経済倶楽部講演録2021年3月号 No.865

2021年3月号目次

大統領選後のアメリカと世界
東京大学大学院教授 藤 原 帰 一

2021年 中国と米国の行方
現代中国問題研究家 津 上 俊 哉

ブレグジット後の英EU関係の展望
―グリーン・ディール欧州vs.グローバル・ブリテン
慶応義塾大学大学院教授 庄 司 克 宏

〔談話室〕 驚くべき無理解         柴生田 晴四
〔会員の広場〕 2021年(令和3年)丑年について          田川 修司

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.193)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年3月号

驚くべき無理解 柴生田 晴四

 

読書通信 2021年3月号

■ トランプ政権の下で分断に直面した米国、EU離脱の英国、移民問題に揺れる独仏を見るにつけ、寛容と不寛容は今後もなお人類最大の課題であると思わざるをえない。森本あんり『不寛容論』新潮選書、1760円)は植民地時代の米国にさかのぼってこの魅力的なテーマに切り込んでいて、圧倒される。とくに宗教における不寛容さはしばしば深刻な問題であり、記された事実は多くの示唆を与えてくれる。
本書は、主人公ロジャー・ウィリアムズがいち早く政教分離を唱え、住民の信教や生活上の権利を尊重した事実を掘り起こしつつ、彼を一方的に美化することなくその矛盾した行動などなんとも人間的な一面も描いてみせた。これによって排外主義的な保守、ときに不寛容なリベラルといった現象を見極めることもより容易になったといえ、読み進むにつれ加速度的に知的興奮に誘い込まれる力作である。最後に私的な思い出を。大学2年のとき学長となったK教授は私の属していた大学新聞のインタビューで「学生諸君に寛容と忍耐の2つの言葉を贈りたい」と語ったが、あれから半世紀。学生たちの何人がこの言葉を大事に人生を送っただろうか。なお寛容の英語toleranceには忍耐の意味もあり、本書でも忍耐の重要性が象徴的に示されている。
■ 昭和史は半藤=保阪コンビの探索によって真実が着実に明らかにされてきた。半藤一利氏亡き後、保阪氏にかかる期待は高まるばかりだ。保阪正康『陰謀の日本近現代史』朝日新書、979円)は期待にたがわず明治から昭和に至る歴史から多くの真実を知ることができ、改めて歴史のイフを思わざるをえなかった。
仕組まれた日米開戦、事件の伏線、戦争に凝縮された日本的特質、歴史の闇を照射する記録と証言の4章は甲乙つけがたく面白い。面白がってはいけないのだが、政治家も軍人もなぜここまで大局観に欠け、しかも無責任なのか。心地良い情報だけ選んで都合よく解釈する。教育にも大きな責任があったのではと思わされた。 続きを読む »

編集後記 2021年3月号

【編集後記】 緊急事態宣言の下で外出の自粛が叫ばれ、とにかく外に出るなといったメッセージが責任のある立場の人たちから発せられてきました。しかし、3密を避けて感染の防止に努めるのであれば、外に出て散歩をしたり、買い物に出かけたりすることになんの問題もないはずです。家に閉じこもることは身体的にも精神的にも健康を害することが明らかです。公的な発言をする立場にある人たちは、そうしたバランス感覚をわきまえて発言するべきです。一刻も早く講演会場で会員の皆様にお会いできる日を心待ちにしております。
次号は、野口悠紀雄氏「米中デジタル覇権競争に大きな転機?」、中室牧子氏「教育に科学的根拠を」、山田実氏「COVID―19蔓延で浮き彫りになった健康長寿への課題」、辺真一氏「2021年朝鮮半島情勢をよむ」を掲載予定です。

談話室2021年2月号

感染防止と人権   柴生田  晴四

読書通信 2021年2月号

■ 戦後政治と検察の緊張関係は強まったり弱まったり、時に政治が検察人事を支配し、逆に特捜が政治家の肝を冷やしもする。安倍政権で検察人事を取り仕切ったのは菅官房長官と杉田和博副長官だった。政権の下では黒川弘務東京高検検事長が重用され、ついには検察庁法の改正、定年延長などの無理筋が登場し、挫折した。
村山治『安倍・菅政権vs.検察庁』文藝春秋、1760円)はベテラン司法記者ならでは、政権後半の4年間に両者の間に起きた暗闘の緻密な描写には引き込まれる。安倍政権が「黒川検事総長」を目論んだ最大の動機が「桜を見る会」問題で検察を抑えこむことにあったとする一方で、黒川氏も政権に振り回された被害者だったとの指摘は興味深い。検察という組織とその機能の理解を深めるに役立つとともに、検察の中立性の大事さが改めてよくわかった。官邸の人事権が強すぎるとろくなことがないことも。
■ パンデミックは日本の政治システムの想像以上のもろさを露呈させた。東日本大震災もそうだったが、非常時には情報伝達、意思決定、兵站などの本来的な欠陥が明白になる。竹中治堅『コロナ危機の政治』(中公新書、1078円)はその点を丁寧に分析していて大いに参考になった。とくに武漢封鎖やクルーズ船の頃から特措法、知事の権限、検査キャパシティなど今に尾を引く問題点が登場している事実からは「スピード感をもって」の言葉の軽さを知る。
過不足なく整理されていて資料的な面でも貴重だが、中央政治と地方政治の関係を多面的に追究している点が何より重要である。一強のはずの安倍政権が地方自治との齟齬によってほとんど指導力を発揮できなかった事実の指摘は、今後の大災害やさらなるパンデミック対応という点で示唆するところが大きい。これを機に権限配分のあり方が的確に見直されなければ、苦しむのはまたしても国民であるだろう。 続きを読む »

編集後記 2021年2月号

【編集後記】 大学入試の会場でマスクを鼻の下に下げていて注意された40代の受験生が指示にしたがわなかったために退去を命じられ、トイレに立てこもったところを駆けつけた警官に逮捕されるという事件が起こりました。係員の過剰なマスク信仰と教条主義にはあきれるしかありません。恐怖と不寛容が日本社会を蝕んでいます。健全な社会を築くことが為政者やマスコミの使命であるはずですが、現実はぎすぎすした人間味のない社会に変容しつつあります。
次号は藤原帰一氏「大統領選挙後のアメリカと世界」、津上俊哉氏「2021年中国と米国の行方」、庄司克宏氏「ブレグジット後の英EU関係の展望」を掲載予定です。

経済倶楽部講演録2021年2月号 No.864

2021年2月号目次

菅政権は何を目指すのか
時事通信社解説委員 山 田 惠 資

2020年米国大統領選挙考察
―アメリカは何を選択したのか?
慶応義塾大学総合政策学部教授 中 山 俊 宏

2021年日本経済の展望
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所長
嶋 中 雄 二

コロナ問題の本質とコロナを超える視座
(一財)日本総合研究所会長  寺 島 実 郎

〔談話室〕感染防止と人権  柴生田 晴四
〔会員の広場〕ジャズの曲名・和訳の妙  安 間 孝 信

経済倶楽部便り
読 書 通 信(No.192)
バックナンバーのご案内/編集後記

談話室2021年1月号

映画雑感13 柴生田   晴四

読書通信 2021年1月号

■ 昨年取り上げた47冊の中からベストテンを選んでみた(○数字は月号)。まず檀乃歩也『北斎になりすました女』⑤全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』⑥濱田研吾『俳優と戦争と活字と』⑩は「この年の3冊」の原稿を某紙から頼まれて挙げた秀作である。劣らず池辺晋一郎『音楽ってなんだろう?』④松原始『カラスは飼えるか』⑦もいい。子どもや孫が大事な人には新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』①後藤道夫『子どもにウケる科学手品ベスト版』②を、硬派では毎日新聞取材班『公文書危機』⑦石井妙子『女帝 小池百合子』⑧が出色。あと1冊、石井一『冤罪』④は異色の角栄本だ。
■ 日本にとっての最大の問題の一つは国と地方の関係であると思う。それは単に地方分権を進めればいいという話ではない。片山善博『知事の真贋』文春新書、880円)はそのことを考える最良の手引きであり、見事な論考である。鳥取県知事や総務相を経験した著者はこの問題を両側から論じるに最適の一人と思う。
論点はパンデミックへの自治体と政府の対応で、小池都政、吉村府政など遠慮なく切り込んでいる。政府も厳しく批判されるが、もとより気楽な政治批評などではなく、法令解釈や予算、知事権限など地方自治の根幹に関わる部分を詳細に解説して説得力十分だ。脆弱な地方自治に住民としてどう向かい合うか、大いに刺激になる。政府の司令塔に著者のような人が加わっていればこれほど無残な感染対応にはならなかったろうが、政権はこういう人は煙たいのだろう。 続きを読む »