』(早川書房、2310円)の後半は、ブッシュ政権下のインフルエンザ対策からトランプ政権下のコロナ対策の混迷まで、感染症に取り組む主人公たちの苦闘が饒舌に語られる。
感染症対策なら米国は先進国かと思いきや官僚主義の跋扈により多くの犠牲者を出してきたことを知る。とくに感染症対策の中心に位置するCDC(米疾病対策センター)が感染対策の障害となってきたことなど本書から学ぶことは多い。日本にもこんな使命感にあふれた疫学者や衛生官たちがいてほしいと痛切に感じた。
■ 習近平に対してはどうも感覚的な評価が多いように感じる。その点、エドワード・ルトワック著、奥山真司訳『ラストエンペラー 習近平』文春新書、880円)はCSIS(米戦略国際問題研究所)の上級顧問として著名な著者が習の思考法や行動を情緒を排し戦略的視点から分析したもので、毛沢東に続く2人目の「皇帝」の弱点が冷静に明かされる。
とくに独裁は強そうに見えるが実は弱い権力システムであり、権力の集中と異分子排除の果てに崩壊の危険性は強まる一方だという論は納得できる。本書後半は軍事テクノロジーの逆説、戦略のロジックなど著者の専門学説が歴史的に語られていて習に限らぬ話だが、参考になる。 続きを読む »

編集後記 2021年9月号

【編集後記】 緊急事態宣言の拡大と延長が決定した。多くの国民が行政と専門家と称する人たちの呼びかけに耳を貸さなくなっています。法的規制の強化を叫ぶ愚かな政治家もいますが、説得力も現場感覚もない対策を繰り返す政治と行政がもはや国民の信頼を失いつつあることを肝に銘じるべきです。
次号は塩田潮氏「危機の権力の使命と条件――コロナ・五輪・次期総選挙と菅政権の命運」、白井さゆり氏「新型コロナ感染危機以降の世界と日本――金融・財政政策の政策協調と中央銀行の直面する課題」、伊藤元重氏「GX(グリーン・トランスフォーメーション)と日本経済」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2021年9月号 No.871

2021年9月号目次

バイデン政権の戦略と米中関係の行方
笹川平和財団上席研究員 渡 部 恒 雄

渋沢栄一のフランス体験と資本主義観
フランス文学者 評論家 鹿 島   茂

<夏季特別企画>昭和16年5月2日講演 日本外交の特質
ジャーナリスト 清 澤   洌

〔談話室〕映画雑感15                    柴生田 晴四
〔会員の広場〕  民主主義の死にな方          瀧口 勝行

経済倶楽部便り124
読 書 通 信(No.199)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年8月号

政治の無責任  柴生田  晴四

読書通信 2021年8月号

■ 経済学の泰斗である猪木先生がこんな玄人はだしの音楽評論を上梓されるとは。猪木武徳『社会思想としてのクラシック音楽』新潮選書、1760円)は「社会思想や政治経済体制の視点から音楽の形式や内容」を見詰めようとした本である。といっても堅苦しいところはなく、楽曲の成り立ちや形式に分け入りつつ社会経済的な相互関係を多面的に探ろうとする試みは、多彩なエピソードも加わり大いに楽しめる。
バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンからワグナー、シューマン、ショスタコビッチまで、パトロンや大衆との関係、政治や社会との関係など随所に重要な指摘がなされる。そこではアダム・スミス、トクヴィル、オルテガなどにより民主主義や自由の思想との相関性が繰り返し考究される。作曲家や演奏者をこのような角度から考察することは著者ならではの試みであり、多大な刺激を受けた。さらにいえば、東京クヮルテットや朝比奈隆などの演奏が激賞される個所では、CDを引っ張り出して楽しみながら読み進み、至福のときを過ごした。
■ 学術会議任命問題を入り口として企画された藤原辰史・内田樹ほか『「自由」の危機』集英社新書、1166円)は新書ながら26人の識者による論考を集めて400㌻に及ぶ。日本を覆う息苦しさへの危惧のもと、自由の意味、自由の難しさが多彩に論じられる。本書によって自ら考え、議論の余地があればその手掛かりとするとき編集意図は果たされることになろう。学問の自由、文化芸術の自由、社会的自由など教えられるところは多い。中でもトクヴィルによる「多数派による専制」という民主主義の欠点に警告を発した堤未果、自由を守るのは人々の生活や命を守るためであるとする山崎雅弘、世間体の戒律から自由になるためには自分で考え自分で自分を守る覚悟がいるというヤマザキマリの各氏の論考は、とりわけ勉強になった。 続きを読む »